NHKのクロ現でやっていた震災復興支援ファンドの話
けっこう絶賛気味だったのでTwitterでKYな突込みをしたのですが、実際どんなモンだろうと調べてみました。
多分これのことなんじゃないかと思います。
そのなかの一つ、かまぼこファンドを例にとって見ます。
かまぼこ店を営業者とする匿名組合に出資する(かまぼこ店と匿名組合契約を結ぶ)というスキームのようです。
ファンドを募集している会社は第二種金融商品取引業者の登録をしています(登録しないと募集できないので当然ですが)。
一口5000円ですが、同時に一口あたり5000円の「応援金」を支払わないといけません。
契約期間は86ヶ月で、配当は37ヶ月目から毎月の売り上げの1%相当が回ります。
(「応援金」とすると課税の問題が出るので配当比率を半分にしたほうがいいように思うのですが、今期であれば損失が大きいので消せるということでしょうか。)
ファンドの募集をするミュージック・セキュリティーズ社は手数料として出資金一口あたり500円を報酬として受け取ります。
出資に対して10%の報酬は太いですね。そしてその後は監査をするだけです(websiteではプロジェクトの進捗を公表する予定のようですが)。
また、特典として商品が定期的に送られてきます。(これは配当課税の対象にならないのでしょうか?)
かまぼこ店にとっても無担保で資金が手に入るのであれば、応援金と合わせた額の5%を取られても金融機関から(もし借りられたとしてもそれ)よりは有利な調達かもしれません。
スキーム上ちょっと気になるのが、運用期間終了後の元本返還の原資が確保できるかについてのシミュレーションがないこと。
そのときは「被災地飛躍ファンド」とかでまたミュージック・セキュリティーズ社がファンドで資金調達するのかもしれません。
また、分配金額のシュミレーションの「利回り」が期間を勘案して割引いていないこと。これはちょっとミスリーディングだと思います。
仕事だったらこういう商品は相手にしないのですが、「顔の見える被災者に支援ができるのであればいい」という個人はけっこういるかもしれませんね。
ただ、本来は寄付・支援と分けて、収益性を追求する純粋な投資・金融商品として成り立たせたほうが、あとあとトラブルが少ないしと思います。
(たとえば思いつきですが低利回りだけど担保のあるゼロ・クーポンのデットとハイリスク・ハイリターン狙いのエクイティ商品を分けるとか・・・まあ、そんなに綺麗な収支が組めないからこういう商品なのかもしれませんけど)
クロ現のゲスト解説者は「復興はファンドが支える」などと絶賛してましたが、そこまで言うのは純粋な投資に値するような金融商品としてまっとうなものが出てからにしたほうがいいと思います。
まだ予定ははっきりしていないものの、事前の準備だけはということでボランティア保険の加入をしてきました。
あわせて、僕の世代は破傷風も含んだ3種混合ワクチンの接種をしていないとかで、2回に分けての予防接種の第一弾も完了。
(これで晴れて抗体ができたのなら来年はアフリカとかアマゾンにでも行こうか)
ボランティア保険の補償内容を見ると、掛け金の割には一般の傷害保険より保証が充実しています。
特に驚いたのが賠償責任保険の5億円という限度額。
場合によっては他人にケガをさせたり財産を壊したりということもあるので、後顧の憂いなくボランティアに専念できるようにということなのでしょうが、一般に個人が入る賠償責任保険では多分こんな高い限度額はないと思いますし、保険料は割安だと思います。
そこで、いちいち余計な心配をするのが習い性になっている私としては
これは暴力団などの保険金詐欺の対象にならないだろうか
というのが心配になります。
たとえば被災地にボランティアに行ったものの、家の片づけをしていたら泥に埋まっていた時価1000万円の壷を壊してしまったとかという請求を関係者がグルになって指摘やしないでしょうか。
特に、これは保険自体は民間の保険会社が引き受けいるものの、代理店は「㈱福祉保健サービス」という天下り臭漂う会社で(住所も(社福)全国社会福祉協議会と同じ)ところ。
上記の例のように1000万レベルだとさすがに保険会社の審査担当が出てきそうですが、数万円レベルであれば代理店の申請で通ってしまいそうです。そして代理店が当事者意識が低いのと疑義を呈したりしないし、疑義を呈してもすごまれたりするとすぐ引っ込んでしまいそうなので(そもそも地元の社会福祉協議会の人も皆人を疑わなそうな「いい人」でした)詐欺や民事介入暴力の格好のターゲットになりそうです。
保険会社も「ボランティアに水を差すのか」などと凄まれたら、比較的小額であれば通してしまうかもしれません。
いちいち性悪説に立って心配しすぎなのかもしれませんが、反社系の人はアンテナが鋭く実行力(スキーム構築力)にも富んでいるので、隙あらばと狙っているのも事実です。
杞憂で済めばいいのですが、悪者のせいで保険料が上がるのは、復旧・復興が長期戦の様相を呈している中では結構ダメージになってくると思うので。
最近話題の東日本大震災で被災した三陸の牡蠣養殖業者の復興を支援する「復興かきオーナー制度」。
仕組みは1口1万円を応募すると、出荷再開後に1口につき三陸産殻付牡蠣20個前後が送られてくるというもの。
参加する側も義援金を送るだけでなく復興を味わえることになるので、アイデアとしては非常にいいと思います。
仕組みは牡蠣の通信販売
この制度は「復興した後に収穫できた牡蠣を売る」という通信販売の仕立てになっています。
特定商取引法に関する表記まできちんとなされています。これは、制度を運営している株式会社アイリンクが被災前に行なっていた牡蠣の通販の仕組みを流用しているからでしょうか。
そこには以下のような注意書きがあります
- 出荷できるようになってから当社よりご連絡差し上げ、お届け先、お届け希望日(時間帯)などを確認させていただきます。場合によっては、5年以上かかるかもしれません。通常時の三陸牡蠣養殖の場合でも、成育に2年~3年かかります。港湾の復旧、漁業操業許可を経て養殖の準備が再開されることから、現状では出荷再開の時期をお約束できかねます。
- 売上金の利用目的 売上金の一部(70%)は、生産者の牡蠣養殖のための資材、設備支援、生産者への牡蠣仕入れ金に活用させていただきます。(残りの30%は、牡蠣をお届けする際の送料、通信費、取材費などの経費となります。)
- 商品お届け前 ご返金・オーナー契約の解除は承りません。
- 特定商取引法上はクーリングオフが義務付けられていません
通販として見ると購入者側にとても不利な条件です。
特にいつ来るかわからない商品を一度注文したらキャンセルできない、というのは消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する」条項として無効だという主張とか、そもそも売買対象の牡蠣の数量が「約20個」と(重量や牡蠣のサイズも含めて)特定していないから売買契約は成立していないという主張もありえます。
実態は牡蠣養殖業への投資?
