腎炎、腎炎と、そろそろ飽きてきたでしょう?私は一向に飽きません。私の1日の時間割は朝7:30分起床。朝食後に入浴。8時25分出勤。メール相談の返事をする。9時から診療開始夕刻6時半頃に診療終了。細切れの10分程度の時間は「メール相談の返事」あるいは趣味の「木版」の作成。帰宅後は夕食を済ませると、漢方の原典や医案集を読む。12時15分ごろ就眠。これの繰り返しですから、一般の方には面白くない毎日です。
飽きないので
本日も引き続き腎炎の医案解析を行います。(今回もそのつどドクター康仁のコメントをブルーで記入します。)
黄文政氏医案 衛表不固 陰虚陽浮 湿熱下盛 案
案例1
16歳男性、2003年2月25日初診。主訴:顕微鏡的血尿4ヶ月。4ヶ月前に感冒を繰り返し、浮腫はなく、汗が出て、疲労倦怠、尿検査潜血(3+)腎生検でIgA腎炎2級(病理組織的なグレード分類は記載されていません)。入院治療後(治療内容は不明ですが、西洋医学的治療がなされたのでしょう。漢方治療はなされなかったという記載がありませんが、推測します)尿検査で異常なくなったが、再発した。尿潜血(3+)赤血球50個/ml、明らかな自覚症状なし。舌紅苔薄、両方の寸脈弱(気虚を疑わせます)で尺は滑大(下焦の熱証を疑わせます)、これは衛表不固 陰虚陽浮(陰虚火旺と言い換えた方が解りやすいでしょう)湿熱下盛(下焦湿熱と表記すが一般的です)絡脈灼熱の病機である。益気固表、滋陰清熱、涼血止血を治則とする。
玉屏風散と知柏地黄丸合方加減:生黄蓍15g防風10g白朮10g柴胡10g黄芩10g生地黄25g牡丹皮10g茯苓10g知母10g黄柏10g白茅根30g小薊30g茜草15g地錦草30g白花蛇舌草30g?菜花(中国名 ジーツァイフア)30gを7剤2回水煎して300mlを2回に分けて服用。3月4日再診。尿検査では赤血球20/ml1、潜血(2+)、舌紅少苔、脈弦細。前方より茜草15gを去り(活血止血剤)、生地楡(清熱止血)30g蒲公英(血分での清熱解毒)15gを加え、7剤継続。3月11日再診、尿検査潜血(プラスマイナス)原方7剤を再度服用。今日まで再発無し。
(天津中医学院学報2004年第1期)
評析
IgA腎炎の反復発作は常に外邪を感受して誘発される。故に黄氏は治療時に常に衛表を固め守ることに注意し、人体の正気を増強して、上気道感染、扁桃腺炎、腸管感染などの誘引加重の要素を予防する。小児の血尿が、(小児は肺気も十分でないので)肺気不足、衛表不固になり(小児は腎陰も不十分であるから))相火が余り、下焦湿熱、陰虚陽亢となり、脈象では寸脈弱で尺は滑大となる。玉屏風散と知柏地黄丸合方に、金銀花、連翹、柴胡、黄芩を加味すると良好な治療結果を常に得られる。
玉屏風散:黄蓍 防風 白朮 については前述しました。
知柏地黄丸(医宗金鑑):知母 黄柏 熟地黄 山茱萸 山薬 茯苓 牡丹皮 澤瀉が組成です。ドクター康仁の「六味地黄丸派生学」に詳細がありますので参考になさってください。黄氏は熟地黄を生地黄に変えています。白茅根30g小薊30g茜草15g地錦草30g白花蛇舌草30g?菜花(中国名 ジーツァイフア)30g、生地楡(清熱止血)30g蒲公英(血分での清熱解毒)15gそして柴胡10g黄芩10gを加味しています。
医案2 気陰両虚 湿熱未浄案
20歳男性。2001年11月30日初診。顕微鏡学的血尿2ヶ月。尿検査で潜血(2+)疲労がかさむと腰酸、まれに腰痛が出現。腎生検では中等度の増殖性IgA腎炎であった。舌紅少苔、脈細弦。
