面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「イン・ザ・ヒーロー」

2014年09月16日 | 映画
下落合ヒーローアクションクラブの代表・本城渉(唐沢寿明)は、ヒーローや怪獣などのスーツや着ぐるみを着てアクションを演じる、スーツアクターを続けること25年。
撮影所では人望も厚く、業界ではアクション俳優の第一人者として有名人だが、世間一般には知られていない。
長年の激しいアクションで満身創痍。
痛めた首は、ドクターストップがかかるほど“重傷”なのだが、それでもいつの日か顔を出して出演し、キャストの一人として名前を連ねることを夢見て、撮影にヒーローショーにと、仲間と共に汗を流す日々を送っていた。

そんなある日、戦隊ヒーローの劇場版作品に、顔を出せる役のオファーが飛び込んできた。
別れて暮らす一人娘や元妻に喜んで報告したが、土壇場で変更になり、若手イケメン俳優として売り出し中の一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)に取って代わられ、またしてもスーツアクターとしての出演にとどまる。

がっかりする本城だったが、リョウのマネージャー(小出恵介)から、ハリウッド映画のアクション大作のオーディションを受けるリョウにアクションを教えてやってほしいと頼まれる。
リョウはハリウッド進出を熱望し、国内もののヒーロー映画に出ること自体に不満を抱いていて、ふてくされた態度をとっていた。
互いに嫌々ながら師弟コンビとなった二人だったが、本城はリョウがハリウッド進出に拘る理由を知り、リョウも真のアクション俳優の姿に目覚め、硬く結束していく。

そしてオーディションに合格したリョウは、念願だったハリウッド進出の足掛かりを得て、大作「ラストブレイド」の日本ロケに加わった。
しかし、出演予定の有名アクションスターが、あまりにもアクションが危険過ぎるとして降りてしまう。
脚本を変更して日本ロケ自体を無くしてしまおうとする空気が強まるが、日本側ラインプロデューサーの石橋(加藤雅也)は、代わりを務めることができる“本物のアクション俳優”が日本にいると主張して踏みとどまらせ、本城にオファーするのだった。

思いもよらぬハリウッドからのオファーに喜ぶ本城だったが、あまりにも危険過ぎるスタントに周囲は猛反対。
しかし本城は言う。
「俺がやらなきゃよ、誰も信じなくなるぜ。アクションには夢があるってことを。」

かくして本城は、ワイヤーやCGも無く、8.5mの高さから落下し、身体を炎に包まれながら100人の忍者を斬るという、前代未聞の命を賭けたアクションに挑む……


肉体を酷使し、通常のアクションには無いような特殊技能を必要とするスーツアクター。
彼らは表舞台に立つことはないが、特撮やアクションものの映画・ドラマに欠かせない存在である。
そんなスーツアクターにスポットを当て、その熱い生きざまを描く。

主演の唐沢寿明は若い頃、東映アクションクラブに所属して、実際にスーツアクターを演じていた。
今では、顔出しはもちろん、アクションの無い役で主演も張る人気俳優として確固たる地位を築いているが、今回のオファーを受けて身体を鍛え直し、本格的なアクションの練習を積んだという。
自身の自伝的要素もあるからかもしれないが、この役にかける思いが伝わってくる好演に、スクリーンの中へのめり込んで観ていた。
実際に8.5mのセットから落下し、身体に炎を燃え移らせながら100人の忍者を倒していくクライマックスシーンは圧巻。
張り詰めた空気を漂わせて衣装部屋で白い忍者装束に身を包み、応援に駆けつけてくれた仲間や、いつも目をかけてくれている大俳優を従えてセットに入ってくるクライマックスの冒頭場面のカッコ良さには胸が熱くなった。

“仮面ライダー出身”である福士蒼汰のアクションも堂に入ってるが、撮影当初はその身のこなしが唐沢から見ればまだまだ未熟だったようで、実際にアクションや殺陣を教え込んだという。
唐沢寿明や寺島進のスーツアクターとしての経験と併せて、物語と現実とが絶妙にリンクすることで、生き生きとして真に迫った仕上がりになっている。

“その他大勢”の斬られ役を長年に渡って演じ、映ハリウッド大作「ラストサムライ」のオファーを受けて大きくクローズアップされ、今や主演作もある俳優となった福本清三氏のこともダブって見える本作。
“平成の蒲田行進曲”的な、一途で熱い男の熱い生きざまに胸が熱くなる、ヒューマンドラマの快作!


イン・ザ・ヒーロー
2014年/日本  監督:武正晴、アクション監督:柴原孝典
出演:唐沢寿明、福士蒼汰、黒谷友香、寺島進、日向丈、小出恵介、加藤雅也、及川光博、和久井映見、杉咲花、松方弘樹


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