伊勢雅臣氏のメルマガより
■1.年間300万頭のカンガルーを殺しながら反捕鯨を訴える偽善
オーストラリアのケビン・ラッド首相は、
日本が2010年11月までに捕鯨をやめなければ、日本を国際裁判所に提訴すると語った。
このスタンドプレーに対して、オーストラリア国内からも常識的な批判が出ている。
オーストラリアの有力紙「オーストラリアン」は社説で
「日本はわが国の大きな輸出市場であり、重要な戦略的同盟国だ」
と強調し、重要な同盟国との関係は、
自分たちだけが道徳心を持っていると思い込む国内の
自然保護団体をなだめるだけの首相では、支えられない」と批判している。[1]
「自分たちだけが道徳心を持っていると思い込む」
人々に対しては、もっと手厳しい批判が国際紙、
インターナショナル・ヘラルド・トリビューンから突きつけられた。
「鯨に銛(もり)を打ち込むことは、
牛や羊の肉を常食としている者の間にさえ感情をかき立てるのかもしれないが、
豪州は、作物や牧草を守るため年間300万頭余の野生のカンガルーを撃っているときに、
苦情を言える立場にはほとんどない」と批判した。[2]
■2.反捕鯨国でも捕鯨賛成が過半数
もう一つ、反捕鯨派の足下をすくうような世論調査の結果が出されている。
アメリカの民間会社レスポンシブ・マネジメント社が、
1997(平成9)年から翌年にかけて、代表的な反捕鯨国である
アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアの国民を対象に行った世論調査である。
その設問は次のようなものであった。[3,p191]
__________
ミンククジラは絶滅に瀕しておらず、
国際捕鯨委員会(IWC)は世界中に
100万頭のミンククジラが生息していると推定しています。
では、あなたは次の条件のもとで行われる
ミンククジラの捕鯨に賛成ですか、それとも反対ですか。
捕獲したミンククジラは食糧として利用される。
一部の国民や民族にとってミンククジラの捕獲は文化的側面を有している。
ミンククジラの捕獲はIWCによって、規制されており、
資源に影響が及ばないように毎年適切な捕獲枠が設定される
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「強く反対する」「反対する」を「反捕鯨」、
「どちらとも言えない」を「中立」、
「賛成する」「強く賛成する」を「捕鯨賛成」と3分類すると、
主要な反捕鯨国4カ国での回答は次のようであった。
反捕鯨 中立 捕鯨賛成
アメリカ 19% 10% 71%
イギリス 31% 8% 53%
フランス 27% 11% 63%
オーストラリア 40% 6% 53%
すなわち主要な反捕鯨国でも、過半数は捕鯨賛成なのである。
もっとも、この設問はミンククジラが100万頭もいるというIWCの推定をきちんと説明し、
さらに適切な規制が行わる、という前提を明記している。
こういう点を知らない一般国民は、反捕鯨の比率がもっと高いかも知れない。
しかし、このような合理的な説明をきちんとすれば、
反捕鯨国の国民でも過半数が捕鯨に賛成するという点が重要なのである。
したがって捕鯨問題の本質は、一部の反捕鯨派の政治宣伝に対抗して、
事実と合理的な主張により、いかに国際世論の支持を勝ち取るか、という問題なのである。
参考文献[3]には、そのための豊富なデータと合理的な主張が掲載されているので、
その中から、いくつか興味深いものを紹介したい。
反捕鯨国の人々と話をする機会があったら、
ぜひこれらを紹介し、啓蒙に努めていただきたい。
■3.ミンククジラは世界で100万頭
まずは前節のアンケートの設問にも紹介されていたが、
クジラの種類によっては、絶滅どころが増えすぎているものもある。
1982(昭和57)年に行われた調査では、
南氷洋だけで76万頭のミンククジラがいることが分かった。
この数字は、IWCの本会議に報告され、承認されている。
その後、IWCの科学委員会がさらに詳しい調査を行い、
世界中の海には114万頭程度は生息しているというのが、現在のIWCの公式見解となっている。
