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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#294 銭闘開始

2013年10月30日 | 1982 年 



江夏 豊(日ハム)…広島からトレードで東京に越して来て2年、借家暮らしを続けてきた江夏が東京・世田谷に1億数千万円を投じて新居を購入した。大枚を叩いたからにはそれ以上のモノを手に入れる必要がある。いよいよ球界注目の契約更改が始まるが昨年に山本浩(広島)に譲った球界最高年俸選手の座を奪取する算段だ。チームは連覇を逃したが自身は8勝4敗29Sをマークし通算200勝も達成するなど充実した1年だった。山本浩とは3百万円差の6千2百万円が幾らまで増えるのか注目されるがマスコミ予想では7千5百万円が相場となっている。

「もし球団がガタガタ言うようだったら判は押さんよ」と宣言する江夏の目標は球界初の1億円プレーヤーだ。「金額に拘るのは自分の為だけじゃない。後に続く後輩らの為にもワシら年寄り連中が体を張って球団とやり合わんとならんのさ。本当なら王さんがとっくの昔に1億円を超えてなきゃならんかったのに、人が良い王さんは球団の言いなりだった。損な役回りさ」と胸中を吐露する。

東京に家を構えたと言っても「やれてもあと2~3年、欲しいと言われればどこへでも行くつもり」と日ハムに骨を埋める気はサラサラ無いが日ハムは当然の事ながら来季のV盗りを江夏の左腕に託す。先発から不死鳥の如く蘇り日本一の火消し男にのし上がった。そんな江夏のもとには早くも各マスコミから評論家や解説者の依頼が殺到しているという。「投げる事しか能の無い男にそんな依頼は名誉な事だが今は1日でも長くマウンドに立ち続けたい」と現役に固執している。新居に腰を据えた孤高の勝負師の目は既に来季を見つめている。



掛布雅之(阪神)…神戸で1日税務署長を務めた際に「プロ野球選手は若くても働きさえすれば同年代の会社員よりも多い収入を得る事が出来ますが実働年数は束の間です。ですから稼げる時に大いに稼いで積極的に納税したい」と語り、集まった聴衆との質疑応答で「来季の年俸は幾ら位を狙っていますか?」の問いに「今は具体的に●●円とは言えませんが2~3年のうちに1億円を貰う選手になりたい」と答えると大きな拍手を浴びた。今季は本塁打と打点の二冠に加え地味ながら最多出塁のタイトルを獲得し名実ともにセ・リーグを代表する選手になり年俸の大幅アップは確実だ。

今季の年俸は3千6百万円で2年前までトップだった小林投手の上を行く。下馬評では来季は5千万円は確実で6千万円にどれだけ近づけるかが焦点となっている。来季の活躍次第では一気に球界ナンバー1の座に躍り出る可能性もある。しかし掛布の目は遥か遠くを見定めていた。「アメリカじゃ複数年契約や出来高払いなど日本では考えられない年俸システムが存在している。今すぐには難しいだろうけど、いずれはそんな大型契約を結んでみたい」と大変な鼻息で野望を語った。

近い将来、掛布を一塁へコンバートしようとする話がベンチ裏では進行しているという。やがては衰えてくる肩を見越して負担の少ない一塁で打撃に専念させようという訳だ。二塁・真弓、三塁・岡田、遊撃・平田と共に夢の内野陣を完成させるのが安藤監督による阪神黄金期計画案だそうだ。「三塁には人一倍愛着があるので今すぐのコンバートは考えられないけど一塁手で1億円プレーヤーも悪くない」と本人も満更でもないようだ。




東尾 修(西武)…今日は東でパーティー、明日は西でゴルフコンペとバラ色のオフを満喫している。シーズン成績は10勝11敗1Sと満足のいくものではなかったが日本シリーズでのMVPでまさに有終の美を飾った。プロ入り14年目で初めて手にした「名誉」だった。確かに最多勝のタイトルを獲った時も周囲から祝福されたが今回の反応は今まで経験した事がない名誉を感じるものだった。「オフがこんなに楽しいものだと初めて分かった。やっぱり勝負事は勝ってこそ価値があるんだね。一度こうした経験をしてしまうと来年も…と欲が出る」 11月29日には10年間プレーした福岡に里帰りして各テレビ局を走り回り、12月2日に博多の西鉄グランドホテルで開催された祝賀パーティーに出席し改めて日本一の喜びに浸った。

ひょっとしたら今頃は歓喜の輪から外れて同僚を眺めていたかもしれなかったのだ。前期優勝争いの真っ只中の6月初旬、某セ・リーグ球団との交換トレード話が持ち上がっていた。勝ち星こそ稼いでいたが完投数は減り安定感も欠ける内容に信頼度は低かった。そんな時にトレードを申し込まれた首脳陣は一度は検討したものの結局は立ち消えとなり、東尾は後期終盤からリリーフ役に配置転換されて蘇った。

名誉を手にすると次には金銭欲も出てくる。「3千5百万円?冗談じゃないよ、俺は4千万円を譲るつもりはない」と今季の2千9百万円からの大幅アップを要求する鼻息は荒い。東尾も既に32歳と投手としては峠を過ぎようとしている年齢で、この先何年も第一線で投げられる保証はなく「貰える時にシッカリ貰っておかないと」と考えるのも無理はない。

タマエ夫人が博多で店を構えて商売をしている為、妻子を福岡に残しての単身生活も4年が過ぎる。娘の理子ちゃん(小1)は福岡で生まれ育って友達がいる福岡を離れるのを嫌がっているという。数年後には引退という人生の岐路に直面する事になる筈で家族が一緒に暮らしていくには東尾が福岡に帰るしかないであろう。一家の大黒柱として引退後の生活を家族に心配をさせる訳にはいかない。その為にも当面の生活費としてある程度の蓄えを確保しておく必要がある。ここ数年、必ずトレードの噂が飛び交って不安なオフを過ごして来たが今年は腰を据えて年俸交渉に臨めそうだ。

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