緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

以前、緩和ケア病棟でそれは違う・・と思ったこと。

2018年12月16日 | 医療

緩和ケアは
医療的必要度をはるかに通り越した
過剰な医療の中で亡くなっていく人々の
尊厳を取り戻そうという
市民運動から展開していたったものです。

向いている先は、
患者さんがどのような状況にあっても
最大のQOLを維持できるよう
よりよくあり続けること(Well-being)を
目指すものです。

そんな原点を改めて意識しようとして
ふと思い出したことがありました。




もう相当前のことです。

友人の医師から、
おじい様ががんで
名の通った病院の緩和ケア病棟で
お亡くなりになったと聞きました。


意識は混濁していたそうですが
痰が多く、喘鳴が激しいのに、
看護師さんは吸引してくれず、
ナースコールをしてもなお、
中々吸引をしてもらえなかったと。

ちょうど、そのころの緩和ケア病棟は
「何もしてくれない」と言われることが
少なくありませんでした。

友人からもそう言われてしまいました。



その緩和ケア病棟のスタッフに
どのような状況だったのか尋ねたところ、

吸引することで
苦痛を与えてしまうことがあるので、
控えていましたと話されました。



しかしながら、
友人の医師、つまり、
その患者さんのご家族は、
喘鳴が聞こえる中、
眉間にしわを寄せ、苦しそうにしていたのに
そのままにされてしまったと感じていました。




この問題は、
患者さんが痰で苦痛を感じていたのかどうか
その苦痛と吸引の苦痛はどちらが苦痛な状況だったのか
ということについて
患者さん家族と医療者が話し合ったり、意見交換したり
していなかったことにあったのだと思いました。



私自身も、
緩和ケア病棟にいたときに、これが緩和ケアだと思っていたことが
抗がん治療の最中に飛び込み、改めて緩和ケアの根幹に立ち戻ったとき、
それが、自分たちの思いこみだったのと気づいたことがありました。

例えば、
過剰な医療下に患者さんを置かないのが緩和ケアであると。

そうではないのです。

その時の状況下で、
患者さんの最大のQOLを維持するには
どのようであるべきか
という観点で考えなければいけないのです。

医療が、過剰かどうかではなく、
患者さんが、最小限の苦痛になるにはどのような選択をすべきなのか

主語は、患者さんです。





友人の医師が言ったことは
もっともなことでした。




他にも、こんなことを耳にしたことがあります。

ガウンやマスクをして患者さんに接しなくてはいけないのは
人対人で接することを目指している自分たちの緩和ケアとは異なるため
MRSAなどの感染症の患者さんは受け付けませんという
緩和ケア病棟があると聞いたことがありました。

その緩和ケア病棟の方の言い分は
一見、もっともなこと聞こえるかもしれませんが、
これも、違います。

主語が自分たち医療者であることに気づきます。
自分たちのための医療選択やモットーであってはいけないのです。

どのような患者さんであっても、
置かれた状況の中で最善のQOLを維持する努力をするのが
専門的緩和ケアの姿勢ではないかと思うのです。

感染症があったとしても、
ガウンなどの予防策下において
患者さんには、尊厳が保たれ
ケアが提供される権利があります。



緩和ケア病棟だから、
感染症の検査を控えるということも
違うと思います。

免疫低下状態の患者さんでは、
調べれば、何かが出てきて、
予防策を要するから調べないと言われたことがあります。

患者さんが感染の暴露などから
安全が保証されることは
専門的緩和ケアの役割でもあります。





主語は 患者さんです。
誰のためのケアなのか、
忘れないようにしていきたいと思います。


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2 コメント

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Unknown (k)
2018-12-18 07:11:36
有賀先生
またお邪魔させて頂きます。とても素敵な内容で感動しました。都内で訪問看護をしていますが終末期=何もしない。それが苦痛緩和だと説明する医療者がまだ多いように感じます。ですが残された命が数時間でも苦痛があればきちんとアセスメントして対応することが大切だと思っています。絶対何事も白黒つけなければ気がすまない医療者もいます。いつか同じような考えの信頼できるスタッフと働けると良いなと思いながら日々過ごしています。
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kさん (aruga)
2018-12-24 23:36:41
現場にいらっしゃるkさんのコメント、本当にありがたいです。患者さんの苦痛に焦点を当てた医療・ケアをこれからも、一緒に取り組んでいきましょう。心強く感じています!
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