山の中は真っ暗だった。
木の根につまずき、枝にぶつかり、
魚籠の底に残っていた最後の栗もなくなった。
険しい谷を転びながら下り続け、しばらくすると真っ暗な林道が見えた。
家の事を思うとますます気ばかり焦り、
早く家に帰りたかった。
ふと前方を見ると誰かがたき火をしている。
「あれ、誰かいる」
「早く行ってここはどこだか聞いてみよう」
それは確か50mほど距離だった。
近づくほどにその火は遠ざかり、いつしか消えて行った。
兄は狐火だと言う。
人の影さえ見えていたのに、
だが、音はなかった。
(つづく)