山の中の小さな農家でも、稲刈りは一年の中で最大の行事だった。
この日ばかりは従妹のお兄さんとお姉さんもお手伝いをしていた。
朝一番のバスでお手伝いに行った兄と私は、持ちなれない鎌で指を切った。
叔父さんが、口の中で噛んだ「よもぎ」の葉っぱを傷口に擦り込んで、
「おじさんは衛生兵だったもんでなぁ・・これで治るぞ!」
と言って笑った。
役に立たないお手伝いだった。
田んぼからは、道の向こうに隧道が見えた。
隧道は暗くて怖くて、近寄る事も通る事もできず、
隧道の先には違う世界があるような気がしていた。