面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「つむじ風食堂の夜」

2010年02月28日 | 映画
ある日「私」(八嶋智人)は、夕食をとるために、月舟町にある「つむじ風食堂」に入った。
そこは、風変わりな常連が集まる店だった。

「二重空間移動装置」と言う名の万歩計を持ち、食堂にいながらにしてコペンハーゲンに自分はいる、という不思議な話をする帽子屋の桜田さん(下條アトム)。
眉間のしわが気になる売れない舞台女優の奈々津さん(月船さらら)。
宇宙の果てについて思いをめぐらせる果物屋の青年(芹澤興人)。
古本屋「デニーロ」の親方(田中要次)。
今は亡き父親(生瀬勝久)が手品師だった「私」も、雑文を請け負って生計を立てながら、人工降雨の研究をしているのだから、そもそも「つむじ風食堂」の常連になるべくして店にやって来たのかもしれない。

「私」は、初めて出会った帽子屋さんの「二重空間移動装置」になんとなく魅了され、その“万歩計”を購入する。
ここではない、どこか遠くへ向かって。
ごく平凡な「私」の心に、小さな風が吹いた…

依頼を受けた原稿を書くため、「唐辛子千夜一夜奇憚」という本を、古本屋の親方から購入する。
そして宇宙の果てについて思いを巡らせる果物屋の青年を見て、かつて自分も、宇宙の謎について一晩中考えていたことを思い出す。
人生に課されたテーマについて真剣に取り組んでいた時期があったはずなのに、今は唐辛子のことを考えている。
そんな「私」に帽子屋さんは、「それが歳をとったということじゃないか」と語りかける…

「私」は、学生の頃に芝居の脚本を書いたことがあった。
今となっては、「このうえ、どこまで行こうというのか」という一節しか思い出せないのだが、この脚本のことが奈々津さんの耳に入り、彼女から自分を主人公にして脚本を書いてほしい!と依頼される。
実家に帰った「私」は、引退後に父が書いた小説を発見した。
「種も仕掛けもございません」という一行だけで、小説は終わっていた…

子供の頃に夢見ていた未来。
そこに描いていた姿こそが、本当の「あるべき自分」なのかもしれない。
歳をとるほどに“現実”の中へ埋もれていく“自分”。
学生としての生活が最後となる大学4年生のとき、就職活動という行動を通して“現実”と“自分”は同化し、漠然と陽炎のように残っていた“夢”を封印した。
それは同時に、「あるべき自分」を心の奥底へと封じ込めることだったのかもしれない。
自分の来し方について、そんな風に考えながら帰路に着いた。

原作は、吉田篤弘のロングセラー小説。
ほわわ~ん、と心が温かくなる、大人のためのノスタルジックなファンタジー。


つむじ風食堂の夜
2009年/日本  監督 : 篠原哲雄
出演:八嶋智人、月船さらら、下條アトム、スネオヘアー、田中要次、芹澤興人、生瀬勝久


最新の画像もっと見る

コメントを投稿