初めてみえた初老の紳士:カウンターで機嫌よくおしゃべりして
いらっしゃいましたが、歌が終わって挨拶に行くと
「イヤ、素晴らしい!ウマイですねえ。背中で聴いていても
引き込まれますね
」
私「ありがとうございます
」
紳士「プロだったことあるんですか?」
私「今現在プロですが?
」
紳士「いえ、あのう、デビューしたとか、レコードを出したとか?」
こういう場合、非常に説明に困ります。ミュージシャンとか
歌手というのは、国家資格でもなんでもないので、その技術で
お金をもらって仕事をして、生業をたてていればプロだ、とは言えます。
が、一般の方々の多くは、楽器店でその人のCDを売っている、とか、
テレビの番組に出ている、とかいう事実がないと、ホンモノのプロでは
ないのではないか、と思っていらっしゃるようです。
特に、スタンダードの曲をやっている場合(つまり、自分のために
書かれたオリジナル曲ではない)、一人前の職業歌手だ、というのは、
業界と現場の仲間うちでのみ認められている、とも言えますね。
ですが、これは実は、どこの業界でもそうではないでしょうか?
何を作っていても、何を売っていても、その需要のない人々にとっては、
何のプロだかわからないのですから。
もうひとつ、演奏をしたりお酒を作ったりする職人としての
プロのレベルについて、一般の方々は、自分の耳と目で判断する習慣を
お持ちになりません。ジャズボーカル新人賞をもらった、とか、
カクテル・コンペティションで1位になった、とかいう実績がないと
“モグリ”なのではないかとさえ疑っていらっしゃるフシがあります。
肩書きや評論家の意見ではなく、自分の聴覚と味覚を信じましょう。
現場で味わったお酒がおいしければ、サーブしてくれた人は
プロのバーテンダーだし、聴いて気分がよければ、演奏者は
優れたプロです。