気陰両虚、湿熱未浄(やや弁病的診断であり、下焦の炎症は下焦湿熱とするのでしょう)と弁証。益気養陰、清利湿熱を治則として、経験方を用いた。
黄氏経験方 腎炎3号方加減:生黄蓍30g太子参10g黄芩10g柴胡10g丹参30g山茱萸12g萹畜15g白茅根30小薊30g蒲公英15g金銀花15g女貞子10g旱蓮草15g地錦草30g白花蛇舌草30gを7剤 毎日1剤服用。再診時腰痛は消失、咽頭部は軽度充血、上方に玄参15g麦門冬12gを加味し7剤を継続服用。その後、上方の加減50余剤を服薬し、症状は消失、尿検査正常、1年後再診時再発なし。
(天津中医学院学報 2004年第1期)
評析
黄氏は小陽、三焦の枢機が正常な気化作用を根本に保証すると認識しており、IgA腎炎の病機の特徴は気血運行の失調、小陽三焦の枢機が不利となり、脾、肺、腎の三臓の功能が失調し、水湿濁熱等の邪気が内壅し、慢性化すると湿熱瘀血などの標実の証が形成される。したがって、三焦の気機を疏利することが治療上強調される。内外を宣通させ、上下を条達させ、気機を通達させ、気血津液の運行を回復正常化させ、精微を封蔵させ、濁邪を外泄させる。臨床では常に柴胡と黄芩にて三焦の気機を疏利するのである。(半表半裏の少陽は中継地点であるから、柴胡と黄芩を以って、三焦の気機を疏利することが大切であると黄氏は考えるのでしょう。)
生薬解説 付記
地錦草(ちきんそう) 止血薬(日本での流通はありません)
トウダイグサ科ニシキソウ Euphorbia humifusa WILLD. の全草
微苦/平 帰経 肝、胃、大腸、膀胱
効能 清熱解毒、活血化瘀止血、利湿退黄
熱毒瀉痢、皮膚化膿症および毒蛇の咬傷に用いる。
止血した後も瘀血として留めない優れた点がある。
地楡などを配伍し、止血の効果を増強する。
尿血、血淋に対しては、本品は止血もでき、利尿通淋の効果もある。白茅根、小薊などと配伍する。崩漏下血には、茜草根などとともに用いる。本品は利湿退黄の効能がある。
単用、あるいは茵陳蒿、山梔子などを配伍すると利湿退黄の効能が増強する。
萹畜(へんちく)或いは萹畜草(へんちくそう)利水滲湿薬に分類されます。
(日本での流通はありません。)
タデ科のミチヤナギ Polygonum aviculare L.の全草
苦/微寒 帰経 膀胱 功能 利水通淋、殺虫止痒
1.尿が濃く量が少ない、排尿痛、排尿困難などに用いる。
萹蓄は、清下焦湿熱、利水通淋に作用する。
瞿麦、木通、滑石などを用い、湿熱淋病を治療する。例:八正散。
血淋には大薊、小薊、白茅根などを配合する。
2.皮膚の湿疹、外陰掻痒などに用いる。
殺虫止痒の功能を利用して、煎湯して患部を洗う。
ドクター康仁の感想
処方の各生薬の量をみると日本で使用される量に比較して大量ですね。少年に対して、10~30gと大量に使用されています。日本では成人でも半分以下です。小児の腎炎は比較的治りやすい印象は以前から持っていました。上記の2例は急性期でなく、やや慢性遷延期なので、最初から黄蓍、太子参を使用しているのでしょうね。しかし方剤の色分けから明らかなように、涼~微寒 寒に傾いているのは明白です。人参は使用してませんね。
さて、血尿に限らず、陰虚火旺の際の、喀血などに「十灰散じっかいさん」がありますので紹介します。
十灰散(十薬神書)主治 血熱妄行 効能:涼血止血
大薊 小薊 荷葉 側柏葉 白茅根 茜草根 山梔子 大黄 牡丹皮 棕櫚皮 以上を、炒炭にして粉末にして9gを服用
ドクター康仁経験方などを創方したいものです。
2013年1月12日 記