桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2006・9・16

2006年09月17日 | Weblog
突然結婚を申し込まれた。ホント突然だった。三年間連絡を絶っていた女優のKが店に突然電話して来て、「しばらく」と云う間もなく「桃井さん、私と結婚して」と切羽詰まった声で云った。こう云う時、あまりのことに「そりゃいいけど」と取り敢えず答えざるえない。「よかった」と云うK。「で、何があったの?」と探る俺。「あのね、もう駄目なのよ」と事情を話しだすKは三年前と同じ様に泥酔している。お酒の力を借りながら事務所と上手くいかなくて経済的にどうにも立ち行かなくなった事情を話し続ける。俺は厨房ですき焼を作りながら「だから俺と結婚したいなんて言い出した訳」と内心の声で呟く。他にも注文が入る。電話しながらは作れないので一旦切ろうとした。すると「今電話切ったら死ぬよ、私」とKは脅かす。おいおい、冗談じゃないよ。死ぬって云う奴に限って死んだ験しがないって云うけど、Kならやりかねないことを俺は知っている。アイドルから女優へ、Kは中途半端にしか転身出来なかった。月収300万のアイドル時代から年収が200万を切る女優生活を十年も続けていれば、心も体も疲れ果てて当然だ。でも、俺には何もしてあげられない。結婚してもあげられない。いくら難民救済施設である桃井ルームでもKを背負っては彼女の毒で施設自体が崩壊するのが目に見えている。何とかKに携帯に掛け直す様に説得して、俺はかかって来た電話で話しながら少しずつ電波の届かない処へ移動していた。