一方で上の主張が非常にKYに聞こえるのは、代金は牡蠣養殖業の復興のための設備投資や仕入れの資金として使われるので、復興に予想以上に時間がかかるからといって金を引き上げるのでは復興支援にならないからです。
そうなると、これは牡蠣養殖業の出資に対する配当として牡蠣を受け取るというしくみとも考えられます。
しかしそうだとすると、これは「集団投資スキームに係る権利」(=出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利(金商法2条2項5号))として(要するに投資ファンド事業として)、金融商品取引法に抵触する可能性があります。
法文上は、出資は金銭に限られるものの、配当は「財産の分配」とあるので、牡蠣が届くのも当たりそうです(間違っていたらごめんなさい。)
また、金商法には適用除外として
出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)
という条項があるので、本件で言えば配当は生牡蠣20個1回で出資金(=1万円)の価値には満たない、ということで適用を免れられるようにも思います。
また、そのへんの疑義をなくすためには、法律的には「1口につき、三陸産殻付牡蠣20個前後をお届けします。ただし、当該牡蠣の時価は出資額を上回らないものとします」とでも書けばいいのかもしれません。
ただ、殻つき牡蠣の通信販売を検索してみると、サイズによっては1万円で20個=1個500円というのはあながち高いとも言えなそうです。
また、集団投資スキーム(ファンド事業)では、投資資金で設備投資をした場合その設備は投資家側の資産になってしまう(=ファンドが書き養殖業を営む)ので、こういうスキームにしてしまうと牡蠣養殖業者への支援にはならない(=牡蠣養殖設備の所有者として漁民に生産委託することのなってしまう-これは皮肉にも「オーナー制度」に近いことになります)というそもそもの難点もあります。
ではストレートに寄付とすればいいのでは?
復興牡蠣オーナー制度の売上金の利用目的は次のようになっています。
つまり、商品としての牡蠣代金に相当する部分は仕入れに経費と利益を乗せても多分売上げの半分くらいで、残りは牡蠣養殖業の設備投資代金を支援することになります。
つまり、代金の半分くらいは寄付に当てられることになります。
それならば、牡蠣の通販と寄付をセットにしながらスキームとしては分けて、寄付部分は税金の控除を受けられるようにした方がお金が集まりそうです。
しかし寄付控除を受けるための要件は厳しいという問題があります。
国税庁のサイト一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)によると寄付金控除が認められるのは限られています。
- 日本赤十字、や公益財団法人・公益社団法人の主たる目的である業務に関連する寄附金→しかしこれを新たに設立していては間に合いません。
- 「認定特定非営利法人(いわゆる認定NPO法人)に対する寄附金のうち、一定のもの」というカテゴリがありますが、認定NPO法人ってけっこうハードルが高いようだし、「一定のもの」の要件も厳しそうです。
しかも、今回資金が生活資金の援助でなく設備投資にまわされる部分が多いので、NPOを作ってそこから資金提供をしたとしても、養殖業者側でまた課税の問題が発生しそうです。
「過剰コンプライアンス」か行動優先か
このように法律を当てはめていくとうまく収まらない感じもするし、まずは行動が大事と考えると今の形でもいいのかもしれません。
ところで、Twitterで知った話なのですが、運営会社の㈱アイリンクは以前グリーンシート登録銘柄だったものの、2008年に監査法人から適正意見をもらえなかったことを理由にグリーンシート指定の取り消しを受けています(参照)
このこと自体はアイリンクも自分のサイトの会社沿革に正直に書いています(参照)ので隠すつもりはないようです(理由は書いてませんが)。
ベンチャーが一度うまく行かなかったからといって二度と信用しないというのはもちろん狭量な姿勢だと思います。
しかし監査で適正意見を取れなかったというのは、倒産とか業績不振で指定取り消しになった場合よりも企業(経営者)に対する印象はよくないです。
特に今回は
10,000人のご賛同をいただければ、三陸牡蠣を出荷できる道筋が作れます。
100,000人のご賛同をいただければ、三陸の一部の牡蠣産地を救えます。
1,000,000人のご賛同をいただければ、三陸の牡蠣産地復興を実現できます。
と、数億円~数十億円の資金獲得を目指しているようです。
そして売上げは牡蠣養殖業者に直接渡るのでなく、通販の主体のアイリンクに立つ=資金はアイリンクにプールされることになります。
それだけの金を前にすると、経営者自身はしっかりしていたとしても、さまざまな誘惑が寄って来そうです。
なので
- 売上金は設備投資などに回る前にはどこにプールされているんだろうか ・アイリンクが倒産した場合の代金の保全や、他の事業の債権者に差し押さえられたりしないような手当てはされているのだろうか。
- 手元資金の運用はどうしているのか、その安全性はどのように担保されているのか(現時点でも剰余金は既に8千万円ほどあります。
- 投資先の選定や投資金額の妥当性はどのようにして決めるのか(これは無駄な投資リスクだけでなく、配当のプレッシャーに負けて資金を必要な設備投資に回す代わりに、被災が比較的少ないところの種牡蠣購入にばかり回してしまうリスクも考慮する必要があります)
などについて、特定の法律で義務付けられていなかったとしても、もっと少し詳細な説明が必要だと思います。
震災復興には考えるよりも行動が大事なことが多いのもわかりますし、「過剰コンプライアンス」よりも拙速を旨とすべき場合も多いとは思います。
しかし、億単位の金を集めるなら相応の説明責任や規律は当然に求められると思います。
