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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 705 GT戦事件簿 ②

2021年09月15日 | 1977 年 



荒川元コーチに「例のバッキーとの…」と電話で取材を申し込むと「いやもういいでしょう。あんな古い話を今さら」と断られた。時を経て " 事件の主役 " が例外なく示す反応だ。

優勝きめた昭和43年9月18日事件
" あの事件 " は昭和43年9月18日、甲子園球場の阪神対巨人戦で起きた。阪神は66勝50敗、巨人は62勝46敗のゲーム差なしで両軍が対峙していた。この日はダブルヘッダー。対戦成績は巨人が12勝10敗でやや優勢だが連勝した方が単独首位に躍り出るペナントの行方を左右する大事な決戦だった。午後4時31分に第1試合がプレーボール。結果は村山投手が巨人打線を完封して2対0で先勝した。阪神の2点は両軍無得点の9回裏に辻佳選手が堀内投手から奪ったサヨナラ2ラン。興奮したファンがグラウンドに入り辻選手に抱き着くハプニングがあった。ドラマチックな幕切れは否が応でも両軍ナインの気持ちを高ぶらせた。

午後6時54分、第2試合が岡田球審のプレーボールの掛け声で開始された。先発投手は阪神・バッキー投手、巨人・金田投手。巨人は早くも初回に1点を先取し、4回表にも4点を追加しリードを広げた。味方のエラーでピンチを招き失点したバッキーは完全に頭に血が昇っていた。打席には王選手が入り、その初球は頭部近辺で王はのけぞり捕手の辻は逆シングルで捕球した。続く2球目は腹部あたりを通る完全なボールで今度は辻のミットにかすらず後方へ。さすがの王も1歩2歩マウンドへ近づき「ジーン(バッキー)、あんな球は投げたらダメだよ」と文句を言った。するとバッキーは「わざとじゃない。2球ともサイン通りのスライダーだ」と応じた。

苦笑いで打席に戻る王。その時だった。三塁側ベンチから荒川コーチが飛び出して来た。荒川にしてみれば愛弟子のピンチと思ったのであろう。マウンドに駆け寄った荒川は王の敵討ちとばかり左足でバッキーの腰のあたりを蹴り上げた。蹴られたバッキーも応戦し、グローブをはめた長いリーチが荒川の顔面にクリーンヒットし荒川の額を切り裂いた。一瞬ひるんだ荒川だったが最後にもう一太刀をと襲いかかった。それをかわしたバッキーは今度は右ストレートを炸裂させた。荒川は合気道の達人だが1㍍90㌢の大男相手では接近戦の不利は明らかで返り討ちに。両軍選手がマウンド付近で揉みあっている間に審判団が割って入りようやく乱闘は収まった。


その直後、王が頭部にデッドボール
試合中断20分余、もちろん荒川とバッキーは退場処分に。球場内の阪神ファンは総立ちで「王退場!」を叫んでいたが王にはお咎め無しだった。だが王にとっては退場した方が良かったのかもしれない。空き缶や瓶がグラウンドに投げ込まれる中、王が再び打席に入った。マウンド上には権藤投手がいた。ボールカウント1ー3からの5球目が王の後頭部を直撃し、その場に昏倒した。今度は金田がベンチから飛び出し「この野郎、わざとぶつけやがって」と辻に迫る。阪神ベンチからは江夏投手も飛び出し、ウェーティングサークル付近にいた国松選手と揉みあいに。再び乱闘かと思われたが次打者の長嶋選手が両軍選手を制して事なきを得た。

担架に乗せられた王は警官隊に守られて救急病院へ搬送された。まだ騒然とする場内。一塁走者に代走の国松が送られ試合再開し迎えるは長嶋。小競り合い中に右足かかとを踏まれた権藤投手が痛みをこらえて投じた球を長嶋のバットが一閃すると打球は左中間スタンドに突き刺さった。これがダメ押しとなり試合は2対10で阪神は敗れ、再び両軍ゲーム差無しに戻った。荒川は前頭部を4針縫う裂傷で全治10日。頭部打撲の王は20日の中日戦を欠場しただけで復帰。バッキーは右手親指の付け根を骨折し全治3ヶ月の診断を受けたが完治後も元通りの投球は出来ず投手生命を絶たれる結果に。村山・バッキーの両エースで優勝という阪神の狙いは潰えた。

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