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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 850 サダハル・オー ①

2024年06月26日 | 1977 年 



先日、大リーグコミッショナーのボウイ・キューン氏が「大リーグ組織外のサダハル・オーがハンク・アーロンが持つ通算755本塁打記録を抜いても世界一とは認めない」と発言して注目された。アメリカの選手や国民の王選手に対する評価はどうなのだろうか?

王は神様、日本の最高の人気者
アメリカで最も著明なスポーツウィークリー誌「スポーツイラストレイテッド」8月15日号に王選手の特集が掲載された。それによるとミスター・オーが日本で最高の英雄にのし上がった理由は2つある。1つはバッティングフォームの特異性。2つ目はオーに優る人気者がいないことだという。「日本でのプロ野球は絶対的なものだ。バスケットもフットボールもプロ組織はない。有名なプロボクサーやテニスプレイヤーもいない」というわけだ。「和製ロバート・レッドフォードもいない」と芸能界にも王を超える人気スターがいないことを、いかにもアメリカ人らしくユーモラスに表現している。

この特集記事を書いたフランク・デフォード記者は6月下旬に来日すると一週間にわたり神宮球場、後楽園球場で巨人戦を観戦し、王選手や一本足打法の師匠である荒川博氏にインタビューする傍らライト投手(巨人)やロジャー選手(ヤクルト)などを取材した。神宮球場のヤクルト戦では会田投手から通算742号を放ちハンク・アーロンが持つ記録更新まで14本となった。昨年の7月に樹立した大リーグの金字塔が半年足らずで王選手に塗り替えられるのだからデフォード記者もアメリカ国民も快いはずはない。「日本の野球の歴史はまだ100年余り。体のちっぽけな男が我々の国技を追い抜くだなんて考える方がバカげている」と正直にジェラシーを吐露する。


王へのビーンボールは冒とくだ
なぜ王選手の代名詞でもある一本足打法を崩す為のブラッシュボールを投じないのかというのが大リーグの投手たちの疑問だ。現在の大リーグでは頭を狙ったビーンボールは禁止されているが、実際にはビーンボールまがいのブラッシュボールを投じる投手はいる。投手のテクニックのひとつであるブラッシュボールをなぜ使わないかという疑問も頷けるが、デフォード記者は「そもそも日本ではブラッシュボール自体容認されていない。人気者のサダハル・オーにぶつけたら彼に対する冒とくで大変なことになる」と解説し、「それほどサダハル・オーは日本人にとって代替の効かない唯一無二の存在なのだ」と力説する。

デフォード記者は王選手に対する印象を「飛びぬけてハンサムでもないが人懐っこい顔だ。後で分かったことだが実に模範的な性格の人だった」と語っている。この特集号の中では長嶋監督についても触れているが「ハッとするくらハンサムガイ」と王選手と対照的に描かれているのが面白い。その長嶋監督は王選手を「一言で表すなら非常に親切なジェントルマン。いつもチーム全員のことを考えている選手で和製ベーブルースだ」と評する。かつて巨人軍に在籍していたデーブ・ジョンソン選手(フィーリーズ)は「ミスター・オーはスーパーガイだ。私の知る限り彼以上にハードな練習をする選手はいない」とコメントしている。


98%は王と巨人に味方している
日本における巨人軍の独占的人気ぶりからデフォード記者は巨人の武勇伝は庶民文化のバロメーターと穿った見方をしている。巨人人気が垂直降下すれば大半の日本国民の最もシンボリックな失敗になり、人々は球場に駆けつけて気の毒な長嶋監督や王選手に必死に声援を送る。長嶋監督1年目の最下位になった時がまさにそうであったと指摘する。王選手個人も33本塁打と不振続きで連続本塁打王のタイトルも途絶えた。励まされた巨人軍は翌年は優勝し、王選手も49本塁打・123打点・打率 325 と復活を遂げた。この記事の中で注目されるのは判定が微妙な時は98%までが巨人や王選手に味方すると書いている事だ。

王選手とチームメイトのライト投手は来日前に巨人軍の投手として投げればストライクゾーンが広くなると言われたが、今これを素直に認めている。それを踏まえてデフォード記者の見解は次のようになる。「日本人が権威者を尊敬するのは勿論で野球の審判員も権威者に属する。彼らも調和を大切にする日本人の特性で難しい判定を下す時に巨人を勝たせたいファンに同調する傾向が強くなる。ミスター・オーも以前、『僕は4ストライクが許されている』と語ったことがあった。つまり三振ではなく四振だったということ。ただし現在ではその発言は否定しているがミスター・オーの輝かしい記録に影を差しかねない」
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