「復興かきオーナー制度」で購入する消費者側としても、自分のお金が復興に回らないリスクや巨額の資金を特定の人に預けるということのリスクは承知しておく必要があると思います。
(まあ、義援金もまだ手元に届いていないらしいのでいずこもいい勝負かもしれませんけど)
また当然ながら、これが牡蠣養殖業者支援の唯一の方法ではないことにも注意が必要です。
たとえば「大地を守る会」ではOyster for Oysterという取り組みも(これはストレートに寄付をする、というもの)しています。
復興支援のスキームは今後ますます新しいもの出てくるでしょうから、その中での健全な競争と支援資金流入ルートの多様化が実現すればいいと思います。
ここのところ「震災復興支援」といって東北の酒蔵の酒を意識的に飲んでいるのですが、同じ事を考える人が多いらしく、業界関係者の話では、東北の酒蔵には年間生産量の2倍もの注文が来ているので震災の被害が少なかった酒蔵でも注文に応じきれないとのこと。
一方で震災以降自粛ムードや停電の影響で飲食店での日本酒の消費が極端に落ち込んでいるので、東北地方以外の酒蔵への注文が激減しているそうです。
なので、東北地方に限定せず、日本酒を楽しんでもらうことが、経済の活性化を通じて東北地方の復興にもつながるのでよろしくお願いしたいとのことでした。
言われてみればその通り。
東北に限らず、いっぱい飲まねばw
仮払金、計画的避難区域にも…東電検討
(2011年4月15日03時03分 読売新聞)
支払いは、住民票などで本人確認をした上で、銀行などへの口座振り込みとする。
被災者には通帳も流され口座番号がわからない人や、避難所にいて近くにATMがない人も多いし、そもそも信用金庫自体が津波に流されてデータがわからない状態のところもあるらしいし、そういう人こそ現金を必要としているのに、口座振込だけというのは、せっかく仮払いをするのに画竜点睛を欠くと思います。
また、現金にしても、地域金融機関が機能していないとすると、商品やサービスの提供をする側も小銭がないでしょうから、仮払金も希望者には千円札とか500円玉というような小額紙幣・硬貨を含めた現金のパッケージで渡すべきだと思います。
被災者対応も、何か肝心のところが抜けているような感じがします。
これを見て思い出したのが、斎藤美奈子『妊娠小説』の優勢保護法についての話。
優生保護法は1948年に施行されたものの、当初は中絶希望者は都道府県の優生保護委員会に申請書を提出して審査を待つ必要があったそうで、それなら待っているうちに生まれてしまうだろ、というような制度だったとのこと(1952年に優生保護指定医1名の判断と本人、配偶者の同意だけで手術できるようになって現在に至っています)。
払う側の都合は理解できなくもないのですが、仮払いの趣旨から言えば、自分の都合を優先させるのは不適当だということは少し考えればわかりそうなことだと思います。
ひょっとすると、そもそも被災者の都合を考えていなかったりして・・・
伝聞が中心なのでご承知おきを。
外食業の人の話では、自衛隊員が救援作業に総動員されたために札幌の店が閑古鳥の反面、仙台市内はインフラが復旧して営業を再開したら連日繁盛らしい。
東北大学は青葉城の方にあるが古い建物を中心に被害が大きく、中でも建築・土木系の学科の入っている建物が座屈してしまっているという笑えない状況だとか(学部のせいではないですけどね)。(参考)
土木工学の世界では原発の設置などにかかわる「原子力土木」という分野があって、この分野では日本とフランスが最先端を競っているらしい。
今回フランスが支援に積極的なのは、マーケティングの意味合いが大きいのではないか、と言っている人がいた。
都市ガスを使った家庭用燃料電池は起動中に停電しても使えるが、停電状態から起動するということが出来ない。また計画停電のように1日に複数回停電されると寿命に影響するらしい。これは震災時電気が止まればガスも止まるだろうという前提で設計していたからだとか。
家庭用ではないが小規模コジェネシステムのジェネライトは停電対応が出来るらしい。
一方オール電化住宅などへの深夜割引の中止が検討されているという噂。
もともと供給調節のしにくい原発の電気の余剰分を割安で供給するものだったが発電量調整の容易な火力が当面の中心になるというのが根拠らしい。
でもこれは東電の自殺行為の上塗りになるのでマユツバのような感じも。
福島原発より先が読めないのは「もんじゅ」だ、という話。
トラブルの内容はこちら:もんじゅ、撤去作業中装置落下か 重さ3・3トン、原子炉容器内
一方で、
もんじゅ停止など県に要望 福井
というが、燃料の装荷・取り出しに使う炉内中継装置を取り出せない限りはそもそも停止できないのではないかというのが素人の疑問。
それに最近ではこんなニュースもあった
高速増殖炉「もんじゅ」課長が自殺 トラブル復旧を担当、今月中旬から不明
燃料にプルトニウム、冷却材にナトリウムを使っているので、リスクで言えばこっちもかなり大きいのではないかと。
昨日あたり話題になった『菅 有能』とググるとGoogleに「もしかして『菅 無能』?」と聞き返されるというネタ(参照)、やってみる人が殺到して『菅 有能』という検索が正しいものと認識されるようになったためか、もう表示されなくなっている。
そのうち『菅 無能』と検索すると「もしかして『菅 有能』?」と聞き返されるようになるかも。
これも合成の誤謬の一つか。
復興構想会議、本日初会合。
「創造的な復興」を目指していることは非常にいいと思う。
しかし、関東大震災後や戦災後の復興計画は、次々と建設されるバラック建物に先を越されたため、結局中途半端なものになってしまった。特に関東大震災はそれより前に後藤新平による都市計画があったにもかかわらず予算措置などで「市民パワー」に後手をとっている。
なので、当面のバラバラの自力復興に歯止めをかける法的強制力とそれを被災地に受容してもらえるだけの当面の代替措置と復興計画の時間軸と現実的な予算措置を同時に提示しないと上手くいかないと思う。
