伝説の歌手、Tさんの夢をみた。彼女から借りていた広尾の店の前を昨日通りかかったからだろうか?ご主人が亡くなって、彼女が人前で歌わなくなって、もう十五年以上になるのに、俺の夢の中でTさんは名曲『K』を歌っていた。恋人の制止を振り切って歌手になって、ステージに立とうとした時に、その人が死んだという知らせが来た。けど、それでも歌手はステージに立つというストーリーの歌詞。夢の中だというのに、その歌は俺の心に沁み入る。歌詞の一言一言が人生の重さを語っている。重さを知っている人間しか歌えない唄だ。俺は夢の中で彼女の唄を聴きながら、何故か歌詞の中の恋人に自分を重ね合わせて、俺が死んだ時に彼女がこの唄を歌っている光景を図々しくも想像して涙ぐんでいた。夢の中だけど、それ程に訴えかける唄だった。今日は休みだというのに、二月の株主総会の為に判子を貰いに取締役であるHさんやM君に別々に会っていたのだけど、その間中、俺の頭の中ではTさんの唄が流れ続けていた。