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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 729 週間リポート・クラウンライターライオンズ

2022年03月02日 | 1977 年 



鬼頭はんて魔術師か?
開幕以来、鬼頭監督の采配が冴えに冴えている。開幕ゲームの日ハム1回戦は高橋直投手に抑えられて負けた。すると鬼頭監督は早くも " 基・吉岡 " の一・二番を逆に入れ替えた。これが功を奏したのか2戦目を勝利し、続く3戦目は基選手が大当たり。初回、吉岡選手が倒れた後、内野安打で出塁した基がすぐさま二盗・三盗すると土井選手の適時打で先制点。更に6回には左前安打で出塁すると再び二盗に成功。すると今度も土井が2ラン本塁打を放ち追加点。いずれも二死後での土井の打席であったので、もし基が一番のままだったら得点になっていなかったであろう。しかも3戦目はこの3点だけで勝利したのだから基の二番起用は大正解だった。

これについて鬼頭監督は「もともと『一番・基、二番・吉岡』だったのを開幕戦は逆にしたが2人ともシックリしていなかったので2戦目から元に戻しただけ」と淡々と説明するだけだった。実はこの2戦目ではもっと大胆な選手起用をしていた。捕手を西沢・楠城の両ベテランではなく若手の若菜選手を先発に抜擢した。若菜はプロ6年目だが殆どが二軍暮らしで一軍半といった感じの選手だ。そんな若手を初戦で完敗した後に起用したのだから、もし失敗すれば非難の矢面に立たされるのは必至だった。スタメン発表で『捕手・若菜』と場内アナウンスされるとスタンドから「エエーッ!!」と驚きの声が上がった。

ところが30分後には驚きの声が大歓声に変わっていた。3回一死満塁のチャンスで若菜が高橋一投手のカーブをすくい上げて左翼席に満塁アーチを放った。しかしこの時も鬼頭監督は「オープン戦最終戦で若菜は活躍したしツキを持っていた。西沢の右肩の調子が悪く若菜を使っただけ。むしろ若菜に期待していたのは強肩の方だったのでホームランは想定外でした」と若手起用の成功を称える報道陣にまたも肩透かしを喰らわせた。二度あることは三度あるというが、三度目の選手起用が的中したのはロッテ戦だった。昨季の首位打者である吉岡をスタメンから外し、オープン戦で一度も二塁を守っていない基を二塁で先発起用した。

遊撃には広瀬選手を初起用し二番に据えた。そしてこれがまたもやバッチリ成功したのだから鬼頭監督の眼力は恐ろしい。二番に入った広瀬は3回に山村善選手を二塁に置いて先制適時打したばかりか5回にも一死二塁の場面で中前適時打を放つ活躍を見せた。だがまたしても鬼頭監督は「私は調子の良い選手から使うという方針を貫いたままです。基の二塁起用は11年もやってきたポジションだから、少しばかり練習をしていなくても大丈夫ですよ」とアッサリしたもの。作戦成功を誇りたがる監督さんが多い中で鬼頭監督のこの徹底した冷静さはやっぱり " 年の功 " とでも言えば宜しいのかと。


5連敗救ったヤングパワー
連敗ストッパーはヤングパワーだった。開幕前に今季は最初の15試合に賭けると明言していた鬼頭監督だったが初遠征の近鉄戦で3タテを喰らって4連敗を喫した。これ以上負け続けるとフロント陣も何かしらの手立てが必要になるところまで追い詰められた対ロッテ戦(後楽園)。選手も首脳陣も「何が何でも勝たなくては」と意気込んだが、えてしてそういった時は空回りするもので先発した山下投手が初回から1失点、4回にも2失点して0対3の劣勢状態に。打つ方も田中投手に4回まで無安打に抑えられ5連敗は時間の問題と思われた。

ところが打線が突然目覚める。先頭打者の大田選手が左前安打、竹之内選手がアンダースロー投手に対してセオリー通りの流し打ちで右前安打で続くと山村善選手が送りバントをしたが、幸運にも内野安打となって無死満塁とチャンスが広がった。だが楠城選手は三振に倒れ一死満塁に。次のロザリオ選手はアンダースロー投手を苦手としていて鬼頭監督は代打を告げる。アンダースロー投手に相性の良い左打者がベンチには鈴木治選手と長谷川選手の2人がいたが「どちらでもよかったが鈴木の方が良さそうだと閃いたもんだから」と鬼頭監督は鈴木を選び、打席に向かう鈴木に「お前しかいないんだ。そのつもりで行け」とハッパをかけた。

鈴木は初球を打つと打球は舞い上がり右翼スタンドに飛び込んだ。鮮やかな代打逆転満塁本塁打。打球がスタンドに消えるのを見届けた鈴木は「やれやれ何とか格好がついたわい」と安堵した。この試合にはもう一人の殊勲選手がいた。4回裏一死三塁の場面でリリーフしてピンチを防ぎ、打者20人を2四死球のみの無安打に抑えた永射投手だ。永射は前日まで二軍にいた。それも二軍が遠征先に向かう途中の博多駅で急遽一軍行きを告げられた。永射は「どうせこのまま負けそうだし自分に責任はないから」と緊張せずに気楽に投げていたら好投してしまった。竹田投手や古賀投手が故障で離脱しているだけに永射の存在は大きい。


やはり大器!続けざまに2発
金の卵だった立花選手がどうやらヒナになったようだ。5月9日に平和台球場で行われたウエスタンリーグ対南海4回戦の7回裏二死一塁の場面で南海三番手の浜名投手が投じたベルト寄りの速球を右中間スタンドにライナーで叩き込んだ。この試合では4打数3安打、本塁打の他に二塁打も放った。二軍戦では常に三番を打ち、開幕前のパ・リーグのトーナメント大会では最優秀選手に選ばれるなどそれなりの成績を残してきたが、出場11試合で本塁打がゼロだった為に長打力が物足りないと言われていた。だがそうした懸念を払拭するかのような一発だった。更に翌10日の対南海5回戦でも松尾投手から右翼ポール直撃の2試合連続本塁打を放った。

「内角球は甘いとホームランになってしまう。外角中心に攻めろ」と南海二軍首脳陣は投手に指令を出したが、立花は少しも慌てず外角球を悠然と見送って四球を選んで出塁したり真ん中寄りの甘い球を見逃さず痛打するなど、およそ新人離れした貫禄を示した。しかも試合後のコメントが心憎い。「打てる球だと思ったら思い切り振り切るようにしています。僕なんかまだまだ投手と駆け引き出来る選手ではないですから無心で打つだけです。やっとホームランが出ましたが、出てみると案外簡単なものでした」とこれが高校を出たばかりの若者の言うセリフだから、野球の腕前もさることながら心臓の方もピカイチだ。

中西・豊田以来の大型新人とあって地元の立花人気は凄く、とある二軍戦には女性ファンが100人以上も集まり「立花さ~ん」「頑張って」など黄色い声援が飛び交った。「ハイ、嬉しいです」と素っ気ない立花だが坂井球団代表は「実力・人気ともに兼ね備わった稀に見る大器ですよ。1年目ですよ、しかも高校出で」と手放しの惚れ込みようだ。和田二軍監督も「我々がいくら鍛えようとしても本人にその気が無く嫌々練習したって力はつかない。その点でも立花は実に熱心。こんな新人は珍しい」と絶賛する。

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