メンバーを見ると「構想」は得意だが「実施」に落とし込むにはどうなんだろう、というような人選なのがちょっと心配。
「事務局のトップに事務次官経験者ら官僚OBをあてる方向で調整を進めているらしいが(参照)各省庁の縄張り争いでなく実務的なエンジンになることを期待したい。
運転中のラジオで「首相が港湾整備に優先順位をつけると発言」と聞いておっと思ったのですが、記事を見ると石巻を視察した後の単なるリップサービスのような感じもします。
漁港復興、石巻を最優先=菅首相
漁業関係者から、漁港の再生に向けた国の支援を求められた首相は「いくつかの所(漁港)を重点的に整備していく必要がある。石巻が最優先であることはよく分かった」と述べ、石巻漁港の整備に優先的に取り組むことを約束した。
復興には予算の制約だけでなく、港湾整備にあたる重機や人手とそれらの陸路の確保などさまざまな問題があるわけで、当面は復興のしやすさ(スピード)を優先するか、拠点としての重要性を優先するかに始まり、今後様々な選択が迫られるはずです。
そして、この時点でこういうことを言うのは気が引けるのですが、全ての漁港を津波にも耐えられる形で整備しなおすべきなのか、ということはいずれ議論になると思います。
漁港の数は宮城県は142、岩手県は111あります。
一方で、漁港漁場整備法により、漁港は次のように分類されています。(参照)
第1種漁港 - 利用範囲が地元の漁船を主とするもの。
第2種漁港 - 利用範囲が第1種より広く、第3種に属さないもの。
第3種漁港 - 利用範囲が全国的なもの。
第4種漁港 - 離島その他辺地にあって漁場の開発、または避難上、必要とされるもの。
特定第3種漁港 - 第3種のうち振興上、特に重要な漁港。
そして、宮城県と岩手県の漁港を分類すると
宮城県
特定第3種:3(気仙沼、石巻、塩釜)
第3種:2(渡波、女川)
第2種:21
第4種:1
第1種:115
岩手県
第3種:4(山田、大槌、釜石、大船渡)
第2種:0
第4種:1
第1種:106
となります。
(wikipediaによる。第1種は合計値からの引き算で推計。)
つまり、「利用範囲が地元の漁船を主とする」小規模な港が圧倒的な数存在するわけです。
(これをみると菅首相が特定3種である石巻漁港の復興に優先的にというのは国の漁業政策からも当然なことを言っただけだったのかもしれません。 )
これらの漁港全てを、少なくとも今回の大津波に耐えられるレベルまで復興させるべきなのか、というのは、もし、予算上可能だったとしても、議論すべきではないかと思います。
ここまでの数の漁港が今まで競争で淘汰されず存在しているのは、漁民の自助努力に加え、(あくまで推測ですが)漁港として指定されれば港湾整備予算や補助金がつき、土木工事業も含めてその地域を潤してきたという部分が少なからずあったのではないでしょうか。
しかし、今までの港湾の機能維持のための費用であれば地方財政から財源を捻出することは可能かもしれませんが、小規模な港全てを元に戻しかつ機能強化することに国の復興予算を使うのが(それぞれの港の漁民にとってではなく)三陸地方の漁業の復興とういう視点から必要なのかについて議論されるべきだと思います。
素人考えでは、いくつかの第1種漁港を第2種に統合するとか、第2種同士や第3種も統合することで、機能を強化した安全で機能的な「少数精鋭」の港を作る方が漁業の将来にとってもいいのではないかと思います。
特に漁民の高齢化が進むことを考えると、意欲のある後継者を集約することは意味のあることではないでしょうか。
せっかく「コンクリートから人へ」「政治主導」をマニフェストとしてうたって政権交代した民主党政権なのですから、今まで小さい港全てにまかれていた港湾整備工事予算をそのまま元に「復」すのでなく、将来を見据えた三陸地方の漁業の発展すなわち被災地域の振興のためにいかに有効に使うかという視点で判断してほしいと思います。
(住民の合意を得て途中まで建設が進んでいる八ツ場ダムを中止するよりは理解が得られると思うのですが・・・)
QもAも日弁連「東日本大震災法律相談Q&A」よりはるかに実践的なので、参考になると思います。
けっこう痒いところを掻いてくれている感じで、おすすめです。
PS
時々お邪魔させていただいているtoshiさんが5月に岩手県の被災地で法律相談の担当弁護士をされる予定のようです。
あわせて、東日本大震災復興支援の一環として関西地区で特別講演会「企業のパワハラ対応とコンプライアンス上の問題点」を開催されるそうです(参照)。
ビジネスでも危機対応でも事業計画(想定シナリオ)とモニタリング・評価、どの時点で計画を変更するか(バックアッププランに移るか)の基準を常に共有することが大事です。
しかし報道は今起きていることについて「政府や東電に失策はないか」「東電・政府は情報の隠蔽をしていないか」といい、政府や東電は「現時点では」「全力で」という中で、中長期の見通しとその前提条件についての共通理解がないと、再び「想定外」を経験することになるのではないかという危惧を抱きます。
たとえば被災地の救援。
自衛隊は全兵力の半数近くを投入しています。戦争では兵站や要員の休息・補充を考えると通常兵力の1/3を戦地に送り込むのが「総動員」のレベルらしいので現在は総動員以上の状態のようですが、これをいつまで続ける予定なのでしょうか。
(もちろん今回の出動は敵が攻撃してくるわけではないので状況が違うのかもしれませんが、既に自衛隊員にも亡くなる方が出ているということは、やはりかなりの負荷をかけているように思います。)
あと○週間で避難所への物資補給ルートの確保のめどが立つとか、瓦礫撤去を民間業者ができる状態になるというような定量的・定性的な目標があり、常時達成状況をモニタリングしながら計画を見直していく、というような作戦があればいいのですが、期間の目処がなくフル稼働し続けるなかで、ある日突然自衛隊が疲弊して機能しなくなったらどうするのでしょうか。
