Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ピヴラッツに見る日本の重症患者管理の変遷

2022年09月02日 | ひとりごと
僕は薬を商品名で呼ぶのが嫌いだ。
薬を使うにはちゃんとした知識が必要で、知識の多くは英語で存在していて、英語で調べるには一般名が必要。なので商品名は知っているけど一般名は知らないという人は、その薬についてちゃんとした知識がないと宣言しているのと同じ。逆に一般名で会話していたら、ちゃんと分かっている奴だと判断できる。
でもこの記事では商品名を使いまくる。下世話な話には合うかなと思って。

20世紀の終わりから21世紀の初頭、日本の重症患者管理は日本発の「効くかもしれない治療」で満たされていた。典型例は敗血症で、
重症感染症にベニロン、
DICにフサンとアンスロビン、
敗血症性ショックにはPMX、
サイトカイン除去にCHDF、
ARDSにエラスポール、
といった感じ。
EBMの普及、および海外における多施設RCTの実施により(フサン以外は全て否定された)、これらの治療は徐々に日本のICUから消えていった。当時を知らない若者は笑ってしまうかもしれないけど、その頃は真剣にこういうことをしていたし、議論していた。

このパターン、つまり日本でスタートして、普通に使われるようになって、根拠の乏しさが知れ渡って消えていく治療方法たち、最近はあまり見なくなった。今でも生存しているのはリコモジュリンとオノアクトくらいじゃないだろうか。ちなみにオノアクトはちょっと他と種類が違うけど、もしエビデンスレビューをしたことがなかったらしてみたらいい。きっとビックリするから。

その代わりに出てきたのが、今回のピヴラッツのようなパターン。海外で作られ、RCTで否定され、でも日本で保険適応が通って、たくさん使われる。ピヴラッツはまだ発売されて数ヶ月だけど、年間で100億は売り上げそうな勢い。
ちなみにピヴラッツについてはこちらを。

このパターン、実はピヴラッツだけじゃない。
AN69-ST、つまりセプザイリスは、当初は抗凝固剤が不要なCRRT用の膜として主にヨーロッパで発売された。でも実際にRCTをしてみると既存の膜と比べての優位性を示せなかった。しかしそれが、どういうわけか日本に敗血症用の膜として入ってきた。
セプザイリスについての詳細はこちらを。

なんとなくだけど、日本の重症患者管理、さらには日本の医療全体の変化を感じる。
日本の製薬会社の新規薬剤を作り出す力が弱くなり、でも医療者は「患者さんのために何かしたい」から「効くかもしれない治療」はしたい。そこに海外の企業が入ってき始めている感じ。

しばらく前まで、「日本の集中治療は質が高い、患者予後が良い」なんてことを言う人が一定数いたけど、最近はあまり聞かなくなった。これも根っこは同じなのかな、と思ったりする。
コメント
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