一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『生き残る判断 生き残れない行動』

2011-06-13 | 乱読日記

災害や事件・事故などにおいて、極度の緊張状態の下で人間はどのような行動をとるか、生死をわけた要因はなんだったのかについて、生存者や研究者に取材した本です。

まずは人間は災害に遭うと、まずはいろいろな独創的な方法でその状況を否認します。
そこから立ち直るとつぎに思考を巡らせますが、その思考は平常時とは全く異なったものになります。
そしてそのバイアスのかかった思考によって得た選択肢の中から、生死を分けることになる行動を選択することになります。
本書はそれぞれの段階で何が起きるか、人によってどのように異なるのかを詳しく検討します。

そこでは人々の行動は一般に考えられているようなものとは大きく異なることがわかります。

東日本大震災の後の日本人の整然とした行動が話題になりましたが、大災害に直面するとすべての人がパニックになるわけではなく、逆に礼儀正しい行動や緩慢な動作(それが避難の遅れにつながることもある)が良く見られる特徴であるともいいます。

本書によると、スリーマイル島事故のときの避難や、第二に世界大戦下ドイツによる空襲を受けたロンドン市民もパニックは起こさなかったことが紹介されています。


緊張状態において人間がどのような反応をしがちであるか、そしてそれがどのような結果に結びつくかについて知っていることは、自分が異常な状態にあることを認識し、そこから立ち直りやすくなるためには十分意味があると思います。

そして本書は、一番有効な対策として「十分な準備と訓練」をあげています。
つまり、いざというときに考えるのを停止したり余計なことを考えたり誤った判断をするかわりに、反射的に行動に移せるように日頃から訓練しておくことが身を助けることにつながるといいます。  

・・・軍隊の訓練で、人間性についてのわかりやすい原則、本書の中核をなす教訓を得ていた。それは、極度のストレスの下で脳を働かせる最上の方法は、あらかじめ何度も繰り返して練習をすることである、というものだ。あるいは軍隊が言っているように、「8つのP」すなわち、「適切な事前の計画と準備は、最悪の行動を防ぐ(Proper prior planning and preparation prevents piss-poor performance.)」である。  

「技術とは意識下で何かを反射的に行なう能力のことなのです。考える必要はありません。プログラムに組み込まれていますから。どのように身につけるか?繰り返しによって、しかるべきことを練習することによって、身につけるんです。習得する唯一の方法は--反応の段階で--プログラムに組み込むことです」

具体的には、
・恐怖の対象について知り・リスクについて感情でなく事実やデータに基づいて判断する・起こりうるリスクに対して計画的に準備する
・脳のために予行演習をする(できるだけ家族や近所の人々、職場の人々と一緒に)
ことによって、災害に当たって恐怖を減らし、適切な行動を取りやすくなります。

今回の震災でも、犠牲者や被害だけでなく生き延びた人に焦点をあてて、なぜ生き延びることができたのか、津波を逃れて迅速に避難をすることができたのかを今後の教訓にするような研究・報道を今後に期待したいと思います。  


最後に、企業や行政の側の人間に対する示唆。  

今回の原発事故でも見られたのですが、パニックや法的責任への恐怖は、企業や行政などの専門家が生死にかかわる情報を一般の人々に公開しないことの都合のいい言い訳になっていると著者は指摘しています。  

不確実な情報しか得られないせいで、善良な人々はお互いに助け合うことができない。そうした不安は、また一般の人々と彼らを守るはずの人々との関係に悪影響を及ぼす。難解な法律用語から成る一行一行が不信感を引きおこすのだ。  

この情報統制と不安と不信の連鎖のメカニズムは十分注意すべき問題だと思います。  

また(特にアメリカでは)言いがかりのような訴訟も起きているものの、問題は責任ある立場の人々が法的責任について誤解していることにあるといいます。  

「ほとんどの恐怖と同様に、法的責任に対する恐怖は私の考えでは主として無知に基づいているものだ。(・・・そしてその)無知は、彼らに助言する弁護士の無知と関連している」(危機管理法の専門家でインディアナ州危機管理事務所の元最高顧問弁護士の言)  

実際に、たいていの政府職員はしっかりした訓練を受けて誠心誠意仕事をしていれば、訴訟から守られる。

後段は日本においても同様で、その程度には法律や裁判所の判断は信頼してもいいと思います。(その意味では、東京電力の経営陣に対する法的責任の追及がなされた場合に、今後過度の萎縮の連鎖を招かぬよう、裁判所として冷静中立な判断をしてもらいたいと思います。)  

2009年発行の本ですが、今回の震災の経験をふまえて読んでみると、一層有益だと思います。 

 

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