最初から乏しい戦力を精神力で補うという作戦がだめだったことは先の戦争で経験済みのはずです。
それから、建設が始まっている仮設住宅ですが、入居期限が2年というような話をテレビで言っていました。
「先が見えないのでとりあえず」の措置であれば、期限だけ明確に切るのは被災者に精神的な負荷を与えているように思います。少なくとも2年後に戻れない状況だったらどうするつもりか、についての対応策ぐらいは用意しておくべきではないでしょうか。
先が見えないからといって場当たりに手を打つのでは、旧日本軍の悪弊であった「戦力の逐次投入」ならぬ対策の逐次投入になってしまいずっと後手に回りかねないと思います。
より大事なのが原発事故の評価。
漏水対策や放射線量に注意が集まっていますが、対策や基準値の当否を云々するだけでなく、「ではどのような放射線量がどこで測定されたら避難等をすべきなのか」を政府が明確にすることが大事だと思います。
それがあれば、(現実のものにはなってほしくはないですが)万が一原発事故対策が大失敗し首都圏に大量の放射線物質が飛来することになった場合に、首都圏から住民を退避させるためにはどれくらいの期間と必要な輸送インフラから逆算し、退避の準備を開始する放射線物質の飛散の基準を作れるはずです。
そうすれば、企業や個人も国の基準を参考にしながら自らのコンティンジェンシー・プランを作れるはずです。
避難先や避難手段を確保した上でぎりぎりまで粘る、という戦略もあるでしょうし、一定の安全率を見た数値を超えた時点で避難手段を確保し避難開始するという戦略もあるでしょう。それはそれぞれの個人や企業の事情によって違うはずです。
今回外資系企業では本社機能を関西に移したり社員を本国に帰国させる動きもありましたが、距離の離れた外国では十分な物的人的支援もできない反面拠点の規模があまり大きくなく身軽なので、そういう中間指標を作るよりはとっとと避難したほうが合理的と考えた彼らの行動も理解できます。
原発事故が収束するのを待っていては経済がジリ貧になってしまうという状況だからこそ、いざというときの逃げ道を確保することで、復興に全力を尽くすことができると思うのですが。
今回の地震で液状化の被害が大きかった浦安に行ってきました。
京葉線の新浦安駅を降りると、駅前広場が沈下しているので、駅舎と構造的に一体の階段やエレベータとの間に段差ができてます。
30cmくらい沈下した感じです。
少し海のほうに行ったイトーヨーカドー。
建物は支持層まで基礎杭を打ってあるので大丈夫なのですが、外構部は沈下しています。
マンションも同様
歩道や車道は液状化で噴出した砂がたまっていて、路面が波打っています。
同じ交差点ですが、バスが通るとお腹をすります。
これは駅から境川を渡った今川地区(行ってみて驚いたのですが、立派な家が立ち並んでいます)。傾いた電柱や上下水道の復旧工事をしていました。
これは一つとなりの通り。まだ電柱の復旧は進んでいません
また別の通りを反対側から。揺れの関係なのか、一方向に傾いています。
少し離れた舞浜のディズニーランドに近いところのオービス。
そこそこ基礎が大きいはずなのですが。
不思議だったのが、新浦安から海のほうに行くと、あるところからまったく被害がないこと。
建物だけでなく歩道に段差どころか砂の出た跡すらありません。
下の地図で了徳寺大の「了」の字のところの敷地と右上の「日の出南」を結んだあたりから海側は無傷でした。
地震や土木・地質のことは詳しくないのですが、地震の揺れの方向や振動と埋め立ての土質の関係などの違いが影響しているのでしょうか。
広い範囲で道路だけでなく上下水のインフラもダメージを受けているので、(電柱は東京電力が復旧するとしても)浦安市として復旧の優先順位をつけるのは大変そうです。
原発事故は未だ解決のの目処が立たず、震災復興や電力供給への影響も長期化しそうです。
こんなときこそ心すべきだと思われるのが「ストックデールの逆説」。
You must never confuse faith that you will prevail in the end ? which you can never afford to lose ? with the discipline to confront the most brutal facts of your current reality, whatever they might be.
最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だが、この確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない
詳細は以前のエントリーをご参照。
Twitterの私のTL上ではとても不評だった東日本大震災法律相談Q&A(日本弁護士連合会 災害復興支援委員会、2011年3月29日現在)を読んでみました。
結論から言うとこんな感想。
(弁護士でもない素人が何言ってやんでぇ、なんですが、頭書きに「東日本大震災に伴い発生する様々な法律問題に対応するための弁護士及び市民向け法律問題Q&Aを作成しました」とあるので市民として一言)
内容的には役に立つ部分も多いが、章ごとに分担して執筆したためかトーンがばらばらでQの重複があったり単なる法律の概説のようなところもある。この手のものをスピード優先で出すことは意味があると思うが、一つのQ&A集として全体を編集する目が必要だったのではないか。
後述のようにけっこういいQ&Aもあるのだが、残念ながら総論的であまり実戦的でないものも目立つ。
一方で「第17章 原子力被害に係る問題」では原子力事業者の責任や出荷制限措置に対してかなり踏み込んだ「主張」をしており(Twitterで弁護士に問題にされていたのは主にここ)、これがこのQ&Aの価値を減殺(平たく言えば色眼鏡で見られる)してしまっている。ちなみにこれは日弁連の公式見解なのだろうか?
