プロメテウスの政治経済コラム

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「朝鮮学校」も無償化へ、高校授業料  開放直後の平壌日本人学校の待遇は?

2010-08-04 22:17:36 | 政治経済
今年度始まった「高校無償化」制度をめぐり、文部科学省は、朝鮮学校を原則として無償化の対象とする方針を固め、最終調整に入った。ただし、周知のように、朝鮮学校への適用は、中井洽・拉致問題担当相の反対論などで4月に見送られた経緯がある。与党内にはなお「北朝鮮の拉致問題解決までは支援金を支給するべきでない」などと反対意見も根強く、今後の調整には曲折も予想される(共同通信2010/08/04 12:01 )。
日本政府は、在日韓国・朝鮮人の子どもの高等教育へのアクセスが不平等であることについて、人種差別撤廃条約の国際監視・審査機関である人種差別撤廃委員会からこれまでも何度か勧告を受けてきた。日本は、工業技術や生産力では世界最先端であるが、国民の人権や社会権の分野ではきわめて遅れた国である。私たちの社会水準を国際基準に近づけるためには、まず世界を知ることだ
康宗憲(カン・ジョンホン)・韓国問題研究所代表から紹介された開放直後の平壌日本人学校の話はとても興味深かった。

 日本は、国際人権規約(A規約「社会権的基本権」)13条の2項(b)(c)―― いわゆる中等教育及び高等教育の漸進的な学費無償化条項を批准するように勧告をうけながら、いまだに留保している珍しい国である。ルワンダが2008年12月に留保を撤回したので、同条項を留保している国は、条約加盟国160カ国中(09年5月現在)、日本とマダガスカルの2カ国だけである。日本のGDPは世界2位、マダガスカルは125位以下である(「しんぶん赤旗」2009年6月8日)。
現在OECD加盟30カ国中、高校の授業料が無償化されていないのは、イタリア、ポルトガル、韓国、日本の4カ国であるが、イタリア、ポルトガルは年間2000円程度のわずかな金額なので、事実上、韓国、日本だけである。日本はまことに珍しい国なのである

 昨年の総選挙で、自公政権を退場させ、民主党政権を誕生させた国民の力は、民主党に子ども手当の支給・高校授業料の無償化といった児童福祉政策・教育政策を選挙戦での重要アピールとして位置づけさせた。政権交代を本気で狙おうとすれば、新自由主義的政策の見直し(福祉国家的政策)が必要だったのだ。
こうして、公立高校では授業料を徴収せず、私立高校生らには就学支援金を支給する高校授業料無償化法が成立し、今年4月から施行された(授業料以外の負担がなお重いことなど問題を残しながらも大きな前進であった)。ところが、高校無償化法案で対象としている、公立、私立の高校とともに、「高校課程に類する各種学校」のうち朝鮮学校が問題となった
文科省の当初予算案ではブラジル人学校のほか、多国籍の子どもが通うインターナショナルスクール、朝鮮学校なども対象とする予算が組まれていたにもかかわらず、北朝鮮バッシングを生きがいとする連中が、中井洽拉致問題担当相を炊きつけて、朝鮮学校を無償化の対象としないよう待ったをかけたのだ
特定の国の学校を排除するなどというのは、「どの国の子どもに対しても学ぶ権利をひとしく保障する」という国際ルールを無視するものであった。日本は、民度のレベルにおいて、世界的に珍しい国なのだ

 ここで、康宗憲・韓国問題研究所代表に教えてもらった第二次大戦終結直後の平壌日本人学校の話を紹介したい。日本の敗戦後、金日成によって平壌に残ることを命令された日本人技術者親子の物語である(佐藤知也『平壌で過ごした12年の日々』光陽出版社2009)。
日本の植民地統治下で、あらゆる産業の基幹は統治者である日本人が握っていた。だから、日本人技術者が去ってしまうと、朝鮮の産業が成り立たない。日本技術者の力を借りようというのが、北朝鮮トップそして後見役のソ連の考えだった。
1946年8月、金日成より、「北朝鮮技術者徴用令」が出され、つづいて臨時人民委員会から「日本人技術者確保令」が公布された。佐藤知也さんの父は、採鉱冶金の技術者であった。

北朝鮮当局は、日本人残留技術者が、朝鮮人から身体的、財産的な迫害を受けることがないように、人民委員会の特別身分証明書を与えた。①本証の所持者に対しては生命・名誉・財産を絶対保証す②本証の所持者に対して、可能なかぎり援助をなすべし③本証の所持者に対して、軽蔑、その他不正行為を加えたるときは処罰する。
佐藤さんによれば、政府発行のこの証明書は大変効力があったという。

技術者本人の給与は、概ね4500~6000円で、佐藤さんの父は6000円だったという。当時の金日成人民委員会委員長の給与は4000円だったというから、日本人技術者の厚遇振りがよくわかる。さらに興味深いのは、残留家族のための日本人学校である。15歳の佐藤さんも代用教員に採用され、2000円の給与もらったという。そして、天皇制と軍国主義の教育をどう民主化するか戸惑ったが、北朝鮮は学校開設のために、机、椅子、黒板、文房具などを十分に備えてくれたが、授業の方針とか内容にはまったくタッチしてこなかった。日本の侵略戦争や植民地支配の反省を強いられると思っていたが、意外にその様子はなく、学校の運営は「日本人部」の自主性に任されたという。

 日本は、工業技術や生産力は世界最先端であるが、国民の人権や社会権の分野ではきわめて遅れた国である。私たちの社会水準を国際基準に近づけるためには、まず世界を知ることだ。

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