一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

社会正義の実現か、予見可能性か

2010-02-11 | 法律・裁判・弁護士

献本御礼(@勤務先)『公開買付けの理論と実務』
ちょうどKDDIとJ-COMなどもあり斜め読み。

このケースのような間接取得について 

当事者が当該取引を検討する前から・・・問題となる株券等を保有していた場合、・・・当該株券等の公開買付けを法が強制すべき合理的理由はない。

というのはその通りだと思います。  

ただ、KDDIのリリース株式会社ジュピターテレコムへの資本参加についてをみると、今回KDDIが取得する中間持株会社は、J-COMの株しか持っていないようで、そうすると「買おうと思っていた対象会社がたまたま上場会社の株を持っていたからってその会社にもTOBをかけないといけないのはおかしい」という理屈でなく、「実質的にJ-COM株を保有するためだけの会社を買うのならTOBしろよ」という理屈も成り立ちます。

このへんは当然意見が分かれるようで、
焦点:KDDIのJCOM出資手法は適法か、TOB解釈で専門家も二分
(2010年1月25日 ロイター) によれば

西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士は、3分の1以上の取得を目指す買い手に、強制的にTOB義務を課す現行の制度の合理性をどうみるかによって見解は分かれ得る、としたうえで「法律の趣旨からするとどうかという議論はある。しかし、中間持ち株会社が以前から存在するなら露骨な脱法とはいえず、違法とまでは言えないのではないか」と語る。  

TMI総合法律事務所の中川秀宣言弁護士は「KDDIはJCOMに直接TOBをするべきではないか」と指摘する。今回の開示資料だけでは中間持ち株会社の中味を明確に理解するのは難しい、としながらも、JCOMの株式を保有する以外の機能がない、実質ペーパーカンパニーであれば「TOBルールに照らして(今回のやり方は)おかしい」と語る。  

形式を優先するか、実質をみるか、という違いですね。

上の本でも「たとえば・・・強制公開買付けの適用除外(法27条の2第1項ただし書)を利用して売主が1年以上保有している子会社に公開買付規制の適用のある株式を譲渡し、あるいは会社分割によって子会社に当該株式を切り出した上で、即座に当該子会社株式を買主に譲渡するような場合」は脱法行為とみられる、と言っています。  

ただ、取得対象会社に、問題となる上場株式以外の資産がほんの少しだけでもあればいのか(現金10万円とか)、という議論になると実質判断も微妙な部分があります(新株発行における「主要目的ルール」のdeja vu)。
しかも、TOB規制違反に対する課徴金が相当引き上げられた現状においては(まあ、違法行為を抑止するためなのでそれは仕方ないとしても)、予測可能性がないと実務上はとても悩ましい判断を迫られることになります。

実もふたもない言い方かもしれませんが、そもそも一つの制度にもろもろの社会正義の実現を委ねること自体に無理があるのかもしれません。


本件については、金融庁はTOB規制に抵触するという判断をしたとか(KDDIは否定してます)、もう一方の株主の住友商事がTOBをかけるかなど、状況はさらに流動的になっているようですので、また取り上げる機会もあるかと思います。


※ 住友商事はCATV事業の初期のころから、地域会社(当時は広域での免許を認められていなかったように思います)をこつこつと作っていたと思うので、ここで「トンビに油揚げ」は納得できない部分もあるんでしょうね。。

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