ということで、残念ながら「市民」に役立つ内容は一部に限られそうなのが残念です。
それから、このレベルのQ&Aが役立つ弁護士というのはちょっと実力的に心配な感じがしなくもないのですが・・・
せっかく通読したので章ごとにちょっとコメントしてみます。(以下引用部分の強調は全て筆者、あと、知識不足・読解力不足による誤解や間違いがあると思いますので気がついた方は教えていただけると幸いです)
第1章 土地・建物所有者
ここは全体的に突込みが足りないので実戦的でない。
たとえばすべてのAにわたって瑕疵担保責任の消滅時効や不法行為の除斥期間についての言及がないのはミスリーディングでは。
第2章 マンション区分所有者
区分所有法の大規模修繕や建替えについては教科書どおりのまとめがありますが、それ以上でない。「○○の法律問題Q&A」という類の本のよくない方の部類に属する「書きやすい通り一遍のAにあわせてQを作る」ような感じ。
当面問題になるのは、理事長が自分の裁量でできる保存行為の範囲はどこかなど、マンション管理適正化法関連の部分だと思うので、そこにも言及したほうがよかった。
また大規模修繕や建替えは修繕費用や建替え反対の区分所有者に対する買取費用をどう捻出するかという方が現実的にはネックになるため、修繕積立金の残額とか修繕費用の多寡がポイントになるので、まずは(弁護士でなく)マンションの管理会社に相談した方がいい、と書くべきなのではないか。
第3章 借地・借家
比較的論点は網羅している。
ちょっと気になるのがQの目線が借地人・借家人からだけであること。これも借地借家法のに沿って説明をしたからそうなったのか、それとも執筆者が「被害者」「弱者」の(所謂「市民派弁護士」の)視点に偏っているのかは不明(逆の立場からQ&Aを読めばいいだろ、と言われればそうだが)。
津波の被災地だと当面問題になりそうなのが借地権の有無でなくそもそも地代が払えない・払ってもらえないという問題で、借地権が存続しているとしても債務不履行をすれば解除される(できる)という基本のところとか、逆に底地人がデフォルトして抵当権が実行されたときに優劣関係などは書いておいたほうがいいのではないだろうか。
上述した「編集の不在」の例としてはこういうのがある
Q2(第1章) 隣家のブロック塀が建築工事の瑕疵により地震で倒壊したため,私の自宅の一部が壊れてしまいました。このような場合,誰にどのような責任を追及できるのでしょうか。
A 震度5程度の地震でブロック塀が倒壊したのであれば,ブロック塀を所有する隣家やブロック塀を工事した請負業者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
Q31 借地上の建物の賃借人ですが,建物が地震で全壊したときは借家権は消滅してしまうのでしょうか。
A 原則として借家権は消滅します。再築後の建物についても借家権を主張できません。再築建物について改めて借家契約を締結する必要があります。
Q2の「震度5程度で倒壊したのであれば・・・」というのもちょっと唐突で工作物責任の設置保存の瑕疵と宮城県沖地震の判例の考え方などを説明しないとわからないのでは(というか「建築工事の瑕疵により」とAを先取りしているQ自体が手抜きなんだが)。
一方で、Q31では地震で建物が全壊したら借家権は消滅、といっているが、震度によっては貸主の債務不履行責任を問える可能性もあり、また入居に当たって宅建業者から受けた重要事項説明に建物の耐震診断をしている場合にはその結果が含まれているはずなのでそことの齟齬の有無の確認などをアドバイスすべきでは。
また、Q23で再築の話をしておきながら、再築までの期間の対抗要件についてはQ30を見ないと書いてないというように、読む人の視点から作られていない感じがする。
第4章 罹災都市臨時借地借家法
よく知らないのでノーコメント
第5章 債務の処理,破産など
Q73 地震で家屋が倒壊したのですが,住宅ローンの支払義務だけは残ってしまうので
すか。
A 家屋が倒壊しても,住宅ローンの支払義務はそのまま残ります。ただし,地震保険に加入している場合は,その保険金が住宅ローンの支払いに充当されます。
但し書きは保険金請求権に質権が設定されている場合で、任意に加入している場合には当然には充当されないのでミスリーディングでは?
Q76 地震で家屋が倒壊,損傷したため,新築,補修等したいのですが,どのような制度があるのですか。公助(公的支援),共助の制度について教えてください。
A 公助制度としては,自治体による融資制度,被災者生活再建支援法に基づく支援制度,災害救助法に基づく応急修理制度などがあり,共助制度として,兵庫県では,兵庫県住宅再建共済制度が発足しています。
Q77 地震で家屋が倒壊,損傷したため,家屋の建替資金,補修資金を捻出するために,
新規融資を受けられないでしょうか。
A 阪神大震災,新潟県中越地震の際には,住宅金融公庫等の政府系金融機関のほか,民間金融機関でも,通常よりも低利で,据置期間の延長,一定期間の支払い猶予措置等の軽減措置を講じた新規融資をすることがありました。被災地の自治体の中にも,特別融資等をしたところがありました。
参考になる情報だが、「詳細は自治体に確認ください」と書くべきではないか。それとも弁護士会でこのような制度ができたら継続的にフォローして周知をはかるということか(それならとてもいいことだと思う)。
第6章 金融取引など
Q88 リース契約のコピー機が壊れてしまいました。契約はどうなりますか。
A リース契約の場合には多くの場合,特約条項により地震等の場合にも月々のリース分割金あるいは規定損害金を支払う必要があるとされます。
ファイナンス・リースだからということか。この場合は修理や部品交換もしてくれない(または有償対応)ということ?