国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種とされているナガスクジラは、
調査捕鯨により北大西洋で約3万頭確認されている。
ワシントン条約で絶滅危惧種とされるのは、個体数が1千から2千の種とされているので、
日本はIUCNがナガスクジラを絶滅危惧種としているのを見直すべきだと主張している。
また生物学的にクジラは年に4~7%ずつ増えている、という調査結果が出ている。
したがって、南氷洋のミンククジラの生存数は76万頭と確認されているので、
商業捕鯨で年に4%、すなわち3万頭ほど捕獲しても、絶滅の心配はない。
IWCの科学委員会では、これだけの生存数が確認されているのだから、
年に2千頭は獲っても問題はない、と結論を出した。
日本の調査捕鯨枠としてIWCから認められているのは、
南極海調査海域で44万頭いると推定されているクロミンククジラの850頭、0.2%である。
また北西太平洋調査海域で25千頭いると推定されている
ミンククジラの220頭、0.9%である。
他の種も0.009%から0.4%の幅に入っている。
このようにIWCは科学的にクジラの種類と海域ごとに生存数が調査され、
そこからかなりの安全を見て、調査捕鯨の枠が決められているので、
調査捕鯨がクジラを絶滅に追い込む恐れは全くない。
■4.絶滅が危惧されるホッキョククジラを採り続けるアメリカ
83種類のクジラの中で、絶滅の心配のある種ももちろんある。
たとえばホッキョククジラで、北極海には約8千頭が確認されている。
このホッキョククジラの捕獲を、アメリカは行っているのである。
アラスカに住む先住民族イヌイット族のための「先住民族生存捕鯨」として、
年間54頭の捕獲がIWCにより認められている。
ホッキョククジラは体長20メートル近く、平均体重が80トンもあり、
平均5トンのミンククジラの16倍も大きい。
寿命も150歳から200歳の個体が見つかっているので、
ミンククジラの50年よりもはるかに長い。
このようにホッキョククジラは寿命が長く、また極寒の海に住むため、
増殖が非常に遅く、このペースで捕獲していると、
ホッキョククジラこそやがて絶滅してしまうのでは、と危惧されている。
またトン数で言えば、アメリカは4320トン、
日本の調査捕鯨で南極海と北西太平洋を合わせても、ミンククジラで5350トンと、
量的にもそれほど変わらない。
アメリカは絶滅を危惧されているホッキョククジラを捕獲しながら、
世界に100万頭もいて増えすぎだと言われている
ミンククジラの調査捕鯨を批判しているのである。
■5.増えすぎたクジラが食糧を求めて沿岸部までやって来た
各海域におけるクジラの生存数や、クジラの年齢推定方法などは、
日本の調査捕鯨などで明らかになってきたことだが、もう一つ驚くべき事実が判明した。
長らく、クジラはオキアミ(エビに似た体長数センチほどの浮遊生物)だけを
食べていると考えられていたが、実は近年、
クジラが増えすぎて他の魚まで食べるようになってきているのである。
たとえば、2009(平成21)年に釧路沖で調査捕鯨が行われたが、
捕獲された、どのミンククジラの胃袋からも大量のスケソウダラが出てきて、関係者を驚かせた。
2百リットル容量のドラム缶2~3本分の
スケソウダラ、サンマ、イカ、オキアミなどが詰まっていた。
また近年は、大型種のクジラが釧路沿岸で頻繁に目撃されている。
これらの事実を総合すると、クジラの数が増えすぎて、
オキアミなどの餌が足りなくなり、やむなくサンマやタラを食べ始めたこと、
そして大型のクジラもそれらの餌を求めて、沿岸部に近づいてきている、と考えられている。
実は、クジラの食害が釧路での漁獲高の急減の原因のようだ。
釧路では1980年代には120万トンの漁獲量を誇っていたが、
2005年には12万トンと10分の1にまで減ってしまっている。
クジラによる食害は、釧路ばかりではない。
函館では伝統的にイカ漁が盛んで、夜、集魚灯をつけてイカを集める。
そこにクジラが大量にやってきて、集まって来たイカを食べてしまう、というのである。
