面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち-」

2011年08月30日 | 映画
2008年末から2009年初頭にかけ、イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区に侵攻、1400人にものぼる犠牲者が出た。
犠牲者の大半は民間人で、中でも300人以上の子供達が犠牲になったという。
アジアプレスのジャーナリストである古居みずえ監督はこの事実に衝撃を受け、攻撃直後の2009年1月に現地入りした。
そのとき、ひとりの少女に出会う。
焦点の定まらない泳ぐ目を見て衝撃を受けた監督は、子供の視線からガザの日常を描いていく。
取材を進める中で、ガザ南部の農業地帯であるゼイトゥーンに住む、一族が一度に29人も殺されたサムニ家の子供達に出会った古居監督は、彼らを中心にカメラを向け、目の前で家族や友達を失うという過酷な体験をしながらも、懸命に生きる子供達の姿を追い、パレスチナの現状を我々に訴えかける…


目の前で家族が兵士に射殺された、吹き飛んだ生首が膝の上に落ちてきた、横たわる遺体の中から両親を探し出した…。
登場する子供達は、我々の想像を絶する凄惨な体験を淡々と語る。
阿鼻叫喚の地獄の中を生き残った子供達は、心に大きな傷を負いながらも、親族やケアセンターのスタッフのサポートを受けながら懸命に前を向いて生きていこうとしている。
「何としても生きていこう」とするその強い生命力が胸を打つ。

ある女の子のセリフが印象的。
家族を殺されながらも、イスラエルに対して報復はしない、強い宗教心と教育で対抗するという達観と凛とした表情は、とても子供のものとは思えない。
「私は耐えてみせる」と力強く語る姿は心強い限りなのだが、その直前にポツリとつぶやく言葉は心に突き刺さる。
あの瞬間を逃さなかったカメラワークは、痛々しく悲しくはあるのだが見事。


ガザにはストリートチルドレンはいないという。
これは、子供が親を失い、兄弟を失っても、生き残った兄弟姉妹、いとこ、おじさん・おばさん、祖父母など、一族が引き取って新しい家族の絆を築いていくからだとか。
子供達は路頭に迷うことなく、大きな家族の中に包まれることで、再び生命力を取り戻していけるのだろう。
また、強い生命力を持つ子供達と共に暮らすことで、周りの人々も生きる力を得ているのではないだろうか。

震災における瓦礫の風景に、破壊されたガザの街並みがダブる。
復興に向けた大きなヒントが、パレスチナの風景の中にある。


ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち-
2011年/日本  監督・撮影:古居みずえ

関西では、大阪十三「第七藝術劇場」にて9月3日(土)より公開。
その後神戸「元町映画館」で10月公開予定の他、順次公開。