プロメテウスの政治経済コラム

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生保業界の不払い問題と政界工作   カネによる政治家買収は政治買収の基本

2010-08-23 21:00:37 | 政治経済
2005年2月に明治安田生命で保険金不払いが発覚して以降、生保業界全体の不払いが大問題化したことは記憶に新しい。第一、日本、住友、明治安田の生命保険大手4社を中心とする生保業界が、保険金不払いという重大な不祥事の発覚後、大がかりな政界への不正工作を行っていた疑惑が浮上している(「朝日」7月18日)。
その後、日本共産党の大門実紀史参院議員が入手した内部資料や関係者の証言で生保業界の政治家買収は、なかなか芸が細かいこともわかってきた。
普通選挙権に基づく民主的共和制が確立している国では、経済的実権を握る支配階級はさまざまな政治買収を工夫する。「労働者階級の政治的制覇」(マルクス)を何としても阻止するために自分たちの利益を擁護する政党幹部、議員、高級官僚、御用新聞、御用学者など経済分野だけでなく、政治、思想の全分野にわたって、緻密で系統的な支配の網の目を張り巡らす。そして選挙制度はできるだけ民意がそのまま反映しないように工夫する。
こうして、先進資本主義諸国の国民は、政治が常に民意とズレていることを感じていても、そこそこの生活が送れている限り、政治革新には向かわない

 普通選挙権に基づく民主的共和制国家では、経済的支配者が直接政治を行うのではなく、プロに任せるのが普通である。労働者階級が人口の大多数を占めているもとでの普通選挙権の実施は、何も手を打たなければ、「労働者階級の政治的制覇」につながる危険性がある。支配階級が、自らの意思を実現し、自らの経済的実権を維持発展させるためには、国家権力を自らの側に握っておくことが必要である。その根幹は、政党幹部、議員の政治買収であり、投票を通じた人民支配である
総資本の利益を代表する財界団体のほか、それぞれの個々の業界団体が、日常的に自分たちの意思を政策化するために、政党幹部、議員に献金、接待する。日常的に「保険」として継続的に政党本部に献金するもの以外に、業界と関連が深い委員会の議員、特定案件のために働いてもらう議員に対する献金、接待などさまざまである。

 生保業界の政治家買収は芸が細かい。大手4社の担当者が事前に打ち合わせして、対象とする議員を10種類に選別し、接待やパーティー券の購入額を格付けしていた(「しんぶん赤旗」2010年8月2日)。
ランク付けは、業界への“理解度”を基に決めており、政界と業界の癒着の根深さを示すものだ。
「業界に対する理解が深く、さまざまな場面での活躍が期待できる」―関係者によると、こう位置づけられたのは、ランク付け最高位の「主要議員」。閣僚経験者12人が対象になっていた。
その次は「友好議員」で、「業界に理解があり、今後の活躍が期待できる議員」。このほかに、「友好議員候補」「ポスト議員」「幹部議員」「功労議員」「論客議員」「若手議員」「関係収束議員」「落選議員」と続く。対象となっているのは、民主党と自民党を中心に100人を超える国会議員だという。各社が議員を割り振って分担していた。

 衆院財金委員会は07年5月に生保の不払い問題の参考人質疑を行った。当初の与野党の合意では、生保大手4社の社長に質問するというもの。質疑時間は2時間半となっていた。しかし、与党筆頭理事だった山本明彦前自民党衆院議員が質問時間の短縮を主張。結局、生命保険協会会長の斎藤勝利第一生命社長(いずれも当時)への1時間の質問へと大幅短縮となった。
同委員会の答弁側も質問する側も多くの議員がパーティー券の購入を受けていた。07年度当時、同委員会に所属した議員のうち、衆院で6人、参院で4人にのぼる。答弁者側の尾身幸次財務相(同)ら2人も購入してもらっていた。
パーティー券攻勢は、党のキーマンにも及んでいる。自民党では、金融調査会長の金子一義元国土交通相や同調査会会長代理の村上誠一郎衆院議員が。民主党では峰崎財務副大臣が、当時の民主党「『次の内閣』金融担当大臣」だった(「しんぶん赤旗」2010年8月23日)。
「厳しく追及されたくない」という生保業界が、当時の自民党の金融関係の有力者、財務金融委員会の理事メンバーに執拗な要請をし、国会運営をねじまげた疑惑が濃厚である。

 生保の政界工作問題は、企業・団体献金の賄賂性について大きな示唆を与えるものだ。
献金のなかには、個々の公共事業、許認可などで対価性がはっきりしたものはそのものずばりの賄賂である。長期に反復して贈られる企業・団体献金は何か起きたときの「保険」の意味合いも含め、政治を自らの利益のために使うことを確信的に意図した実質的な賄賂である。支配階級のカネによる政治買収は、篤志家による浄財などとはまったく意味が違うのだ。

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