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慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第2報

2013-01-23 03:00:00 | ブログ

章真如氏 隠匿性腎炎の医案 陰虚火旺 血不帰経案

35歳女性、営業員。1990214日初診。主訴は小便に血が混じること1年余り。病歴:10891月、痛みも無く、頻尿も無く、小便に血が混じった。体を休めると、小便の色は淡になり、過労や感冒後、月経前後に血尿が頻繁になった。面色は蒼白、顔面浮腫が軽度にあり、下肢にも軽度の浮腫がある。腰腿が時に疲れやすくだるい、眼瞼の浮腫が比較的強い、某医院で検査をすると、尿沈渣で赤血球多数、蛋白(+)、診断は出血性腎炎で、抗生物質、止血剤の投与を受けた。ステロイドホルモンは使用しなかった。中薬治療を決定し、章氏の医院を受診した。

顔面無華 眼瞼浮腫 下肢の浮腫軽度、精神疲労、食欲が余り無く、多夢で睡眠が浅い。脈沈細、舌淡、苔薄白。尿検査で赤血球(3+)蛋白(2+)白血球(+)円柱が散見された。

診断:尿血(陰虚火旺)。治療:滋腎養陰 利尿止血 処方:知母 黄柏10g生地黄15g 山茱萸10g澤瀉10g山薬15g牡丹皮10g 茯苓10g 牛膝10g 白茅根30g 蓮節10g 花蕊石10g5剤、毎日1剤

221日再診:服用後、小便の量が増え、顔色は比較的良くなった、脈舌に変化は無く、原方を更に10剤処方。

コメント花蕊石(かずいせき)酸渋平 収斂ならびに化瘀止血薬に分類される。蛇紋石を含む大理石 Ophicalcite (主成分:炭酸カルシウムCaCO3・ケイ酸マグネシウムMg6Si4O10(OH)8) 帰経 肝

36日再診(三診):小便は正常になったという。精神的にも食欲も好転、顔面部、下肢の浮腫は消退。前方が有効と判断、さらに10剤処方。

324日(四診):顔色が大変改善、紅潤となった。尿検査で蛋白(+)その他は正常。1ヶ月間再発は無かった。患者は喜びを表情をし、煎じ薬が不便であると要求した。そこで、女貞子150旱蓮草150g黄耆150g当帰100gに蜂蜜500gを混ぜ、濃く煎じて膏剤を作成し、一日2回、一回1匙を水で服用するように指示した。

45日再診(5診):服薬中、過労時に1度再発があったが、軽いものであった。1週間で平常に戻ったという。尿検査では異常なかった。膏剤を更に前回量を処方。今のところ再発はない。

評析

尿中に血が混じる場合、尿血と血淋を分けて弁証する。臨床上、排尿痛が無いか、明らかでないものは尿血である。尿血と排尿困難や排尿痛を伴うものが血淋である。尿血の病位は腎と膀胱にある。その主要な病機は熱傷脈絡と脾腎不固である。熱傷脈絡の中には実熱と虚熱の違いがある。脾腎不固の中には脾虚と腎虚の区別がある。本案患者では、面色無華、眼瞼浮腫、精神疲労および舌淡苔薄白、脈沈細から、腎気虚衰、血不帰経と弁証できる。ゆえに、知柏地黄湯加減、滋陰補腎、瀉火利尿に白茅根、蓮節を加えて止血した。後に、黄耆、当帰、女貞子などで補気養陰し、症状が治癒したのである。

ドクター康仁の印象

本案を隠匿性腎炎の範疇に入れるのは疑問である。臨床的に見れば慢性腎炎である。日本の医療現場では、なにはともあれ腎生検を行うであろう。膀胱鏡も行うであろう。

前稿を再掲すれば、

(1)滋陰清熱、涼血止血法陰虚火旺証に活用する。臨床症状は。小便の色が赤く血を帯び、眩暈耳鳴り、腰膝酸軟、五心煩熱、大便乾燥。舌紅少苔、脈細弦(血尿が主要な症状である)。知柏地黄丸二至丸の加減を行う。(知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮 槐花 茯苓 山薬 赤芍 白茅根 旱蓮草 小薊 生甘草)。方中、知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮は滋陰清熱に、茯苓 山薬は健脾滲湿に、赤芍 白茅根 旱蓮草 槐花 小薊は涼血止血に、甘草は調和諸薬に作用する。湿熱を挟む者には、石葦 滑石を加え、瘀血を挟む者には益母草 丹参を加え、気虚には太子参 生黄耆を加える。

とある。

本医案には、眩暈耳鳴り、五心煩熱、大便乾燥。舌紅少苔、脈細弦の証は無かったといえる。したがって、ある程度、血尿に対するパターン化された治療方式なのかも知れない。ともかく第1剤は涼~微寒 寒薬が主体であることは確かであり、膏剤になって初めて黄耆や当帰の温薬が入っている。

 民族の違いなのか、医療制度の違いなのか、日本人の場合、なかなか本案のように旨く治療効果が出ないことは確かである。

 スパコンを使用して新薬の開発を行う日本のハイテクな医療現場と、天然資源物のみ使用して中医治療を行う、ある意味ローテクな中医の医療現場を比較してみると、腎炎の治療成績に関しては甲乙つけ難い。

2013122日 記