第7章 保険(生命保険・地震保険)
コメントなし。地震保険の説明はちょっとまだるっこしいが、わかりやすくまとまっていると思う。
第8章 不在者の財産管理な
Q105 災害により父親が行方不明のまま安否も全く分かりません。父の財産について相続は開始するのでしょうか。
A 認定死亡や失踪宣告が下されていれば相続は開始しますが,そうでなければ相続は開始しません。
これなどは不親切の典型で、認定死亡や失踪宣告の制度の手続、必要な期間などを説明しないと「市民」はわからないと思うのだが。
第9章 消費者問題
「特定商取引法によるクーリング・オフ,消費者契約法による契約取消し,錯誤による契約無効,詐欺による契約取消し,不法行為に基づく損害賠償等によって代金の返還を求めていくことが考えられます。」
というAが多いのだが、そもそもどういう商品・役務が対象になるのか、どういう手続きが必要かなどを解説しないとよくわからないとい思う。
第10章 労働問題
ここは雇用者・被用者双方の論点をカバーしている。
現実的にはQ113、Q114の「欠勤」に至る前に有給休暇の消化・時期変更権などの問題があるとは思うが。
計画停電と勤務の取り扱いとかに言及するとかゆいところに手が届いてうれしいんだが難しいか。
第11章 租税特別措置
詳しくないので省略
第12章 外国人の人権
これは非常にいいまとめだと思う。
できればここだけ英・中・ハングルで日弁連のウエブサイトに載せるべきでは?(そうすれば相談を受けた弁護士とかボランティア団体も印刷して見せることができる)
Q138 日本に来て,わずかの間に被災をしたため,日本語がよくわかりません。通訳をしていただきたいのですが,だれに,どのように依頼したら確保できるのでしょうか。
とあるが、ここにアクセスして上の文章が理解できる人は、日本語力があるかサポートがある人に限られると思うのだが、というのは余計な突っ込み?
第13章 高齢者・障害者の人権
これも、老人ホームに関するQ142、Q143やQ144~Q146の具体的な制度の説明は役に立ちそう。
ただ、制度の概要のAについては少なくとも問合せ先を書くべきでは(それともこれも今後日弁連がフォローし周知を図るならなおいいが)。
あと、Q141の個人情報がらみでいうと、総論は確かにそうなんだけど、本人が意識不明の緊急時にのみ提供するなどの運用もできそう。また逆に同意さえ取れば何やってもいいと受け取られるとまずいと思う(このへんは運用にかかわるのでQ&Aは難しいんだろうけど)。
第14章 子供の人権
法律相談か?という疑問はあるがコメントはなし。
第15章 環境問題
Q154 アスベスト建材が使われている自己所有建物が震災により影響を受けています。①全壊・半壊で解体が必要の場合,所有者としてどのようなことをしなければなりませんか。また,②解体までは必要ではなく,補修で使い続けられる場合には,どのようなことを守らなければなりませんか。
A ①所有者は,解体工事を発注するにあたり,解体事業者がアスベストの対策措置ができなくなることのないよう,解体方法,費用等について配慮しなければなりません。また,②所有者は,補修して使用し続けるときも,一定の場合には,震災により飛散するようになった吹きつけアスベストの除去等をしなければなりません。
個人的は疑問として、津波被災地でアスベスト建材を含む建物がバラバラになってしまった場合でも法遵守が求められる(べきな)のだろうか?
これと同様に建築資材リサイクル法とか廃棄物処理法も瓦礫の撤去において厳密に適用されるのだろうか。
(執筆者も「弁護士に聞くとこういう答えになると思います」と前置きをつぶやいてから書いているのかもしれませんが、津波被災地のように瓦礫になってしまった場合などはまずは行政に相談、というのが一番いいアドバイスだと思います)
Q156 地震により隣の建物が倒壊し,自宅敷地部分に瓦礫が残ったままになっています。自分で勝手に撤去してもよいでしょうか。また撤去費用はどちらが負担しなければならないでしょうか。
A 所有者の承諾を得ずに勝手に撤去してはいけません。費用負担については,地震により全くの不可抗力による倒壊の場合には隣地所有者に撤去費用を負担させることは難しいですが,隣家所有者に過失がある場合ないし必ずしも不可抗力による倒壊とはいえない場合には隣地所有者に撤去費用を負担させることができます。また,一定の範囲につき公費負担の制度もあります。
これも、津波被災地のように財産価値がなく、どこの家の瓦礫かわからないものについてもこのAが正しいのかは疑問。
次章のこちらの整理のほうが妥当と思う(というか何で重複してるうえに結論が違うんだ?)
Q163 私の私有地上に津波で流されて来た自動車や船,瓦礫などが放置されています。誰に撤去を求めればよいですか。その費用は誰が負担するのですか。
A 原則として,物権的請求権として,妨害排除請求の相手方である船,自動車,瓦礫の所有者の負担において片付けてもらうことになります。ただし,原因が不可抗力である場合には,物権的請求権は生じないとする大審院時代の古い判例もあります。
また,そもそも津波被害の場合には,瓦礫等所有者を特定することができない事態も多いことが想定され,そのような場合には土地所有者の負担で撤去せざるをえないことになります。
また,土地所有者が撤去した場合,自力救済として不法行為責任を負う可能性がありますが,財産的価値がなくなっているなどの場合には,損害ないし違法性がないとして,不法行為責任を負わない場合も広汎に存するものと考えられます。
以上は私人間の法律関係ですが,このほかに公費による撤去が行われる可能性があ
ります。阪神・淡路大震災では,廃棄物処理法の特例として,倒壊家屋等の解体・撤去を,災害廃棄物処理事業として所有者の承諾の下に市町村の事業として行い,その費用の2分の1を国が補助する特別措置が講じられました。
第16章 津波の被害に係る問題
この章はQの立て方、カバーする論点など質問する側に立って非常によく整理できていると思うし、執筆者の踏み込み方のスタンスには共感が持てる。(上のQ163など)
第17章 原子力被害に係る問題
これが問題の最終章。
ほとんどネタかと思うところもあります。
Q170 原発の発電の仕組みを教えてください。
Q171 福島原発の構造について教えてください。
Q172 地震発生時に制御棒を入れて停止したというのはどういうことですか。
Q173 発電が停止したのに冷却しなくてはいけないのはどうしてですか。
Q174 福島第1原発はどうして冷却できないのですか。
Q175 なぜ格納容器から放射能で汚染された蒸気を放出したのですか。
Q176 使用済み燃料プールというのは何ですか。
Q177 4号機の爆発,火災はどうして起こったのですか。
Q178 放射能とは何ですか。
Q179 放射線とは何ですか
Q180 放射能の半減期とは何ですか。
Q181 放射能による被害を考える場合に参考になる概念を教えてください,
