Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

腹部手術における補液と昇圧剤とAKI

2022年09月08日 | 腎臓
最近ひとりごとばっかりだった。だってビックリしたんだもん。
このブログの主旨である文献紹介に戻ります。

Chiu C, Fong N, Lazzareschi D, et al.
Fluids, vasopressors, and acute kidney injury after major abdominal surgery between 2015 and 2019: a multicentre retrospective analysis.
Br J Anaesth. 2022 Sep;129(3):317-326. PMID: 35688657.


26のアメリカの病院で行われた多施設後ろ向き研究。2015年から2019年にかけて、腹部手術中の晶質液の投与量が減り、ノルアドの投与量が増え、低血圧の時間が短くなり、AKIの発生頻度が増えた。

何事も、しすぎもダメ、しなさすぎもダメ、ちょうどいいのがちょうどいい。
それが難しいのだけど、大事なこと。
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AIによる集中治療

2022年09月06日 | AI・機械学習
お絵描きばりぐっどくんで、「AIによる集中治療」を絵にしてもらった。



うーん。
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名言に見る集中治療

2022年09月05日 | ひとりごと
「些細なことが完璧を生み出すが、完璧は些細なことではない。」
ーーミケランジェロ

「些細なことだといって、ひとつ妥協したら、将棋倒しに全てが壊れてしまう。」
ーー黒澤明

「集中治療医にもっとも必要な資質は、繊細さだ。」
ーー

いえーい。

こちらも。
ICUに必要なこと:まとめ
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「効くかもしれない治療」をしたくなる気持ちはわかりますが。

2022年09月04日 | ひとりごと
重症患者管理をする人は、「効くかもしれない治療」をするのが好きだ。それは何故か。
理由は主に2つあるんじゃないかと思う。一つは自分の気持ち、もう一つはサロゲートマーカーについての知識の欠如、もしくは認識不足。

「目の前にいる患者さんをなんとかしたいと思うのは当然だ」、「やれることをやらないと後悔する」、「見逃し三振より空振り三振の方がいい」
今も昔も、よく聞く言葉だ。
これについては、1年前に二つの記事を書いた。
こんな時だからこそ。
心の整理の仕方

なので今回はサロゲートマーカーについて少し書こうかと思う。といっても常識的な話だけど。
ここではIITを例に挙げたが、他にもいろいろある。
例えば成長ホルモン。
重症患者では異化亢進により筋肉量が減少し、そのせいで人工呼吸離脱が遅くなる(当時はICU-AWという概念はなかった)。そこで成長ホルモンを投与すれば筋肉量が維持され、患者予後が改善することが期待された。しかし多施設RCTにて死亡率が上昇することが示され、この治療法は消えた。

もう一つの例はiNOS阻害剤。
敗血症性ショックでは血管内皮にNOが産生され、血管拡張が起こる。これが低血圧の原因。なのでNOの合成酵素を阻害すれば血圧が上がり、患者予後が改善することが期待された。しかし多施設RCTにて死亡率が上昇することが示され、この治療法は消えた。

IITも成長ホルモンもiNOS阻害剤も、理論的に有効性が期待され、サロゲートマーカー(血糖値、筋肉量、血圧)は改善するけど、患者予後は逆に悪化した例。サロゲートマーカーは改善するけど患者予後は改善も悪化もしない例なんて、世の中に山ほどある。

ここ連続、この話ばかりで申し訳ないが、またピヴラッツを例として使用する。
サロゲートマーカーの改善は患者予後の改善につながらないという事実は、薬剤の効果判定は患者予後によって行われる必要があるという、当たり前のことを示している。急性脳損傷であれば、薬剤の有効性は長期の神経予後で評価される。しかしピヴラッツが保険適応となった第三層試験のprimary outcomeは" vasospasm-related new cerebral infarcts, vasospasm-related DIND, and all-cause death"であって、長期神経予後ではない。確かに長期予後(mRS ≥ 3, GOSE ≤ 4, MMSE)も評価されていて、GOSEではギリギリ有意差が出ている(p=0.048)けど、primary outcomeじゃないので偶然かもしれない。Phase 2が3に進む時に、phase 2では長期予後の改善が示唆されたのにphase 3では有意差が出ないなんて、よくあること。

1つの薬だけで年に100億円が使われようとしている。
Phase 2レベルの根拠で、これまでどれだけの医療費が使われてきたか。考えると怖くなる。
そしてそんな無駄遣いを防げるのは、薬を正しく使う判断のできる医療者だけ。

あなたのことですよ。
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ピヴラッツに見る日本の重症患者管理の変遷

2022年09月02日 | ひとりごと
僕は薬を商品名で呼ぶのが嫌いだ。
薬を使うにはちゃんとした知識が必要で、知識の多くは英語で存在していて、英語で調べるには一般名が必要。なので商品名は知っているけど一般名は知らないという人は、その薬についてちゃんとした知識がないと宣言しているのと同じ。逆に一般名で会話していたら、ちゃんと分かっている奴だと判断できる。
でもこの記事では商品名を使いまくる。下世話な話には合うかなと思って。

20世紀の終わりから21世紀の初頭、日本の重症患者管理は日本発の「効くかもしれない治療」で満たされていた。典型例は敗血症で、
重症感染症にベニロン、
DICにフサンとアンスロビン、
敗血症性ショックにはPMX、
サイトカイン除去にCHDF、
ARDSにエラスポール、
といった感じ。
EBMの普及、および海外における多施設RCTの実施により(フサン以外は全て否定された)、これらの治療は徐々に日本のICUから消えていった。当時を知らない若者は笑ってしまうかもしれないけど、その頃は真剣にこういうことをしていたし、議論していた。

このパターン、つまり日本でスタートして、普通に使われるようになって、根拠の乏しさが知れ渡って消えていく治療方法たち、最近はあまり見なくなった。今でも生存しているのはリコモジュリンとオノアクトくらいじゃないだろうか。ちなみにオノアクトはちょっと他と種類が違うけど、もしエビデンスレビューをしたことがなかったらしてみたらいい。きっとビックリするから。

その代わりに出てきたのが、今回のピヴラッツのようなパターン。海外で作られ、RCTで否定され、でも日本で保険適応が通って、たくさん使われる。ピヴラッツはまだ発売されて数ヶ月だけど、年間で100億は売り上げそうな勢い。
ちなみにピヴラッツについてはこちらを。

このパターン、実はピヴラッツだけじゃない。
AN69-ST、つまりセプザイリスは、当初は抗凝固剤が不要なCRRT用の膜として主にヨーロッパで発売された。でも実際にRCTをしてみると既存の膜と比べての優位性を示せなかった。しかしそれが、どういうわけか日本に敗血症用の膜として入ってきた。
セプザイリスについての詳細はこちらを。

なんとなくだけど、日本の重症患者管理、さらには日本の医療全体の変化を感じる。
日本の製薬会社の新規薬剤を作り出す力が弱くなり、でも医療者は「患者さんのために何かしたい」から「効くかもしれない治療」はしたい。そこに海外の企業が入ってき始めている感じ。

しばらく前まで、「日本の集中治療は質が高い、患者予後が良い」なんてことを言う人が一定数いたけど、最近はあまり聞かなくなった。これも根っこは同じなのかな、と思ったりする。
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