カリフォルニア州フリーモントのフォーチュンクッキー工場に勤めるドニヤは、アパートと職場を往復するだけの単調な日々を送っていた。母国アフガニスタンの米軍基地で通訳として働いていた彼女は、そこでの経験から慢性的な不眠症に悩まされている。ある日、フォーチュンクッキーに入れるメッセージを書く仕事を任されたドニヤは、新たな出会いを求めて、その中のひとつに自分の電話番号を書いたメッセージを紛れ込ませる。やがて彼女の元に、ある男性から会いたいというメッセージが届く(映画comより)

なんとも、もどかしい映画です。
全編白黒で、いつの話?と思ったら、主人公のドニヤは1996年生まれのアフガニスタン難民。
母国の米軍基地で働いていた彼女が命からがら逃げて来たって、ごく近年の話ではないですか。
しかし、彼女のそうした厳しい背景は、画面としては一切出て来ない。
不眠に悩む彼女が、精神科医に語る言葉の端々に、控え目に出て来るだけです。
彼女の隣人、同僚、職場の社長夫妻、精神科医と登場人物は色々出て来て思わせぶりなことを言いますが、何が始まるという訳ではない。
何かが起こりそうで起こらない。

しかし、彼女が何も言わなくても、私たちは知っている。
2021年8月、アフガニスタンのタリバンが首都カブールを掌握した後、何が起こったか。
これは、カブールからカタールに向け出発した米空軍の大型輸送機の機内の様子。
タリバンがカブール市内に入ったことでパニックに陥った市民が、国外へ退避する航空便に乗るために空港に殺到したのだそうです。
車輪付近や機体の側面にしがみついていた大勢の市民の写真も、忘れることはできない…

(2011.8)
なので、ドニヤが言わなくても、我々は容易に彼女の不眠の理由を察することができる。
そして自分に課した罰のように単調な日々を送っていた彼女が、ようやく一歩踏み出したことを、心から応援したくなるのです。
しかし、ことは簡単に上手くいかない。
世の中には、善い人も意地悪な人もいるということか。
それでも一歩を踏み出したドニヤに、幸多かれと願わずにいられません。
NYやサンフランシスコの中華街で食事をすると、このフォーチューンクッキーがついて来ました。
あれは、こうした小さな工場で作られていたのね。
原題の「FREMONT」は、アフガニスタン難民が多く住む、カリフォルニア州の街の名前なのだそうです。
「フォーチューンクッキー」公式HP