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慢性腎炎の漢方治療 第31報

2013-01-31 00:15:00 | ブログ

岳美中氏医案 湿疹内陥案

45歳男性。慢性腎炎を患い、いろいろ治療を変えても効果が無かった。発病原因を問うと、8年前、皮膚湿疹が生じ、下肢に多く、鼠径(そけい)部に最も多く、痒みが酷く、出没を繰り返し、湿疹が引くと腰に不快感があり、また微痛があった。湿疹は長く治療したが治らなかった。検査:脈大かつ数、舌苔黄?。尿検査:蛋白(4+)赤血球2530/HP(毎視野)、円柱あり。

中医弁証:湿毒内陥。袪湿排毒を治則とする。

方薬:麻黄連翹赤小豆湯麻黄6g連翹12赤小豆24杏仁9g甘草6g生姜9g桑白皮9g大棗4枚。

煎じ4剤にて、発汗無く、麻黄を9gまで増量し、微汗を見た。さらに10剤服用し、湿疹は漸減した。出現しても、すぐに落屑した。鼠径部には基本的に湿疹は出なくなった。小便は清、汗が出やすくなったが、舌中心部はまだ黄であり、脈の数象は減じたが、大象はまだあった。

人参敗毒散に改め、数剤を服用したところ、湿疹は基本的に消失した。膝の外側に12個出現することはあったが、掻くとすぐに破れ消失した。検査では尿蛋白(2+)赤血球(1~15)/HP

評析

張仲景は麻黄連翹赤小豆湯原方を、瘀熱在裏の発黄症に用いた。(類聚広義)では、この方を疥癬内陥、全身が痒く、発熱し喘咳があり全身が浮腫む場合に使用している。今回、岳氏はこの方を湿疹内陥慢性腎炎に使用し、一応の効果を得た。方中、麻黄は経絡肌表の瘀滞を疏通し、連翹は経絡の積熱を瀉し、赤小豆、桑白皮は利水消腫に、杏仁は利肺透表に、甘草は諸薬を調和させ、生姜大棗は調和営衛を調和させ、以って袪湿排毒を助けるのである。

ドクター康仁の印象

 慢性湿疹と慢性腎炎の直接的な関係は少ないでしょう。湿疹部位に溶血性連鎖球菌などの感染により丹毒様病変が出現すれば、急性腎炎が惹起されることは良く知られています。それにしても、麻黄連翹赤小豆湯14剤、と、人参敗毒散の数剤で、慢性に経過した腎炎が改善されるとは早合点でしょう。尿蛋白の定量がなされていませんし、尿沈渣中の赤血球が1なら大いに改善ですが115とばらつきが大き過ぎます。急性腎炎の発症機序が繰り返し、患者を襲ったのかどうか?とも思える医案です。

人参敗毒散についてご紹介しておきます。

出典:太平恵民和剤局方

益気解表、散風祛湿に作用し、原則「気虚の風寒症」に用いられる方剤です。

組成:羌活 独活 柴胡 前胡 桔梗 枳殻 川芎 生姜 薄荷 茯苓 人参 甘草

君薬は羌活 独活であり、人参ではありません。白朮を去った四君子湯(人参 茯苓 甘草)が配伍されています。気機調整は柴胡↑前胡↓と桔梗↑枳殻↓の様にバランスが取れています。この気機調整と健脾薬である茯苓、人参の作用により、感冒性下痢症に対して止瀉に働きます。この止瀉作用は流れに逆らい舟を挽くという「逆流挽舟(ぎゃくりゅうばんしゅう)」と表現されています。「医宗金鑑」には、風寒を外感して痢となりたる者に使用すると記載があります。

「外科経験方」には、廱疽、疔腫、発背、乳廱などの症で憎寒壮熱し、甚だしくは頭痛拘急し、傷寒に似たる症状の者にも使用されると記載がありますので、本案もそれを真似たものでしょう。二活(羌活 独活)、二胡(柴胡 前胡)は川芎と共に、半表半裏の邪気を外へ出すなどと説明されますが文学的表現で、定量化できません。

人参の役割は、補気駆邪、邪気の復入を予防、益気生津というところになります。

2013131日 記   


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