椎名誠の「ロシアにおけるリタニノフの便座について」という本を読んだのは
30年以上も前のことだったか。
そこにはロシアの田舎のおぞましいトイレの様子が
実に詳細に、絶望的なまでに具体的に描写してありました。
私が敬愛する米原万里の「ロシアは今日も荒れ模様」にも
「エルミタージュ美術館のトイレでさえ、便意そのものが雲散霧消してしまうほど迫力のある汚さだった」と。
この本が書かれたのは1998年。
他にも、ロシアで便座のあるトイレを見つけるのは至難の業だとか、
慣れた人はマイ便座を持って行くのだとか、まあ色々な情報を得て
海外旅行は好きなものの、ちょっと汚いトイレに行く度に発狂しそうになっている私は
ある種の覚悟を持って、今回のロシア旅行に臨んだのです。
結論から言うと、随分と改善されていました。
エルミタージュ美術館のトイレも、一カ所便座が壊れている所を見つけましたが
随分綺麗になっていました。
今回の旅行で、洋式でない便器(トルコ式と呼ばれるもので、和式と似ている)に
遭遇したのは、ウラジーミルの寺院でだけ。
そこでさえ、水洗ではありました。
ただ…ロシアでは基本、紙が流せないのです。
東南アジアとか、ごく近くの韓国や台湾であっても、それはよくあることです。
しかし、ロシアというと先進大国というイメージを私は持っていたので(行くまでは)
そこで紙を流せないということに驚いたのでした。
紙を流せないということは、便器の横に大きな箱を置き、
そこに使用済みの紙をどんどん入れていくことになる。
それをせっせと回収して空にしてくれればいいのですが
そんなことはまず望めないので、汚れた紙はどんどん溜まり、
遂にはその辺に溢れかえり…(以下自粛)。
赤の広場にあるグム百貨店は、実に壮大で、宮殿のように美しい建物です。
外には色とりどりの花が咲き乱れ、夜は派手にライトアップ。
中は3列のアーケードになっており、遊園地のようでもあります。
高級ブランドショップが軒を連ねるここは、実際には観光客ばかりで
地元の人は殆ど行かないということですが。
ここのトイレにも、入ってみました。
入口には窓口があって、待ち構えているオバサンに小銭を払うのですが
中はごく普通のトイレで、まったくつまらなかった。
そしてここですら、紙を流せなかったのです。
結局、ロシアで私が紙を流せたのは、ホテルのトイレだけでした。
写真はすべてグム百貨店