患者さんが透き通ったように見える時があります。
中道というか、
どこにも力が入らず、
ただ、時をそのまま刻まれる姿。
焦りも感じず、
遠くを見るような視線。
消え入るような最期を迎えられる
その少し前のことが多いような。
最近、回診のプレゼンを聞いたとき、
何を短期目標にしているのかわからないと感じ、
ベッドサイドに他のスタッフと足を運びました。
身体所見を取り、
一つ、課題を見つけ、
さらに、たずねました。
どんなことを大切になさって来たのですか?
以前は登山だったんですが、
読書と散歩かなあ・・
ちょっとね、左よりだったんですよ。
好きな本?
沢山ありすぎて・・
作家とか題名とか言ってもらえると
助かります。
あまり詳しくないのですが、
思い浮かぶのは、
蟹工船でしょうか。
ああ、小林多喜二ね。
彼はね、丹沢湖の近くにいたことがあってね。
尾根伝いに、歩くと
宿があってね・・
ネットで調べてみると・・・
神奈川県丹沢、大山のふもとの七沢温泉。そこは八か所くらいの旅館施設しかないんですが。
小林多喜二のかくまわれた場所だったとの、新たな史実が明らかになって、七沢温泉は、新たな関心が当てられるようになって来ています。
小林多喜二が『オルグ』を書いた、丹沢の七沢温泉「福元館」(2)
(http://plaza.rakuten.co.jp/sagamimikan/diary/201107230000/)
お若い時は、きっと、熱く政治を語られていたのかなあと思い描きながら、
初めてお目にかかりながら、
その方の後ろにある道がふと見えたような感覚になった時、
疾病を抱えて横になっていらっしゃる患者さんではなく、
まさに、その人ご自身に触れられたような気持ちになりました。
一期一会の時・・
微笑みながら、
最初、ご挨拶をした時とはずっと違う表情をされ、
そして、遠くを見つめていらっしゃるように感じました。
もう、ご自身の足で歩みきろうとされているように感じました。
私たちが、何か支援ができるか・・
支援などという言葉は到底似つかわしくない、
生きる力を感じました。
短期目標は、睡眠を妨げている疼痛の緩和・・
それを除けば、ご本人の歩みに合わせ、
共にいつづけること・・
プロレタリアの先人の道を辿る言葉に
耳を傾けること・・
むしろ、ささやかな時間を共にさせて頂いたことに、
感謝で一杯だった回診のひと時でした。