
前出'When You Wore a Tulip'(君がチューリップを飾ったあのとき)は、
29日の深澤トリオとの『フラワー・ジャズ』(花にまつわる曲の数々という意味
:私の勝手な命名)の中の一曲として仕込んでおります。
ジュディー・ガーランドとジーン・ケリーが舞台で歌った録音では、バース部分から
語っていますが、私たちの現場で演奏されるのは、真ん中のコーラスの部分だけでしょう。
後半の「バース2」部分は歌詞資料があったので訳してみました。
で、思い出したこと・・・

歌舞伎の新作物に「ぢいさんばあさん」(森鴎外作)という演目があります。
人もうらやむオシドリ夫婦、周囲も当てられっぱなし、という美男美女のカップルがいました。

ところが、意地悪な同僚に喧嘩を売られて思わずかっとなってそれを買ってしまった夫、
はずみで相手を死なせてしまいます。非は殺されたほうにあったので、夫は
「他家お預けの身」となり、37年という永い間妻と離れ離れに暮らすことに。

妻は主家に重宝されて奥勤めをし、今でいうキャリアウーマンとして立派に務めあげて、
いざ夫が許されて帰って来る日、新婚の日々を過ごした懐かしい家で、甥っ子夫婦の計らいで
再会する、という場面。・・・あのときはまだ細かった庭の桜の木が、立派な大木になって
いるのを感慨深げに眺める夫(すっかり好々爺になっている)の元へ、籠にのって妻が
やって来ます。籠から出た妻の髪はほんのり輝く白髪。足元もときどきおぼつかず、
二人は最初お互いがわからずにいぶかしそう・・・。

玉三郎と仁左衛門(当時は孝夫)のコンビが相思相愛夫婦の若いときと老齢とを演じるのを
見たとき、微笑ましさと人生の無常とを同時に感じてグッときた、なんとも良いお芝居です。

玉さま最近美しい白髪の鬘がお気に入りなのではないかと思えるほど、老婦人の熱演が
目立ちます。
世の中に翻弄され、辛い思いもたくさんして年を重ねていく・・・
でも、その折々の自分と愛する人たちを、いつでも美しいと思えて
好きでいられたらいいですね。