面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「小川の辺」

2011年08月24日 | 映画
海坂藩士、戌井朔之助(東山紀之)は、直心流の使い手としての腕を買われ、家老の助川権之丞(笹野高史)から、ある藩命を受ける。
それは、親友である佐久間森衛(片岡愛之助)を討つこと。
佐久間は、藩の農政を痛烈に批判したことから謹慎処分を受けたが、妻の田鶴(菊池凛子)を連れて脱藩していたのだ。

真の忠義心を持ち、民を思うあまりに正面切って正論を訴えた親友を斬るのは忍びない朔之助だったが、彼にはこの藩命に対する忸怩たる思いを抱くもう一つの理由があった。
それは、田鶴が実の妹であること。
幼い頃から負けん気が強く、自身も直心流の使い手である田鶴は、武士の妻として手向かってくるに違いなかった。
父の忠左衛門(藤竜也)は、戌井家の家長である朔之助に対して、妹を斬ってでも主命に従えと諭す。
しかし母の以瀬(松原千恵子)は涙を流して悲嘆にくれる。

戌井の家を守り、武士としての義を貫くために、妹の夫を討つという主命を果たさんと定めた朔之助は、気丈に振る舞う妻の幾久(尾野真千子)に見守られながら、幼い頃から兄弟のように育ち、田鶴への想いを秘めた奉公人、新蔵(勝地涼)とともに江戸へ向けて旅立つ。
やがて下総で見つけた佐久間の隠れ家は、兄妹と新蔵が幼い頃に遊んだような、小川の辺にぽつんと佇んでいた…


封建社会の“理不尽な仕組”に翻弄されながらも、懸命に生きようとする人々を描いて人気を博す時代劇作家・藤沢周平の短編「闇の穴」を原作として映画化。
「義」と「情」の間で揺れ、懊悩しながらも、心を強く持って凛として生きる登場人物たちの姿が心を打つ。

ダンスで鍛えた姿勢の良さが、所作や殺陣でも奏功している東山紀之がカッコいい。
歌舞伎役者である片岡愛之助の佐久間森衛に対するハマりっぷりは言うに及ばず。
“怖すぎる”菊地凛子の田鶴を想う新蔵・勝地涼の、頼りなさの中に垣間見せる一生懸命な芯の強さは、二人が組み合わされば程よいバランスになるというものかと想像すると面白い。


小川の辺
2011年/日本  監督:篠原哲雄
出演:東山紀之、菊地凛子、勝地涼、片岡愛之助、尾野真千子