Zooey's Diary

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「蒼穹の昴」

2022年08月09日 | 

西太后が統治していた清朝末期の中国を舞台に繰り広げられる大河物語。
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう―寒村の貧しき糞拾いの少年・春児(チュンル)は、占い師の予言を通じ、科挙の試験を受ける幼なじみの兄貴分・文秀(ウエンシウ)に従って都へ上った。それぞれ歩み始めた二人を待ち受けていたのは、権謀術数渦巻く魔窟と化した宮廷の闇だった…

あまりにも壮大な物語なので、ストーリーについてではなく、印象的だったことを二、三書き留めます。
この物語には膨大な数の宦官(ホアンクワン)が出てくるのですが、その宦官の作り方というのが凄い。
刀子匠(タオヅチャン)という宦官製造専門家が、火で炙った大鎌でチョン斬るのですが、その後が…
トルコのハーレムの宦官が、チョン斬られた後、熱い砂漠の中に埋められ、出血多量にも破傷風にもならず生き残ったものだけが宦官になるという記述をものの本で読んだ時にも驚愕しましたが、こちらはもっと残酷。
刀子匠に払うお金もない春児はそれを自分の手ですべて行い、後に紫禁城の官吏となって、西太后(シータイホゥ)に可愛がられることになります。

そして官僚登用試験、科挙のこと。
その名前は勿論知っていましたが、具体的にどんな風に行われるのか、詳細を知る程に驚きました。
地方で100人に1人という合格率の郷試をくぐり抜けた2万人が、北京に集まる。
煉瓦作りの厩(うまや)のような、壁と天井はあるが扉はないという個房に寝具や食料を持ち込み、9日間に渡って四書五経、詩、政策論などから出された難解な問題への答案を書き続ける。
体力に欠ける者は倒れ、老いて気力の失せた者は死に、気弱な者は狂う、と。
そこから選出されるのは300人、それが千数百年も続いた悪評高き科挙なのですね。
この本の終章で、それは廃止されるのですが。
文秀はそれを首席で突破し、西太后と対立する光緒帝に仕えることになるのです。
なので幼馴染であった春児と文秀は、敵味方となってしまうのですが…

世凱暗殺に失敗して獄中にあった、文秀の同期である王逸(ワンイー)が、小梅(シャオメイ)という貧しい聾唖の少女に救われるシーンに泣けました。
小梅は王逸の食事の差し入れ係をしており、処刑を待つだけの王逸は、無学の彼女に暇潰しに字を教える。
恐らく生まれて初めて人間らしい扱いをされた小梅は、余程嬉しかったのでしょう。
王逸の脱獄の手引きをするのですが、それは自分を始め、家族全員が処刑されるということを覚悟の上だったのです。

「天宮を統べる富と威の星、昴」、その星を背負うと予言を受けた少年の運命はどうなったのか?
良くも悪くも「中国四千年」という言葉を実感させられた、骨太の本でした。

コメント (6)
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