「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「無意識の彷徨」 (13)

2007年05月01日 21時06分58秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47053023.html からの続き)
 

○警察署・外景

  ---フェイドイン。

○同・医務室の外

○同・医務室の中

  ベッドに寝ている裕司。
  ベッドサイドになつみと友辺、心配そう
  に見守っている。
  裕司はなつみと友辺に背を向け、体を海
  老のようにしている。
なつみ「(神妙に)……お母さんが事故に遭
 った現場にいた……そのときのことを思い
 出したんですね……」
裕司「(涙ながらに)………僕は……母親が
 目の前で轢かれるのを、ただぼうっと見て
 ただけなんです……驚きも悲しみもしない
 で……」
なつみ「………(心を痛め)」
裕司「……僕は母を見殺しにした……何故か
 ずっとそんな気がしてた……だけど、やっ
 ぱり事実だったんです……!(自責)」
なつみ「何か事情があったのかもしれない…
 …(労るように)」
裕司「(かぶりを振る)……こんな大事なこ
 とさえ覚えてないなんて……僕にとって、
 母親の事故は、記憶にも残らない程度のこ
 とでしかなかった……!」
なつみ「……幼い裕司くんにとって、目の前
 のお母さんの死は、記憶に留めるのさえ耐
 えられないようなでき事だったんじゃない
 かしら……」
  なつみ、裕司の肩に手を掛ける。
なつみ「小さい子供はね、裕司くん、あまり
 にも恐ろしい、受け入れがたい体験をする
 と、トラウマ……心の傷から自分を守るた
 めに、無意識の防衛機能として記憶を消し
 てしまうことがあるの……」
裕司「……え……?(混乱)」
友辺「う~ん……確かに俺たちでも、嫌なこ
 とはなるべく忘れたいっていうのはあるけ
 ど……?」
なつみ「大人と違って子供の場合は、本当に
 その体験自体が抹消されてしまうの。『僕
 はここにいないんだ。こんなことはなかっ
 たんだ。だから辛くないんだ』と無意識に
 言い聞かせて」
裕司「……じゃあ……それ以前の母の記憶も
 ないっていうのは……? 受け入れがたい
 ような母親だったんですか……!? 幼児虐
 待とか……!?」
なつみ「先走りしないで……」
裕司「……そんな母親だから、助けようとし
 なかった……? それを丸ごと忘れるため
 に記憶を消したんですか……!?」
友部「でも待ってくれ、踏み切り事故が本当
 に現実だったと言えるのか?」
なつみ「これだけ鮮明に呼び覚まされた記憶
 は事実に違いないと思う……細かい部分は
 別としても……」
裕司「(頭を抱える)……思い出さなきゃよ
 かった……!! どうしてこんな面接なんて
 したんですか……!?」
友部「(なつみに)だから子供のときのこと
 なんかいいと言ったんだ! 記憶がなくな
 るにはそれだけの理由があったんじゃない
 か……!?」
なつみ「(心苦しい)辛いのは分かります…
 …でも、失ったものを取り戻すには……」
裕司「(耳に入らず)……僕は母を殺したん
 だ……自分の母親を……!! ああ……!!
 (机に自分の頭を叩きつける)」
なつみ「裕司くん……!?」
  裕司、何度も激しく頭を打ちつける。
友辺「やめろ!!(裕司を止める)」
  裕司の額は裂けて血が流れる。
裕司「……ああ……!!(嘆)」
なつみ「裕司くん……!(裕司を抱く)」

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47247327.html