折に触れて書くことがありますが、
「何かリクエストはありませんか?」という場合、普通の方々にも耳馴染みがあったり、
想い出の曲だったりするものを、1ステージの中に何割か入れるほうがお互いに気楽だ、
という配慮があります。
で、ほとんどの場合
「できる曲しかやれませんけど」などと付け足します。
私の場合は、ピアノとベースのほうを見て
「三人のうち二人が知っていれば、たぶんお届けできます」
五十嵐さんの場合は
「といっても、やりたくない曲はやらないんですがね」と、澄まして言います。
ある日の五十嵐トリオに、最近いらした方が
「“セント・トーマス”お願いしますどうしても五十嵐さんのが聴きたい」
と、熱心にリクエスト
かなり驚いてズッコケる五十嵐さん。
「え~と、この編成でねえ、う~~んと、どんな感じだったっけ?(しばし考え込む)
ちょっと待ってくださいよ。10分ばかり練習さしてもらって、と」今度は客席がズッコケる。
ピアノの森田さんが立ちあがって五十嵐さんに耳打ち
「じゃ、休憩中に打ち合わせて、次のステージにしていただいたらどうでしょう?」
五十嵐さんニッコリして
「あ~た、いいこと言うねえそれがいいや。
(客席に向かって)お急ぎですか?大丈夫?次のステージもいられますか?」
客「(喜々として)もちろんいます」
五十嵐「うふふ、この手は使えるねお客さん引き留めるときにね」
そして次のステージ、別に打ち合わせも練習もしていないようでしたが・・・
森田さんがお約束のカリプソ的イントロを繰り出すと、五十嵐さんは事もなげに
アルトサックス一本で、あの曲を気持ち良く聴かせて下さったのでした
五十嵐「(涼しい顔で)何十年もやっていない曲だとか、他の人のスタイルであんまり有名な曲ってのは、
ちょっとは心の準備がいるんだね」
・・・恐れ入りました