カナダやアメリカの漁民の間でも、クジラの食害問題が浮上し始めているという。
日本鯨類研究所の試算では、
1年間で地球上の人類が採る漁獲高の総量は約9千万トンであるのに対し、
地球上のクジラが食べる魚の総量は3億トンから5億トンとされている。
クジラの商業捕鯨を再開して、適切な生存数をコントロールすることによって、
鯨肉の供給だけでなく、人類全体の漁獲高を大きく増やすことができる。
これが迫り来る食糧難への有効な対応策なのである。
■6.地球環境を心配なら牛肉よりも鯨肉を
鯨肉は、環境面においても、また健康面においても、
牛肉などよりははるかに優れた食材である。
まず環境面から見てみよう。牛肉を生産するのと、
クジラを獲るのとではエネルギー効率がまるで違う。
鯨の場合は、鯨肉一キロカロリーを得るのに、
小型捕鯨船を使った場合、1キロカロリーの燃料を消費する。
牛肉1キロ分を生産するには約120キロの穀物飼料が必要であり、
それだけの穀物を生産するには、1200キロカロリーの燃料を必要とする。
カロリー効率で見れば、鯨肉は牛肉の1200倍ということになる。
また牛は大量の糞尿を出し、これが土壌を硝酸化する。
さらに牛の発するゲップから大量のメタンガスが排出される。
アメリカだけで数億頭の牛を飼育しているので、
地球の温暖化にとって無視できないほどだという。
海に棲むクジラには、こういう環境汚染の心配はない。
鯨肉は牛肉に比べて、格段にエコな食材であると言える。
地球環境危機を心配する人なら、牛肉よりも鯨肉を食べるべきなのである。
■7.鯨肉は優れた食材
栄養面でも、鯨肉は大変に優れた食材である。
100グラムあたりのタンパク質含有量では、
牛肉赤身の17~18グラムに対して、鯨肉の赤身は24~25グラムもあり、
動物性タンパク質の中ではもっともタンパク質含有量が高い。
このタンパク質が口中で噛まれることによってアミノ酸となり、
それが生命体の活力源となる。
また、このアミノ酸がうまみとなるので、鯨肉は美味しいのである。
コレステロールが少ない点も、健康食として多いに注目されている。
100グラムあたりのコレステロール量は、
牛肉が72ミリグラム、豚肉が61ミリグラムに対して、
鯨肉は38ミリグラムしかない。
健康に関心のある人なら、EPAやDHAという
用語はおなじみだろうが、鯨肉はこれらを多く含む。
EPAは脳溢血や心筋梗塞などの血管系の病気の予防に効果があり、
またDHAは脳を活性化して学習能力を上げたり、眼の老化防止、疲労回復の機能がある。
牛肉、豚肉、鶏肉を食べてアレルギーになる人はいるが、
不思議なことにクジラでアレルギーになる人はいない。
そこでアレルギー体質の子供のために、鯨肉を供給する運動も行われている。
なぜ鯨肉にはアレルギーが出ないのか、理由は分かっていないが、
一つの有力な仮説として、南氷洋で捕れたクジラには発ガン性を持つPCBや、水銀などの
汚染物質がきわめて少ない点が挙げられている。
他の魚の平均に対し、PCBは2700分の1、水銀は15分の1である。
■8.捕鯨は我が国の国際的使命
適切なコントロールのもとで商業捕鯨が再開されて、
このような優れた鯨肉が供給されたら、どうなるか。
先進国においては、消費者は地球環境にも人体にも優しい健康食として、
牛肉よりも鯨肉を歓迎するだろう。
また発展途上国においても、安価なタンパク質源として、栄養状態の改善に貢献するだろう。
その分、牛肉の需要は落ち込み、価格は低下する。
困るのはオーストラリアやアメリカなどの牛肉輸出国である。
これらの牛肉輸出国が代表的な反捕鯨国であることから、
反捕鯨国の真の狙いは牛肉輸出を維持することだ、という穿った見方が出てくる。
それが真実であるかどうかは別にして、鯨肉の利用拡大は我が国の食料自給率を高め、
かつ世界の食糧問題、環境問題の解決に向けて効果的な対策になりうるのである。
反捕鯨プロパガンダに対抗して、
このような事実と論理によって捕鯨の妥当性、必要性を粘り強く訴え続けていく事は、
我が国の国際的な使命と言えるのではないか。
