昨日の日記の最後にも書いたけど「掏摸」(中村文則)は凄い。正直云うと、この小説が大江健三郎賞を受けたことも米の「ウォールストリートジャーナル」で2012年のベスト10小説に選ばれた事も知らなかったし、著者の中村文則が1977年生れで俺より30才も若い作家だと云うことも知らなかった。何となく何かに惹かれる様に本屋の棚にあった文庫本を買い求めただけなのに、出だしの「まだ僕が小さかった頃、行為の途中、よく失敗をした」と云うフレーズが俺を鷲掴みにした。それは「幽霊たち」(ポールオースター)の「まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる」という冒頭のフレーズを読んだ時の感触に似ている。そう言えば「幽霊たち」も探偵が主人公だと知って、だったら気軽に読めるだろうと買い求めたものだったのけど、同じ様にこの小説も天才スリ師が主人公だと書いてあったから軽い読み物のつもりで買い求めたのだ。でも、二つの小説とも「軽かった」り「気軽」だったりはしなかった。「重くて」「深刻な」作品だったが、買い求めた時の気軽さが幸いしてか身構えることなくその世界に耽溺することができたのかもしれない。お昼に知人と広尾でランチした後、店に出向き、便利屋に頼んで最後の荷物運び出し。棚が壊れ、カウンターの中の冷蔵庫がなくなり、電気コードが垂れ下がる。十年間苦楽を共にしたあのコレドの空間が廃墟になってしまった。もうあの場には足を踏み入れたくない。淋し過ぎる。哀し過ぎる。3時過ぎに母の処に稲荷寿司と松坂牛のコロッケを持って行っておやつ。7時にまだ25才なのに70年代の雰囲気を漂わすLさんを誘って彼女が好きそうな70年代前衛演劇の旗手だった芥正彦が台本演出する「ホモフィクサス舞踏オペラHEL- GABAL」を草月ホールに見に行く。アルトーの詩、結城一糸のあやつり人形、室伏鴻の舞踏、近藤等則のトランペット…‥は充分すぎる位70年っぽくてLさんは満足したみたいで、誘った俺も満足。終わった後、会場で偶然あったS新聞のUさんと三人で乃木坂近くのレストランバーで飲む。何だかこうしてコレドのお客さんだった二人とコレドの近くで飲むなんて何とも複雑な気持になる。一時間少しで終電に間に合うように乃木坂駅に急ぐ途中チラッとみえたコレドのあった乃木坂ビルの外景は俺の気持をすさんだものにする。明治神宮前で二人と別れて五反田に向うが、このまま一人部屋に帰るのが辛くて、五反田有楽街で居酒屋から危ないスナックをはしごしたりして水割り二杯で(+ママにも奢ったか)一万円ぼられる。かなり精神状態がよくない。でもパソコンは修復した。