平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

龍~RON~ 村上もとか・著 「すべてを捨てて生きれば、何とかいけるもんや」

2011年09月06日 | コミック・アニメ・特撮
 「龍」(村上もとか・著 小学館・ビックコミック刊)を読んでいる。

 主人公の押小路龍は何とさわやかで気持ちのいい青年だろう。
 コミックス6巻ではこんなふうに描かれる。
 使用人・田鶴ていとの恋愛を貫くために押小路家を出て、自活していくことになる龍。

 龍の押小路家は京都の大財閥で、実は龍はお坊ちゃま。
 なかなか職が見つからず、詐欺師にダマされて有り金を全部持っていかれたりする。
 だが、ここからがすごい。
 詐欺師にダマされて龍はこう叫ぶ。
 「やられたあ! あのおっちゃん、たいしたもんやでーー!」
 苦労知らずのお坊ちゃんのリアクションとも言えるが、普通の人間なら落ち込んだり、怒ったりする所、龍は見事にダマした詐欺師を賞賛する。

 そして、さらに次が龍のすごい所。
 龍は、五条大橋で<乞食>になる。
 だが、乞食になっても落ち込まない。
 かつての恋人で幼なじみの小春に出会っても、何ら恥じることなく「おめぐみを!」「ありがとうござい!」と心から言える。
 小春もなかなか粋で、そんな龍に財布をまるごと恵み、「面白いなぁ、龍はんは」とクスリと笑う。

 龍はだんだん乞食が板についてくる。
 乞食仲間の長老格の老人(かつては幕末の志士だったらしい)を「五条のおっちゃん」と言って慕い、橋の上で牛若丸の芸事をして金を稼ぐ。
 そして、こんな心境になる。
 「すべてを捨てて生きれば、何とかいけるもんや」
 龍の叔父も橋の上で乞食をしている龍を見て、「乞食なんかやっていないで俺の仕事をやれ」と言って助け船を出す。
 だが、龍は叔父の申し出を断る。
 「オレ、今この仕事が楽しいんですわ。銭もぼちぼち貯まるし、相棒(五条のおっちゃん)はオレの人生の先生や」
 龍は自分の置かれている現状を嘆いたり、恨んだりしない。
 何も持っていないこと、持っていたものが失われることはつらいが、こだわらない。
 こだわってウジウジするよりは現在を見る。
 現在を積極的に楽しんで、何かを学んでいく。
 人間が大きいと言えば大きいし、アホと言えばアホ。
 こんな龍を叔父はこう評す。
 「アホはアホなりに、少しは根性が座ってきたか」
 先程の元カノ・小春のリアクションもそうだが、この叔父と言い、龍の脇役たちも実に魅力的だ。

 さて、こんなさわやかな青年・龍。
 彼はこれから昭和の怪物・北一輝に出会ったり、様々な形で、戦前の昭和という時代と関わっていく。
 そして、激動・苦境に遭いながらも龍はそのさわやかさを失わない。

 自分が苦境にある時に何度も読みたい作品だ。
 「すべてを捨てて生きれば、何とかいけるもんや」と龍が語ったとおり、お金も地位も持っているものすべてを捨てた方が、実は自由に生きられるということを教えてくれる。
 龍のようにさわやかになれれば、人生を力強く生きていくことが出来るだろう。


コメント
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