桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2013・12・10

2013年12月11日 | Weblog
この数日、目が覚めると即座にバスタブにお湯を入れる。それまでは義務的で新聞を読んだりトイレに行った後で蛇口をひねったのが、朝風呂に入るのが楽しみになっているのだ。それはバスタブにゆったり浸かって中村文則の小説を読むこと。昨日の朝風呂までで「掏摸」を読み終わったので、寝る時ベッドの中でデビュー作の「銃」を読み出して、グイグイと引きつけられたものの、酔っていたこともあってさすがに一時間位で眠ってしまったので、その続きが楽しみでたまらないのだ。と云うと、いかにもミステリーっぽいストーリー重視の小説に思われてしまうかも知れないけど、「掏摸」も「銃」もストーリーらしいストーリーはない。「掏摸」もそうだったが、「銃」も偶然拳銃を手に入れた普通の大学生がたゆたっているだけの小説だ。でも、とまらない。今日もバスタブにつかりながら五十頁も読んでしまった。読み終わるのが淋しいからもっとゆっくり読まないといけないとと自戒したものの、風呂を出てからも後を引いてしまって、そりゃ今日は老老ランチがなかったので、冷蔵庫と冷凍庫の中の残り物を引っ張りだして、鰯の干物、納豆、市販の小ナスの漬け物、目玉焼きのプチトマトソティ添え、白菜としめじとインゲンと春菊の鍋物風味噌汁を作って一人食べたりしたり、この日記を書いたり、たまりにたまったこの二カ月分の請求書など郵便物を開封したりする時間を取ったりはしたけど、五時近くまでゆっくりゆっくり「銃」を読み進めていたら、もう半分を過ぎてしまった。やばい。このまま行ったら今日中に読み終わってしまうと怯えて、急遽思い立って紀伊国屋サザンシアターに向い、文学座公演「大空の虹を見ると私の心は踊る」(松本祐子演出)を当日券で見る為に並ぶ、と書くと折角の芝居に失礼だけど「銃」の誘惑はその位すごいのだ。終わった後、新宿で飲もうと思ったけど、下北沢に向う。開店の時に世話になったジャズバー「L」の店主Oさんに挨拶しようと思ったからだけど、Oさんはおらず、奥さんに言づけをしてラムを三杯飲んで店を出る。その時、ふとこの店には七月の中旬に※※さんと来て以来だったことに気づく。そういえばあの日は青山の映画館を出たら俄か雨に振られて近くの居酒屋の表にあったパラソルに飛び込んだものの、しばらくして彼女の服がびしょ濡れになってしまったもんだから下北沢で古着を買おうなんて、今考えると馬鹿みたいな誘い文句でこの街に来て、その後「L」で夜中までジャズを聞きながら口説く機会を失って悶々としながら過ごした思い出があるけど、そのおかげで「パラソル」と云う芝居ができたと思うと、ちょっと感慨深い。でも、そのロマンチックな感慨深さも空腹には耐えられず、下北沢駅前でラーメン、いやチャーシューメンを食べて五反田へ。そしてまたその駅前の深夜スーパーで明日の老老ランチのメニューを考えながら買い物。ついでに日本酒の肴としてするめを買ったりする。もうこうなると中村文則と※※さんとの思い出は何処かに行ってしまって、炙ったイカで日本酒飲みながらテレビのバラエティ。桃井章、文学的やロマンチックだけじゃ終わらない。。