緒形拳さんが急死…先月末には元気な姿も(スポーツニッポン) - goo ニュース
追悼などとはおこがましいが、主演として非常に印象深かった「長い散歩」に改めて触れておきたい。
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定年まで高校の校長を務めた松太郎(緒形拳)は、妻(木内みどり)をアルコール依存症で亡くし、ひとり娘(原田貴和子)とも絶縁状態。
家庭を顧みなかった過去の自分を後悔しながら、安アパートでひっそりと暮らし始めたが、隣室の女・横山真由美(高岡早紀)が幼い娘・サチ(杉浦花菜)を虐待していることに気付く。
それ以来、何かと少女を気にかけていたが、ある日ついに惨状を見かね、彼女をアパートから連れ出し、旅に出た。
二人の間に、少しずつ生まれていく絆。
しかし世間は当然のことながら松太郎の行いを“誘拐”と見なし、真由美が捜索願を出したことで刑事(奥田瑛二)が捜査を始める…。
奥田瑛二がCMで緒形拳と共演した時に、多くの名作に出演してきたこの俳優のために何か作れないか…と思い立ち、数年の構想期間を経て完成させた作品。
モントリオール映画祭グランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の3冠を達成。
娘を虐待する高岡早紀の演技が圧巻。
自分の子供を虐待する親というのは、こんな感じなんだろうなと、見ていて背筋が寒くなる。
また娘役の杉浦花菜も、鮮烈な演技というにはあまりにリアルで、母子が暮らしているアパートでの虐待シーンは、見ていていたたまれない。
虐待を受け続けて心を開くことができなくなり、笑顔も消えていたサチとともに、「本当の空を見に行こう」と旅立つ松太郎。
虐待からサチを救うための旅は、自分自身の再生の旅でもあった。
松太郎は、娘の亜希子に対して厳しく接することしかできず、そのくせ家庭のことは妻の節子に“任せきり”という名の逃避により家族を顧みぬまま崩壊させた自分の過去を見つめ直す。
絶縁状態にある亜希子に手紙で懺悔するが、長年の確執から亜希子は松太郎を許さない。
旅の途中、周囲とのコミュニケーションがうまく図れずに家を飛び出し、旅をしている帰国子女のワタル(松田翔太)との出会いを通じて、サチは笑顔を取り戻す。
コミュニケーション不全を起こし、人生を誤っている大人達。
同級生達とのコミュニケーションになじめず、自分の居場所を見失っている青年。
実の親からコミュニケーションを拒否され、表情を無くしている子供。
この映画の登場人物達は、現代日本のコミュニケーション事情の縮図である。
また、サチを虐待する真由美も、自分の親からコミュニケーションを拒否されてきた過去を持つ。
愛情いっぱいに抱きしめられた経験が無いのに、自分の子供を愛情いっぱいに抱きしめることはできない。
結局、自分が親にされていたことを、そのまま娘にすることしかできない。
他にサチとコミュニケーションをとる術を知らない、分からないのだ。
児童虐待は連鎖すると言う事実が、真由美の思いに込められている。
悲しい虐待の連鎖が断ち切れることは、無いのだろうか…
本作を通して、改めて自分は幸せな人生を送ってこれたのだと確信した。
親はもちろん、周囲から愛情を注がれて育った子供時代。
その経験は、今、きちんと“還元”できているのだろうか。
観終わってから、じわじわとこみ上げてくる佳作。
緒形拳の代表作のひとつとなった。
本作の撮影時には、既に病魔に冒されていたことを思うと、改めて彼の凄さを思い知らされる。
奥田英二が彼のために作品を作りたいと思ったのも、もっともだ。
冥福を祈るばかり。
合掌
「長い散歩」
2006年/日本 監督:奥田瑛二
出演:緒形拳、杉浦花菜、高岡早紀、松田翔太、原田貴和子、奥田瑛二
追悼などとはおこがましいが、主演として非常に印象深かった「長い散歩」に改めて触れておきたい。
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定年まで高校の校長を務めた松太郎(緒形拳)は、妻(木内みどり)をアルコール依存症で亡くし、ひとり娘(原田貴和子)とも絶縁状態。
家庭を顧みなかった過去の自分を後悔しながら、安アパートでひっそりと暮らし始めたが、隣室の女・横山真由美(高岡早紀)が幼い娘・サチ(杉浦花菜)を虐待していることに気付く。
それ以来、何かと少女を気にかけていたが、ある日ついに惨状を見かね、彼女をアパートから連れ出し、旅に出た。
二人の間に、少しずつ生まれていく絆。
しかし世間は当然のことながら松太郎の行いを“誘拐”と見なし、真由美が捜索願を出したことで刑事(奥田瑛二)が捜査を始める…。
奥田瑛二がCMで緒形拳と共演した時に、多くの名作に出演してきたこの俳優のために何か作れないか…と思い立ち、数年の構想期間を経て完成させた作品。
モントリオール映画祭グランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の3冠を達成。
娘を虐待する高岡早紀の演技が圧巻。
自分の子供を虐待する親というのは、こんな感じなんだろうなと、見ていて背筋が寒くなる。
また娘役の杉浦花菜も、鮮烈な演技というにはあまりにリアルで、母子が暮らしているアパートでの虐待シーンは、見ていていたたまれない。
虐待を受け続けて心を開くことができなくなり、笑顔も消えていたサチとともに、「本当の空を見に行こう」と旅立つ松太郎。
虐待からサチを救うための旅は、自分自身の再生の旅でもあった。
松太郎は、娘の亜希子に対して厳しく接することしかできず、そのくせ家庭のことは妻の節子に“任せきり”という名の逃避により家族を顧みぬまま崩壊させた自分の過去を見つめ直す。
絶縁状態にある亜希子に手紙で懺悔するが、長年の確執から亜希子は松太郎を許さない。
旅の途中、周囲とのコミュニケーションがうまく図れずに家を飛び出し、旅をしている帰国子女のワタル(松田翔太)との出会いを通じて、サチは笑顔を取り戻す。
コミュニケーション不全を起こし、人生を誤っている大人達。
同級生達とのコミュニケーションになじめず、自分の居場所を見失っている青年。
実の親からコミュニケーションを拒否され、表情を無くしている子供。
この映画の登場人物達は、現代日本のコミュニケーション事情の縮図である。
また、サチを虐待する真由美も、自分の親からコミュニケーションを拒否されてきた過去を持つ。
愛情いっぱいに抱きしめられた経験が無いのに、自分の子供を愛情いっぱいに抱きしめることはできない。
結局、自分が親にされていたことを、そのまま娘にすることしかできない。
他にサチとコミュニケーションをとる術を知らない、分からないのだ。
児童虐待は連鎖すると言う事実が、真由美の思いに込められている。
悲しい虐待の連鎖が断ち切れることは、無いのだろうか…
本作を通して、改めて自分は幸せな人生を送ってこれたのだと確信した。
親はもちろん、周囲から愛情を注がれて育った子供時代。
その経験は、今、きちんと“還元”できているのだろうか。
観終わってから、じわじわとこみ上げてくる佳作。
緒形拳の代表作のひとつとなった。
本作の撮影時には、既に病魔に冒されていたことを思うと、改めて彼の凄さを思い知らされる。
奥田英二が彼のために作品を作りたいと思ったのも、もっともだ。
冥福を祈るばかり。
合掌
「長い散歩」
2006年/日本 監督:奥田瑛二
出演:緒形拳、杉浦花菜、高岡早紀、松田翔太、原田貴和子、奥田瑛二