「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

沖縄リカバリートーク (7)

2013年12月09日 21時33分14秒 | 「BPD家族会」
 
(前の記事からの続き)

○ 子供の人格の出没

 この頃から 心子はしばしば、

 子供や赤ん坊の時の人格に 戻るようになっていました。

 診察室でも子供に戻り、 主治医を父親と思い込んで、

 茫然として診察室から出てきました。

 心子は紙の裏に 父親への手紙を書きました。

 完全に子供の字になっています。

 「お父さまへ  きょうはどうしてなの?

 いつものひみつのやくそく いやがったの

 お父さん しんこがキライになったんだね

 しんこが ちかいをまもらなかったから」

 秘密の約束とは 何だったのでしょう?

 主治医は、 近親相姦は あったのではないかと考えました。

 血と血の繋がりがあったから、 一緒に死ぬというところまで 行ってしまったと。

○ 壊れて、 笑って、 そして……

心子は 主治医に転移させた恋愛感情が 受けいられないため、

 憔悴した時を送っていました。

 でも日頃から 入院は絶対いやだと言っていました。

 何故か 閉鎖病棟で監禁されると思っていたのです。

 心子を布団に寝かせると、 やにわに逆上しました。

 「三歳の子供になって そのまま戻りたくない!

 マーもお母さんも 誰も分からなくなって、 壊れてしまいたい!!

苦しいことも何も分からなくなって!

檻の中で 鎖につながれて暮らすの!

 豚の餌でもいいの!! 分からないから!!

あたしを壊して!! マーに壊されたい……!!」

 胸が張り裂けました。

 ただただ 思い切り抱きしめるしかありませんでした。

 そうして、 数日後には、 心子は僕の部屋に来て また明るく振る舞います。

 「ただいまぁ。

 いろいろぶつぶつ文句言っても、 ここが一番落ち着く」

 心子といるのは やっぱり楽しいのです。

 ところがこの後、 メールを出しても電話をかけても、 心子は音信不通になりました。

 心子のマンションへ 行ってみようと思った晩、 心子の母親から電話がありました。

 「心子は今日の午前4時、 ホテルで亡くなりました……」

(次の記事に続く)