面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「かずら」

2010年02月27日 | 映画
とある建築設計会社の山梨支社に勤める森山(三村マサカズ)は優秀な建築士。
しかし彼は、いわゆる「若ハゲ」に悩まされていた。
髪の毛が薄いことを気にするあまり、いまひとつ積極的になれず、どことなく自信無さげで、いつもオドオドとしていた。

ある日森山は、設計の腕を見込まれて、東京の本社での大型プロジェクトのメンバーに抜擢される。
そしてのこの転勤を機に、“悩み”を解決することを決意。
見知らぬ街で遭遇したナゾのかつら屋・大和田(大竹一樹)を頼りに、新たな人生のスタートを切った。
しかし、“悩み”を解決して張り切って臨んだ新天地で、今度は自分がかつらであることがバレないかどうかに神経を使わざるを得なくなり、新たな苦悩を抱えることになってしまった。

そんな森山に再び転機が訪れることに。
新たなプロジェクト・メンバーとして、美しい若い女性スタッフの牧田涼子(芦名星)が加わったのである。
涼子とコンビを組んで都市空間設計プロジェクトを進めることになった森山は、必然的に二人だけで行動することが多くなり、いつしか親密な間柄へと進んでいく。
しかしやはり自分の“頭”が気になって、彼女に対して積極的になれず…

せっかく深まってきた涼子の愛情を、森山はうまく受け入れることができない。
それはひとえに、自分の頭髪の薄さに起因するコンプレックスからなのだが、観ていて歯がゆいことこのうえない。
そしていよいよ、結婚するためには自分の秘密を打ち明けるしかないと決心し、涼子に告白するのだが、“自分は頭髪が薄い”という事実を正確に伝えられず、逆に森山には結婚する気が無いのだと涼子に誤解を与えてしまう。
「そんな、ハゲぐらい何やねん!ホンマに好きなんやったらハッキリ言うたらエエやないか!」
と画面に対して叫びたくなるほど、イライラが頂点に達する場面だが、ここでふと思い直した。
涼子に対する思いが強ければ強いほど、自分がハゲであることを理由に彼女が去ってしまうことに耐えられないだろう。
そしてそれが心の奥底にある限り、自分のハゲを堂々と告白できないのである。
人生の岐路となる重要な場面でさえ真実を告げられないほど、頭髪の薄さというコンプレックスは、それを抱える人にとって重いものなのではないだろうか。

そんな森山の姿に、思い出したのは会社の同期の友人のことだった。
まだ“若手社員”と呼ばれていた入社5年目のこと。
全国の入社5年目社員を集めて約1ヶ月間実施される研修があった。
そして自分が所属したクラスでは、毎日ひとりずつ自己紹介する時間を持った。
「自己表現」と名づけられたそのカリキュラムにおいてその友人は、自ら頭髪が薄いことを告白し、自分でかつらを披露したのである。

クラス全員が度肝を抜かれたのは言うまでもない。
しかし彼の行為は皆の心に響き、他のメンバーによる更なる“カミングアウト”を呼ぶこととなった。
そしてこのことは、クラスの結束力を強固にしたことは間違いない。
その後再び全国に散らばったクラスのメンバー達が、それから10数年経った今も連絡を取り合える状況にあるのは、ひとえに彼の「自己表現」のおかげである。
映画のエンドロールを眺めながら感慨にふけっていた。
改めて彼の勇気と突破力に敬意を表したい。

本作は、「さまぁ~ず」の三村マサカズと大竹一樹の初主演作品。
冒頭からの三村の演技が、妙にぎこちない感じがしたが、頭髪へのコンプレックスから自信なさげに振舞う森山の役柄にしっくりと納まっていく。
マジメな顔でギャグをかましてくる大竹は、コント同様の絶妙の間合いと雰囲気を醸し出していて映画に妙味を加えて笑える。

ビートたけしの「みんな~やってるか!」における大失敗や、松本人志の「大日本人」における“ヒーロー・ファミリー”のグダグダさのように、普段のコントや漫才での面白さが映画の中に活きてこないケースは多い。
「かずら」も、オープニングから大竹が登場してくるあたりまで、さまぁ~ずのコントを見ているような気分になったが、大竹の繰り出すボケが、物語の中にうまく溶け込んでいて、映画として違和感が無い。
全体として「大規模なさまぁ~ずのコント」みたいな作りと言えるが、スクリーンで違和感なく観ることができるのは、福田雄一の脚本と、塚本連平の監督としての手腕とが成せるワザである。
自分自身が“お笑い”を演じるのではない二人だからこそ、客観的にギャグを処理し、物語の中へとはめ込むことができているのだろう。
この二人の次回作にも注目してみたい。

予備知識無く訪れた劇場で、思いがけず出会えた佳作。


かずら
2009年/日本  監督:塚本連平
出演:三村マサカズ、大竹一樹、芦名星、ベンガル、井森美幸、田中要次、正名僕蔵、酒井敏也、載寧龍二、丘みつ子、麿赤児


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