緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

回診での一時

2016年01月24日 | 医療

患者さんが透き通ったように見える時があります。

中道というか、
どこにも力が入らず、
ただ、時をそのまま刻まれる姿。

焦りも感じず、
遠くを見るような視線。

消え入るような最期を迎えられる
その少し前のことが多いような。





最近、回診のプレゼンを聞いたとき、
何を短期目標にしているのかわからないと感じ、
ベッドサイドに他のスタッフと足を運びました。


身体所見を取り、
一つ、課題を見つけ、

さらに、たずねました。





どんなことを大切になさって来たのですか?





以前は登山だったんですが、
読書と散歩かなあ・・

ちょっとね、左よりだったんですよ。


好きな本?

沢山ありすぎて・・

作家とか題名とか言ってもらえると
助かります。






あまり詳しくないのですが、
思い浮かぶのは、
蟹工船でしょうか。






ああ、小林多喜二ね。

彼はね、丹沢湖の近くにいたことがあってね。

尾根伝いに、歩くと

宿があってね・・








ネットで調べてみると・・・

 

神奈川県丹沢、大山のふもとの七沢温泉。そこは八か所くらいの旅館施設しかないんですが。
小林多喜二のかくまわれた場所だったとの、新たな史実が明らかになって、七沢温泉は、新たな関心が当てられるようになって来ています。
小林多喜二が『オルグ』を書いた、丹沢の七沢温泉「福元館」
(2)
(http://plaza.rakuten.co.jp/sagamimikan/diary/201107230000/)



お若い時は、きっと、熱く政治を語られていたのかなあと思い描きながら、
初めてお目にかかりながら、
その方の後ろにある道がふと見えたような感覚になった時、
疾病を抱えて横になっていらっしゃる患者さんではなく、
まさに、その人ご自身に触れられたような気持ちになりました。



一期一会の時・・



微笑みながら、

最初、ご挨拶をした時とはずっと違う表情をされ、

そして、遠くを見つめていらっしゃるように感じました。




もう、ご自身の足で歩みきろうとされているように感じました。

私たちが、何か支援ができるか・・

支援などという言葉は到底似つかわしくない、

生きる力を感じました。



短期目標は、睡眠を妨げている疼痛の緩和・・

それを除けば、ご本人の歩みに合わせ、

共にいつづけること・・

プロレタリアの先人の道を辿る言葉に

耳を傾けること・・

むしろ、ささやかな時間を共にさせて頂いたことに、
感謝で一杯だった回診のひと時でした。


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