プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

イスラエルとレバノン衝突   米・イスラエル連合と中東の行方

2010-08-05 20:38:46 | 政治経済
田中宇さんが予測したとおり8月3日、イスラエル軍とレバノン軍が国境付近で軍事衝突した。田中さんは、「アハマディネジャドの発言内容が事実であるとしたら、米イスラエルは、イラン自身を空爆するつもりはなく、代わりにレバノンやシリアに侵攻するつもりだということになる。少なくとも、次の戦争はイランからではなくレバノンから始まる。今秋、イランよりレバノンの方が戦争になるとの予測は、最近ほかのところからもいくつか出ている」(田中宇の国際ニュース解説「中東の行く末」2010年7月28日)と書いていた。
言うまでもなく、中東は石油資源の宝庫であり、地政学的に帝国主義国の覇権争いに加え、地域諸国のさまざまな思惑が絡み合い、さらに、イスラエルの無法とそれを後押しする米英の介入が状勢をいっそう複雑にしている。田中さんが予測するような中東――全体がイスラム主義化し、米国が完全撤退し、イスラエルが消滅した上で安定していく――が将来本当に実現するのか、私には良くわからない

 イスラエルは、ヨーロッパユダヤ人がパレスチナの土地を奪って、ユダヤ人だけの国を強引につくったというその成り立ちからして、周辺のアラブ諸国を軍事力で圧倒し、破壊・威圧して黙らせ、イスラエルを攻撃せぬよう恐怖のどん底に陥れ、敵方を心理的・経済的に骨抜きにすることで成り立ってきた。欧米諸国、とりわけアメリカの強力な後ろ盾がそれを可能にしてきた。しかし最近では、06年のレバノン戦争、08末~09年のガザ攻撃、今年のガザに向かう国際支援船団攻撃など国際法・人道法を無視したイスラエル軍の度重なる武力行使に対する国際世論の風当たりは徐々に強くなりつつある。
このような中で、イスラエル政府高官らが、イラン空爆を辞さずとさかんに言い続けていることについて、田中さんは、「これはむしろ、実際の空爆ができないことをイラン側に察知されないよう、言葉だけでもさかんに威嚇しておかねばならないという、苦しい次善の策なのかもしれない」という(田中宇の国際ニュース解説 同上)。

 イスラエルの後ろ楯となっている欧米諸国は、イランの核開発にかこつけてイランへの制裁に熱心である。しかし、その間隙を縫って中国、ロシアを先頭とした新興諸国がイランに接近している。「欧米の企業が手放したイランの商権は中露によって貪欲に横取りされる展開となり、欧米勢が困るだけでイランは大して困らず“もう一つの世界経済システム”とも呼ぶべき欧米以外の新興諸国の貿易ネットワークがイランを取り込んで繁盛し、世界経済の多極化を推進する結果となっている。こうした状況を見て、親米的だったインドやパキスタンなども、米国の脅しを無視してイランとの経済関係を強化する方向に動いている」(田中宇の国際ニュース解説 同上)。
イスラエル・米連合がイランを軍事攻撃すれば、これらの国々は黙っていない。イランの石油ガス開発に参画する国が増えるほど、それらの国々は、米イスラエルの空爆からイランを守りたいと思うだろう

 イスラエルが最も潰したかったレバノン南部のシーア派武装組織ヒズボラは、06年のイスラエル軍攻撃に耐えて生き延び、いまではその政治的影響力を増している。田中さんは、次のように書いている。
<イランのアハマディネジャドは7月初め、シリアのアサド大統領ら同盟国の首脳を誘って南レバノンを訪問しようと提案した。これは、イランの傘下にいるヒズボラが、レバノンを主導する政治勢力に成長し、イスラエルの諜報力を潰して強くなっていることを世界に宣伝するための訪問計画だろう。アハマディネジャドは、イスラエル国境から数十キロのレバノン南部のパレスチナ難民キャンプなどを訪問し「イスラエルは近いうちに必ず潰れる」と宣言するつもりかもしれない。> (田中宇の国際ニュース解説 同上)。

イスラエルがどのような形で、潰れるか私には予測できない。世間では、イスラエル―パレスチナの平和共存、二国家共存がよくいわれる。いわゆるオスロ合意(1.イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認する。2.イスラエルが入植した地域から暫定的に撤退し5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する)の路線である。
しかし、オスロ合意は失敗した。なぜか。イスラエルは、ヨーロッパユダヤ人がパレスチナの土地を奪って、ユダヤ人だけの国を強引につくったという、その歴史的成り立ちを問う文言がどこにもないからである。PLOが認めたとしても、多くのパレスチナ人はこの事実をただ認めることはできない
アパルトヘイト国家・南アフリカで白人入植者が、アパルトヘイト体制移行後にどのように1つの社会で共存しているか。二国家が並存するにしても、ユダヤ人がパレスチナの土地を強奪して入植したという歴史的事実を曖昧なままにしては両者の平和共存はありえないだろう。

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