プロメテウスの政治経済コラム

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最低賃金改定  時給728円に  “国際標準”からかけ離れた日本の異常

2010-08-07 19:27:58 | 政治経済
労使の対立で紛糾していた厚生労働省の中央最低賃金審議会が8月5日、2010年度の地域別最低賃金(時給)について、引き上げ額の目安を答申した。全国平均で15円引き上げ、最低賃金は728円になる見通しだ。初めて全都道府県で10円以上の引き上げを提示し、賃金の底上げを優先する姿勢を示した、という(西日本新聞2010/08/07)。
何をチマチマしたことを言っているか!
日本の最低賃金は、先進主要国のなかでもきわめて異常に低い。高度経済成長時代の企業社会で、正規労働者である夫の稼ぎを補填する妻や学生のパート・アルバイト労働を想定していたからである。失業率が低く、相対的過剰人口が問題化していない経済構造のもとでは、それで間に合ってきた。しかし、膨大な低賃金・不安定就業層によって形成された「過剰人口プール」が現代日本の低賃金(ワーキングプア)構造となっているもとで、労働者の賃金低下を押しとどめる「底上げ」としての最低賃金の大幅引き上げは喫緊の課題である。
まともに働いて最低限の生活ができない最低賃金は、最低賃金でない。日本では、こんな当たり前のことも認めようとしない資本の横暴が罷り通っているのだ。

 今年度の最低賃金引き上げの「目安」を決める中央最低賃金審議会の議論は労使の対立で紛糾し、決着が8月にずれ込む異例の事態になった。しかし、結果は15円引き上げというなんともチマチマした話である。「早期に全国最低800円」とした民主党政府目標の実現にもほど遠い上げ幅にとどまった。
最低賃金1000円以上は、先進主要国では当たり前である。また地域ごとに格差をつけ、根拠のないランク付けしている国も珍しい。欧州など先進諸国のほとんどでは、全国一律の最賃制度である。
「しんぶん赤旗」2010年7月14日より

 現代日本では、マルクスが『資本論』第1巻23章で展開している「資本主義的蓄積の一般的法則」が、多国籍大企業の資本蓄積に見合った形で現実のものとなっている相対的過剰人口である低賃金・不安定就業層は、資本主義経済の貧困化作用をまともに受ける。彼らの多くは未組織のまま分散し、放置されたままである。そして、「過剰人口プール」が膨張すればするほど、それが一般労働者階級の賃金を引き下げる「おもり」となり、賃金がとどめもなく低下していく可能性すらある
労働者の賃金低下を押しとどめる「底上げ」としての最低賃金制度は、いまや正規社員を含めた全労働者の問題なのだ。

 現在の全国平均時給713円という最低賃金が728円になっても、まともに働いて最低限の生活が維持できる水準でないことは明らかだ労働者の生活の安定を目的にした最低賃金法が、逆に労働者を低賃金の苦境に追い込み、固定化する現実を、早急に解消しなければならない
日本では、年収が200万円以下の「ワーキングプア」(働く貧困層)が1000万人を超えている。OECDの調査によると、日本では貧困層の8割が働いており、各国平均の63%に比べても異常に高い「ワーキングプア大国」というべき状態になっている。 “国際標準”を無視して低賃金を押し付け、資本蓄積に励む資本の壁を、労働者階級が、乗り越えられないでいるからだ。

 大企業の内部留保は、1999年度からの10年間で209.9兆円から428.7兆円へと倍加した(労働総研調べ)。2002年から07年までの5年間にわたるいざなぎ景気超えのときには、グローバル企業は過去最高益を更新し続ける一方で、賃金の切り下げや非正規労働者の解雇など労働者の犠牲と下請単価切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁を続けた。最低賃金を引き上げると、中小零細企業が苦境に陥るとよく言われる。確かに、中小企業に対する適切な助成措置が必要である。助成措置にはお金がかかるだろう。この原資をどこから持ってきたら良いのか。それは、低い最低賃金によって大きな利益を得たところが出すべきだろう。
正規労働者に代えて低賃金の非正規労働を大量に採用することでコストダウンを図り、内部留保を拡大してきたグローバル大企業こそ、この間の低賃金政策の最大の受益者だったのだ(五十嵐仁の転成仁語「最低賃金引き上げによって生ずる中小企業の負担増は大企業から補填するべきだ」2010年8月7日)。

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1 コメント

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国の怠惰 (nori)
2010-08-08 18:27:52
大企業および公務員等の負担は致しかないこととおもいます。
が、大企業にきたしわ寄せは直接中小企業の業績にしわ寄せを与え大多数を占める中小労働者の懐を直撃します。
あるいは今より急激に企業のグローバル化が進み国内の産業の空洞化を早める気もいたします。

しかし、全国の非正規労働者の現状をみると状況の改善は急務だと真摯におもいます。
国も、企業も、人もですが未来を憂い今からでも経済大国だったころの日本の様な夢や希望の持てる国にしようと一人一人が自覚しなければと思います。

知識がない現状で解決策の提示などはできない自分が情けなくなりますが今自分にできることをやっていこうとおもいます。
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