熨斗(のし)

のし(熨斗)について、趣味について、色々なことを綴っていきます

昔の話ー狐火③

2016-08-12 14:07:18 | スケッチ

山の中は真っ暗だった。

木の根につまずき、枝にぶつかり、

魚籠の底に残っていた最後の栗もなくなった。

険しい谷を転びながら下り続け、しばらくすると真っ暗な林道が見えた。

家の事を思うとますます気ばかり焦り、

早く家に帰りたかった。

ふと前方を見ると誰かがたき火をしている。

「あれ、誰かいる」

「早く行ってここはどこだか聞いてみよう」

それは確か50mほど距離だった。

近づくほどにその火は遠ざかり、いつしか消えて行った。

 

兄は狐火だと言う。

人の影さえ見えていたのに、

だが、音はなかった。

(つづく)


昔の話ー狐火②

2016-08-12 12:30:43 | スケッチ

真っ暗な山の中、手探りで歩くが林道に出る事もできずに、

二人の心は焦るばかりー

「ここはどこよ?」と聞いてみてももう兄は返事をしない。

アケビの蔓に絡まり、木々の枝にぶつかり、何度となく転ぶ。

その度にごろごろと音がして、せっかく拾った栗がこぼれ落ちる。

悲しいと思うけれど、それどころか道が分からん・・・

もう、栗は残っておらん・・・・

 

しばらく山の中をさまよった後、どうやら山の背のようなところに出た。

ずっと向こうに小さく家の灯りを見つけた兄が、息を弾ませながら言う。

「あれは長峰のじゃねえか?」

「あぁ、そうだ!」

「それなら下りて行きゃぁ、二丁の川があり、隧道から林道があるはずだ!」

そう言いながら、険しい谷を転びながら下り始めた。

(つづく)