プロメテウスの政治経済コラム

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慰安婦証言から30年 日本政府に初の賠償命令

2021-01-09 18:39:24 | 政治経済

 2021/1/8韓国の裁判所が「国内裁判所は外国政府に対する訴訟で裁判権を行使できない」という国際慣習法上の主権免除(国家免除)の枠を踏み出し、日本政府が日本軍「慰安婦」被害者たちに各1億ウォン(約950万円)を賠償しなければならないとの判決を下した。1991年8月、慰安婦だったことを証言した金学順(キム・ハクスン)さんの初の告発以降、日本政府による政治的妥協(1995年のアジア女性基金)、日本の裁判所での訴訟(3件いずれも原告敗訴)、日韓政府間の外交的妥協(2015年12月の日韓合意)など、30年にわたる長い紆余曲折の末に、韓国の裁判所が被害者たちが一貫して望んできた日本政府に対する「法的賠償」要求に終止符を打ったのだhttp://japan.hani.co.kr/arti/politics/38787.html)。

 この判決の結果、原告が日本政府資産(例えば日本大使館)の差し押さえを求め、裁判所がそれを認めて執行することになれば、本当に困るのは韓国政府である(武藤正敏/元・在韓国特命全権大使)などの声もあるが、被害者のハルモニたちは金が欲しいわけではない。日本政府の法的責任とその償いが欲しかったのだ 

 30年の紆余曲折には、一国家の主権的行為を他国が司法判断の対象とすることはできないという国際法上の「国家免除」理論が大きく立ちはだかった。敗訴を受けて、菅首相は記者団の問いに「国際法上、主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから。そういうなかで、この訴訟は却下されるべき、このように考えます」とコメントした。だから、そんな裁判にはかかわらないし、控訴もしないという訳だ。しかし、「主権免除」理論を理由に、ここで裁判を放棄して良いのだろうか 

 最近の国際法解釈では、「主権免除」の範囲を限定的に考える方向で議論が進んでいる。今回のソウル中央地方裁判所の判決は、この「主権免除」に関わる国際法上の議論を最先端に進めた。法律の解釈は安定的であるべきであるとする司法消極主義色の強い法文化を持つ我が国と異なり、司法積極主義の傾向が強い韓国では、国際的トレンドや国内世論に合わせて法解釈を能動的に変えていくべきだという考えが強い(https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2021/01/post-18_4.php)。徴用工を巡る判決でも国際法に植民支配の責任問題を先駆的に取り込んだ。 

 ソウル中央地方裁判所は「(『慰安婦』は)当時日本帝国が批准していた条約および国際法規に違反したものであるだけでなく、第2次世界大戦後に東京裁判所憲章で処罰することに定めた『人道に反する罪』に該当する」として、「国家免除理論は、国際強行規範に違反して他国の個人に大きな損害を負わせた国家が、その理論の後ろに隠れ、賠償と補償を回避できる機会を与えるために形成されたものではない」、安婦制度は「日本帝国によって計画的かつ組織的に広範囲に行われた反人道的犯罪行為であり、国際強行規範に違反したもので、この事件の行為が国家の主権的行為だとしても、国家免除を適用することはできない」と判じた 

 国際法、とりわけそこにおける国際慣習法の解釈は時代により大きく揺れ動くものであり、「原則論」に固執して、相手の土俵には乗らないと頑なに議論から逃避する日本政府が時代遅れになる日は意外に近いかもしれない。 
 ちなみに2004年イタリア最高裁も第2次世界大戦当時にドイツ軍に連行されて強制労働をした自国民に対して、ドイツ政府が損害賠償をしなければならないと判決を下したが、その後国際司法裁判所でドイツ側が勝訴している。ドイツは、日本政府のように逃げるのではなく、控訴して上級審、更には国際裁判所で争うことにしたのである。

 


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