(文責:伊勢雅臣)
オーストラリアのケビン・ラッド首相は、
日本が2010年11月までに捕鯨をやめなければ、日本を国際裁判所に提訴すると語った。
このスタンドプレーに対して、オーストラリア国内からも常識的な批判が出ている。
オーストラリアの有力紙「オーストラリアン」は社説で
「日本はわが国の大きな輸出市場であり、重要な戦略的同盟国だ」
と強調し、重要な同盟国との関係は、
自分たちだけが道徳心を持っていると思い込む国内の
自然保護団体をなだめるだけの首相では、支えられない」と批判している。[1]
「自分たちだけが道徳心を持っていると思い込む」
人々に対しては、もっと手厳しい批判が国際紙、
インターナショナル・ヘラルド・トリビューンから突きつけられた。
「鯨に銛(もり)を打ち込むことは、
牛や羊の肉を常食としている者の間にさえ感情をかき立てるのかもしれないが、
豪州は、作物や牧草を守るため年間300万頭余の野生のカンガルーを撃っているときに、
苦情を言える立場にはほとんどない」と批判した。[2]
■2.反捕鯨国でも捕鯨賛成が過半数
もう一つ、反捕鯨派の足下をすくうような世論調査の結果が出されている。
アメリカの民間会社レスポンシブ・マネジメント社が、
1997(平成9)年から翌年にかけて、代表的な反捕鯨国である
アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアの国民を対象に行った世論調査である。
その設問は次のようなものであった。[3,p191]
__________
ミンククジラは絶滅に瀕しておらず、
国際捕鯨委員会(IWC)は世界中に
100万頭のミンククジラが生息していると推定しています。
では、あなたは次の条件のもとで行われる
ミンククジラの捕鯨に賛成ですか、それとも反対ですか。
捕獲したミンククジラは食糧として利用される。
一部の国民や民族にとってミンククジラの捕獲は文化的側面を有している。
ミンククジラの捕獲はIWCによって、規制されており、
資源に影響が及ばないように毎年適切な捕獲枠が設定される
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「強く反対する」「反対する」を「反捕鯨」、
「どちらとも言えない」を「中立」、
「賛成する」「強く賛成する」を「捕鯨賛成」と3分類すると、
主要な反捕鯨国4カ国での回答は次のようであった。
反捕鯨 中立 捕鯨賛成
アメリカ 19% 10% 71%
イギリス 31% 8% 53%
フランス 27% 11% 63%
オーストラリア 40% 6% 53%
すなわち主要な反捕鯨国でも、過半数は捕鯨賛成なのである。
もっとも、この設問はミンククジラが100万頭もいるというIWCの推定をきちんと説明し、
さらに適切な規制が行わる、という前提を明記している。
こういう点を知らない一般国民は、反捕鯨の比率がもっと高いかも知れない。
しかし、このような合理的な説明をきちんとすれば、
反捕鯨国の国民でも過半数が捕鯨に賛成するという点が重要なのである。
したがって捕鯨問題の本質は、一部の反捕鯨派の政治宣伝に対抗して、
事実と合理的な主張により、いかに国際世論の支持を勝ち取るか、という問題なのである。
参考文献[3]には、そのための豊富なデータと合理的な主張が掲載されているので、
その中から、いくつか興味深いものを紹介したい。
反捕鯨国の人々と話をする機会があったら、
ぜひこれらを紹介し、啓蒙に努めていただきたい。
■3.ミンククジラは世界で100万頭
まずは前節のアンケートの設問にも紹介されていたが、
クジラの種類によっては、絶滅どころが増えすぎているものもある。
1982(昭和57)年に行われた調査では、
南氷洋だけで76万頭のミンククジラがいることが分かった。
この数字は、IWCの本会議に報告され、承認されている。
その後、IWCの科学委員会がさらに詳しい調査を行い、
世界中の海には114万頭程度は生息しているというのが、現在のIWCの公式見解となっている。
