プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

学術会議人事介入問題―問題の本質は科学の国策動員

2020-10-07 22:41:55 | 政治経済

 菅政権の日本学術会議が推薦した新会員候補6名の採用拒否を巡って、正論、曲論(菅応援のための論点ずらし、「学術会議こそ新規会員推薦基準を明確化せよ」「そもそも政府内の機関が独立性を主張できるのか」「政府から予算をもらって特権を振りかざしているのが学術会議ではないか」の類い)がマスコミ、ソーシャルネットワークを賑わしている。しかし、このような「論点ずらし」に引っかけられて、本質を見失うようなことがあってはならない。

 任命を拒否された6人の研究者は、小沢隆一東京慈恵会医科大学(憲法学)、岡田正則早稲田大学(行政法学)、松宮孝明立命館大学(刑事法学)、加藤陽子東京大学(歴史学)、芦名定道京都大学(キリスト教学)、宇野重規東京大学(政治学)の6人。松宮教授は2017年、国会で共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法への反対意見を表明。小沢教授は、2015年の国会で安保法制は違憲であると意見陳述。安倍前内閣の安保法制や共謀罪に反対した経歴を持つ学者ばかりで、政権の国策に対して異論を唱える学者を排除したわけである。

 事の本質は、アカデミズムを軍事研究に大々的に活用したい支配階級にとって目の上のたんこぶとなる同機関に対する締め付けそのものなのだ。学術会議は創設翌年の1950 年には「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という声明を発し、2017 年には「学術研究がとりわけ政治権力によって制約さ れたり動員されたりすることがあるという歴史的な経験をふまえて、研究の自主性・ 自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない」として「軍事的 安全保障研究」に反対する旨の声明を発表した。

 国家権力は国民主権のもと選挙によって選ばれるから民主的だと考えるのは皮相である。国民は一様でなく支配階級に属する上級国民もいれば、支配される下級国民もいる。自民党政権は支配階級の代理人である。90年代以降、支配階級(アメリカ政府と財界)の自民党政権への課題は、対米従属下での軍事大国化と利潤率低下に悩むグローバル資本にとっての新自由主義改革であった。菅首相は与えられた使命をよく理解し、アメリカ第一の安倍政治の継承を表明し、自らの政策理念として「自助・共助・公助」を掲げた。

 「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。」とある通り、戦前の科学が細菌兵器などの軍需品の開発や天皇制国家の挙国一致イデオロギーに総動員された苦い経験に基づき、政治権力から独立した機関として設立された。日本学術会議法は会員の選任について、学術会議の推薦に基づいて首相が任命すると定める。独立性を重んじる法の趣旨を踏まえれば、この任命権は形式的任命に過ぎない。「推薦をしていただいた者は拒否できない」のだ。学術会議は政府の機関であり、年間およそ10億円の予算を投じていることも巷間、言われている。しかし、それは介入を正当化する根拠にならない。 公の機関として国の予算で運営を支えるのは、学問の自由を保障するためであって、政府に従わせるためではない。

 問題は、菅政権が安倍政権同様、特段の理由も示さずに6名拒否したにもかかわらず、学術会議に「総合的、俯瞰的な活動を求める観点から判断した」と説明にもなっていない言辞で逃げようとしていることである。6人を除外した理由と「総合的、俯瞰的」との関係を問うと個別人事なので答えられないという。

 問題の本質は、科学の国策動員に反対する者への見せしめである。


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