一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

根岸の里の企業価値

2006-08-03 | M&A

王子製紙がTOBに踏み切りました。
公開買付けに関するお知らせ (*1)

三菱商事への増資撤回が実現しなかったのですが、それを勘案しての@800円へのTOB価格の修正も従来からの主張の延長線上なので、特段違和感はありません。
「十分働きかけたがやむをえず」というポジションをとることができていますし、よく考えられたシナリオだとは思います。


ちょっと違和感があるのが、これが「敵対的買収」かどうか、ということが論点として強調されすぎているように思えることです。

「敵対的買収」というのは「現経営陣が賛成しない」(=現経営陣に対して敵対的)というだけで(買収防衛策の発動の可能性が高まるという関心はわくものの)、買収提案の妥当性についての評価と直接に関連するものではありません。
買収提案が現経営陣の主張よりも会社経営にとってプラスであるならば、会社(のステークホルダー全体)にとっては悪い話ではないわけです。(逆にいえば「友好的買収」が買収対象会社の株主(or従業員)の犠牲のうえに成り立っている、ということもあり得ます。)

つまり、一般の株主にとっては、買収が敵対的であろうとなかろうとあまり関係はなく、買収提案に乗って将来価値を含んで評価された株価で株を売るか、現経営陣による将来の業績向上の方が株価の上昇を見込めるとして反対するかのどちらかを判断すればいいわけです(*2)。


ただ問題は、株主が買収側・対象会社側双方の提案を比較しようとしても、共通の物差しがない(または将来の見込みについての客観的な比較自体が不可能)なために、それが容易ではないことです。


そしてそのとき必ず使われるのが
   「企業価値」
という言葉です。

「当方の提案が企業価値をより高める事になる」というように、客観的な物差しがない中で決め台詞やマジックワードとして使われています(*2)。


なんかこれって、最後に
  「根岸の里の侘び住まい」
とつければそれっぽい俳句ができてしまう、というのに近いですね。

狂歌であれば、下の句に
  「それにつけても金のほしさよ」
をつける、というのもあります。


あ、それではホンネを出しすぎか・・・w


おあとがよろしいようで・・・




 (*1)
以前から思っていたのですが証券取引法の「公開買付け」という用語の送り仮名の振り方は正しいんでしょうか。普通は活用語尾を送るので「公開買い付け」と書くか、字数を略して漢語風の専門用語的に「公開買付」としたほうが違和感がないのですが。 正しい日本語に詳しいらしい花岡信昭氏だったらなんと言うのか伺ってみたいです。

(*2)
月曜に法学協会の「買収防衛策の現状と残された論点」というセミナーに行ったのですが、そこでもTOBをかけられたときに「株主総会(集会)決戦型」の防衛策について、神田秀樹東大教授は「TOBというのはいわば買収側による株主総会であり、その最中にもう一つ株主総会を開く」というのは違和感があるという指摘がありました。

(*3)
同じく上記セミナーでつっこまれた神田先生は、経済産業省の「企業価値研究会」は当初「買収防衛研究会」という名称にしようとしたが、企業買収にネガティブなイメージを与えるとの理由で変更になった。防衛側も買収側も目的を「自分のため」と言ってしまったらステークホルダーの賛同を得られないので「企業価値」という表現を使う、いわば「困ったときの『企業価値』なんですよね」とおっしゃっていました。 


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