国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種とされているナガスクジラは、
調査捕鯨により北大西洋で約3万頭確認されている。
ワシントン条約で絶滅危惧種とされるのは、個体数が1千から2千の種とされているので、
日本はIUCNがナガスクジラを絶滅危惧種としているのを見直すべきだと主張している。
また生物学的にクジラは年に4~7%ずつ増えている、という調査結果が出ている。
したがって、南氷洋のミンククジラの生存数は76万頭と確認されているので、
商業捕鯨で年に4%、すなわち3万頭ほど捕獲しても、絶滅の心配はない。
IWCの科学委員会では、これだけの生存数が確認されているのだから、
年に2千頭は獲っても問題はない、と結論を出した。
日本の調査捕鯨枠としてIWCから認められているのは、
南極海調査海域で44万頭いると推定されているクロミンククジラの850頭、0.2%である。
また北西太平洋調査海域で25千頭いると推定されている
ミンククジラの220頭、0.9%である。
他の種も0.009%から0.4%の幅に入っている。
このようにIWCは科学的にクジラの種類と海域ごとに生存数が調査され、
そこからかなりの安全を見て、調査捕鯨の枠が決められているので、
調査捕鯨がクジラを絶滅に追い込む恐れは全くない。
■4.絶滅が危惧されるホッキョククジラを採り続けるアメリカ
83種類のクジラの中で、絶滅の心配のある種ももちろんある。
たとえばホッキョククジラで、北極海には約8千頭が確認されている。
このホッキョククジラの捕獲を、アメリカは行っているのである。
アラスカに住む先住民族イヌイット族のための「先住民族生存捕鯨」として、
年間54頭の捕獲がIWCにより認められている。
ホッキョククジラは体長20メートル近く、平均体重が80トンもあり、
平均5トンのミンククジラの16倍も大きい。
寿命も150歳から200歳の個体が見つかっているので、
ミンククジラの50年よりもはるかに長い。
このようにホッキョククジラは寿命が長く、また極寒の海に住むため、
増殖が非常に遅く、このペースで捕獲していると、
ホッキョククジラこそやがて絶滅してしまうのでは、と危惧されている。
またトン数で言えば、アメリカは4320トン、
日本の調査捕鯨で南極海と北西太平洋を合わせても、ミンククジラで5350トンと、
量的にもそれほど変わらない。
アメリカは絶滅を危惧されているホッキョククジラを捕獲しながら、
世界に100万頭もいて増えすぎだと言われている
ミンククジラの調査捕鯨を批判しているのである。
■5.増えすぎたクジラが食糧を求めて沿岸部までやって来た
各海域におけるクジラの生存数や、クジラの年齢推定方法などは、
日本の調査捕鯨などで明らかになってきたことだが、もう一つ驚くべき事実が判明した。
長らく、クジラはオキアミ(エビに似た体長数センチほどの浮遊生物)だけを
食べていると考えられていたが、実は近年、
クジラが増えすぎて他の魚まで食べるようになってきているのである。
たとえば、2009(平成21)年に釧路沖で調査捕鯨が行われたが、
捕獲された、どのミンククジラの胃袋からも大量のスケソウダラが出てきて、関係者を驚かせた。
2百リットル容量のドラム缶2~3本分の
スケソウダラ、サンマ、イカ、オキアミなどが詰まっていた。
また近年は、大型種のクジラが釧路沿岸で頻繁に目撃されている。
これらの事実を総合すると、クジラの数が増えすぎて、
オキアミなどの餌が足りなくなり、やむなくサンマやタラを食べ始めたこと、
そして大型のクジラもそれらの餌を求めて、沿岸部に近づいてきている、と考えられている。
実は、クジラの食害が釧路での漁獲高の急減の原因のようだ。
釧路では1980年代には120万トンの漁獲量を誇っていたが、
2005年には12万トンと10分の1にまで減ってしまっている。
クジラによる食害は、釧路ばかりではない。
函館では伝統的にイカ漁が盛んで、夜、集魚灯をつけてイカを集める。
そこにクジラが大量にやってきて、集まって来たイカを食べてしまう、というのである。