Q182 放射能の程度と人体への影響の関連について教えてください。
Q183 避難指示の根拠は何ですか,
Q184 屋内退避,避難の目安は何ですか。
Q185 いつまで避難しなくてはいけないのですか。
と、弁護士の「法律相談」の範囲の広さに驚嘆します(そりゃ枝野官房長官は弁護士ですけど)。
で、問題はここから
Q188 原子力事業者,原子力機器メーカーの責任を教えてください。
A 原子力事業者の責任については,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。但し,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは,この限りではない。」(同法3条1項)に規定されています。
1項本文は,原子力事業者の無過失責任を規定しています。問題は但書です。想定外の地震といえば異常に巨大な天災地変になるとすると容易に免責されてしまいます。過小評価すれば免責されるのはおかしな話です。原発の耐震設計では,極めてまれであるが発生する可能性のある地震をさらに不確かさを考慮して想定しなければならないのですから,異常に巨大な天災地変とすべきではないと考えます。
原子力機器のメーカーの責任については認めません。同法4条1項に「前条の場合においては,同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない」と規定して原子力事業者に責任を集中しています。そして同条3項に「製造物責任法の規定は適用しない」と規定して製造物責任を認めません。原子力発電所の安全性確保に重大な責任を負っている原子力機器メーカーの責任を認めないのは法の欠陥だと考えます。
Q190 民法の不法行為による損害賠償請求,国家賠償法による損害賠償請求は可能ですか。
A 可能です。原子力の損害に関する法律には,それらの適用を排除する旨の規定は存在しません。また,同法の目的は,被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資すること(同法1条)ですから,民法或いは国家賠償法の適用事例が存在し,被害者の保護を図る必要がある場合に,これを排除することは,同法の目的に反することになります。
例えば,報道されているように,廃炉を免れようとして海水注入が遅れ,今回の事故に至ったとしたならば,民法709条の責任は生じます。
Q192 農産物の出荷制限の指示を出しておきながら,食べても人体に影響を及ぼさないという政府報道はどのように理解したらいいのでしょうか。
A 食品衛生法における今回の暫定規制値は, 原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を採用したものですが, その指標の作成は, I C R P 等の国際的動向を踏まえ, 甲状腺の線量年5 0 ミリシーベルトを基礎にして食品の摂取量等を考慮して策定されたものです。放射線防護の観点から遵守しなければならない基準ですので,農作物の出荷制限は, 止むを得ない措置です。
それでいながら,人体に影響する程度の放射線量ではないというのは,混乱させるだけの公報です。人体に対する影響は明確ではなく,低線量でも人体に対する影響があることもあるので出荷制限をしているが,低線量であるほど人体に与える影響が顕在化する確率が少なくなると考えられるという程度にとどめるべきでしょう。
なお,農産物の原産地表示が全県表示であるから,制限値を超えない農産物の生産地のものも出荷制限すると広報されましたが, きめ細かい生産地表示に改めれば解消できる問題です。また,洗えば放射線量が減少すると広報しているのですから,洗ったうえで放射線量を測定すれば,制限値を超えないかもしれません。政府の対応は,風評被害を助長することになりかねません。
上のほうは法律的な主張として成り立つのかもしれませんが、広報の仕方や野菜の洗い方まで日弁連は心配しなくても国民の自由と正義は守られると思うのですが・・・
東電の責任や国の手厚い補償を求めるというのは日弁連の一つの活動として弁護士自治に基づいてやっていただければいいと思ういますが、「法律相談Q&A」であれば、損害賠償というのは原子力損害賠償法や不法行為(国賠?)の要件を満たすこと、そして因果関係のある損害であること、損害額は訴える側が立証する責任があること、(そしてその結果ほとんどのケースにおいては損害賠償額は損害が発生する前の状態に完全に回復する額には、(特に主観的には)足りないこと)をきちんと説明すべきではないかと思います。
日弁連はあくまでも法律の専門家であり、法律的解決にはおのずから限界があることを周知することで、被災者が「損害賠償請求」に過度に期待せず、別の枠組み(たとえば特別立法による補償など)を別のルートを使って働きかける必要性に気づかせることも重要な役割ではないかと思います。
ちょっと偉そうなことを言いましたが、仕事で相談する弁護士も、「紛争解決にあたってどのような枠組みを使うのが一番適切か」という視点から相談に乗ってくれる人の方が信頼できるので。
やはり皆思ってたんですね。
「東北地方太平洋沖地震」にあたってACジャパンのCM放送についてのお詫びとお知らせ
現在、民放テレビ・ラジオ各局において、震災の報道の合間にACジャパンのCMが多数放送されております。
これらのCMは、ACジャパンの会員社である放送各局でACジャパンが制作した公共広告を放送していただくためにご提供し、放送局のご判断で必要と思われた場合にお使いいただく広告素材です。
未曾有の大惨事となったこの度のことを受けて、多くの企業がCMの放送を自粛され、ACジャパンのCMが放送されることになりました。これらのCMはかならずしも非常時に対応できるようには作られておりません。そのため、視聴者の皆様に大変ご不快な思いをおかけしましたことを、心より深くお詫び申し上げます。
以前広報をやってた人の話では、ACの広告はCM枠を取っていたスポンサー企業が不祥事などでCMを自粛するときなどによく流されるそうです。
今回、震災の報道に当たってCM抜きで放映していた民放がCMを再開したものの、逆にスポンサーの方が放映を自粛したのでこういうことが起きたのでしょう。
テレビ局としてはCM枠を提供しない限り料金を請求できないし、スポンサー側としては、提供したのにCM放映を断って何も流さない(番組を流す)と税務署から寄付として扱われてしまったりするというような事情があるのかもしれませんが、もう少しスマートな解決があってもよさそうです。
逆に、下を見るとCM放映時の緊急地震速報の割り込みはもっと積極的にやったほうがスポンサーのイメージアップにもなると思います。
また、速報性では携帯電話とも勝負しなければならないのですから、テレビというメディアの生き残りをかけて取り組むべき課題かもしれません。
(それにしても昼間の時間帯ってCMがこんなに続けて流されてるんですね・・・)