お昼前に出かける直前に作ったオムライスを持って母の処へいくが、先客としてすぐ下の弟が来ていて、今出前でトンカツを注文したばかりだと云うので、ここで母にオムライスを作ってきたと出すのも、そのまま残って俺の分だけ食べるのも変なムードになるので、用事にかこつけて帰ってしまう。子供たちも60半ばになると、母の前で二人揃って甘える訳にはいかない。真っ直ぐ帰宅して自分の分のオムライスを温めて食べてからこの日記を書こうとしたら又睡魔に襲われる。ソファにひっくり返って、30分程仮眠。でも、起きてからも何を書いていいか分からず再び日記を放棄して(本当はとても書きたいことがあるのに公けにするのが難しい時にはこうして書けなくなることが時々ある。結局色々誤魔化して書き終わったのは夕方過ぎだった)、録画してあった「フラメンコ・フラメンコ」(カルロス・サウラ監督)をぼんやり見る。そう言えば、封切りの時にこの映画を一緒に見に行こうと誘って、断られたのが社長秘書のYさんと親しくなるきっかけだったことを懐かしく思い出す。夕食は食欲がなかったけど、カツ丼を作って無理して食べてから、映画「THE有頂天ホテル」(三谷幸喜監督)、ノンフィクションW「撮影監督・山本秀夫~三谷幸喜の夢を撮る~」と俺まで「三谷幸喜祭り」そして深夜に再放送されていたETV特集「認知症と闘う映画監督 森崎東」を見る。今からもう四十年近くも前のことだ。脚本家になりたてだった俺は森崎さんに何故か可愛がられ、お宅にも何度かお邪魔したし、監督が東京にいらした時には拙宅にも泊まっていただいたことがあった。そして映画のシナリオを三本(未映画化が二本と他の監督の映画化作品が一本)ご一緒させていただき、テレビのシリーズに二本参加させていただいた。そんなご恩のある方なのに、最後にお電話を差し上げてお話させていただいてからご無沙汰しっ放しで、いつのまにか25年もの時が経ってしまった。そしてて、今、66才の俺は真っ暗な部屋の中で初期の認知症だと医者に診断された森崎さんが言葉を紡ぎだすように認知症をテーマにした新作の映画(ペコロスの母に会いに行く)について語られるのを複雑な思いで聞く。そして映画への情熱がまだまだ衰えていらっしゃらないことを自分のことの様に喜ぶ。それに引き換え俺は‥‥と、お昼に帰ってきてから部屋に籠もったままで、歯科医のSちゃんと去年結婚したばかりのMちゃんと電話で話した以外はテレビの画面ばかりを見ていて、すっかり暗い闇の住人になってしまった俺は、囁くことも出来ない。