カナダやアメリカの漁民の間でも、クジラの食害問題が浮上し始めているという。
日本鯨類研究所の試算では、
1年間で地球上の人類が採る漁獲高の総量は約9千万トンであるのに対し、
地球上のクジラが食べる魚の総量は3億トンから5億トンとされている。
クジラの商業捕鯨を再開して、適切な生存数をコントロールすることによって、
鯨肉の供給だけでなく、人類全体の漁獲高を大きく増やすことができる。
これが迫り来る食糧難への有効な対応策なのである。
■6.地球環境を心配なら牛肉よりも鯨肉を
鯨肉は、環境面においても、また健康面においても、
牛肉などよりははるかに優れた食材である。
まず環境面から見てみよう。牛肉を生産するのと、
クジラを獲るのとではエネルギー効率がまるで違う。
鯨の場合は、鯨肉一キロカロリーを得るのに、
小型捕鯨船を使った場合、1キロカロリーの燃料を消費する。
牛肉1キロ分を生産するには約120キロの穀物飼料が必要であり、
それだけの穀物を生産するには、1200キロカロリーの燃料を必要とする。
カロリー効率で見れば、鯨肉は牛肉の1200倍ということになる。
また牛は大量の糞尿を出し、これが土壌を硝酸化する。
さらに牛の発するゲップから大量のメタンガスが排出される。
アメリカだけで数億頭の牛を飼育しているので、
地球の温暖化にとって無視できないほどだという。
海に棲むクジラには、こういう環境汚染の心配はない。
鯨肉は牛肉に比べて、格段にエコな食材であると言える。
地球環境危機を心配する人なら、牛肉よりも鯨肉を食べるべきなのである。
■7.鯨肉は優れた食材
栄養面でも、鯨肉は大変に優れた食材である。
100グラムあたりのタンパク質含有量では、
牛肉赤身の17~18グラムに対して、鯨肉の赤身は24~25グラムもあり、
動物性タンパク質の中ではもっともタンパク質含有量が高い。
このタンパク質が口中で噛まれることによってアミノ酸となり、
それが生命体の活力源となる。
また、このアミノ酸がうまみとなるので、鯨肉は美味しいのである。
コレステロールが少ない点も、健康食として多いに注目されている。
100グラムあたりのコレステロール量は、
牛肉が72ミリグラム、豚肉が61ミリグラムに対して、
鯨肉は38ミリグラムしかない。
健康に関心のある人なら、EPAやDHAという
用語はおなじみだろうが、鯨肉はこれらを多く含む。
EPAは脳溢血や心筋梗塞などの血管系の病気の予防に効果があり、
またDHAは脳を活性化して学習能力を上げたり、眼の老化防止、疲労回復の機能がある。
牛肉、豚肉、鶏肉を食べてアレルギーになる人はいるが、
不思議なことにクジラでアレルギーになる人はいない。
そこでアレルギー体質の子供のために、鯨肉を供給する運動も行われている。
なぜ鯨肉にはアレルギーが出ないのか、理由は分かっていないが、
一つの有力な仮説として、南氷洋で捕れたクジラには発ガン性を持つPCBや、水銀などの
汚染物質がきわめて少ない点が挙げられている。
他の魚の平均に対し、PCBは2700分の1、水銀は15分の1である。
■8.捕鯨は我が国の国際的使命
適切なコントロールのもとで商業捕鯨が再開されて、
このような優れた鯨肉が供給されたら、どうなるか。
先進国においては、消費者は地球環境にも人体にも優しい健康食として、
牛肉よりも鯨肉を歓迎するだろう。
また発展途上国においても、安価なタンパク質源として、栄養状態の改善に貢献するだろう。
その分、牛肉の需要は落ち込み、価格は低下する。
困るのはオーストラリアやアメリカなどの牛肉輸出国である。
これらの牛肉輸出国が代表的な反捕鯨国であることから、
反捕鯨国の真の狙いは牛肉輸出を維持することだ、という穿った見方が出てくる。
それが真実であるかどうかは別にして、鯨肉の利用拡大は我が国の食料自給率を高め、
かつ世界の食糧問題、環境問題の解決に向けて効果的な対策になりうるのである。
反捕鯨プロパガンダに対抗して、
このような事実と論理によって捕鯨の妥当性、必要性を粘り強く訴え続けていく事は、
我が国の国際的な使命と言えるのではないか。
(文責:伊勢雅臣)
写真はテレビ画面より「陵王」