本稿では医案中の(微)温熱薬の分析に入りたいと思います。
題して、 慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療における(微)温熱薬の効能です。 (微)温熱薬:羅列すれば次のような生薬が出てきました。 黄蓍、人参、白朮、蒼朮、当帰、陳皮、山茱萸、川芎、砂仁、荊芥、防風、人参三七、白扁豆、砂仁、鎖陽、熟地黄、生姜、巴戟天、麻黄、杏仁、劉寄奴、大棗、白蔲仁、鶏血藤、冬虫夏草、川断、狗脊、沢蘭葉 このうちで、麻黄はもっとも有名な辛温(発汗)解表薬です。発汗させることを開鬼門カイグイメンともいいます。有名な四文字熟語で提壷掲蓋、提壷ティフー掲蓋ジエガイがあります。蓋のついた壷の下の穴から水を出させるには(利尿を図るには)、蓋をずらした方が出やすくなるという日常の経験則から生まれた熟語です。中医学的には宣肺シュアンフェイによって尿を出させる治療法であり、宣肺排尿(シュアンフェイパイニャオ)といいます。簡単な例としては、くしゃみさせて尿を出させるという方法です。宣肺解表剤により、一時的な尿閉を改善したり、尿量を増加させる治療法です。 医案中の使用のされ方を見ますと、急性期で表証が残存して乏尿などがある場合に短期間使用されています。ただし桂枝は使用されていませんね。面白いですね。杏仁の宣肺降気も同様の使われ方です。越婢加朮湯(金匱要略):麻黄 生石膏 甘草 大棗 生姜 白朮が代表的な使い方ですです。
附子、乾姜などの明らかな温裏薬は使用されません。 生姜は辛温(発汗)解表薬というよりも、五皮飲(中蔵経):桑白皮、陳皮、生姜皮、大腹皮、茯苓皮の構成生薬で利水消腫の功能が利用されています。 麻黄連翹赤小豆湯(傷寒論)麻黄 杏仁 生梓白皮 連翹 赤小豆 甘草 生姜 大棗にしても、越婢加朮湯(金匱要略)とともに急性期の乏尿、浮腫期に短期的に使用されています。 黄蓍は非常に大切な補気薬です。もし表証が次第に解消され、身重かつ水腫が退かないものには、水湿浸漬型として論治し防己黄耆湯(金匱要略):防己 黄蓍 白朮 甘草 生姜 大棗が適するとあります。 黄蓍はネフローゼ症候群を呈する腎病には大量に使用されます。①補気昇陽②益衛固表、(衛気の衛)③托毒生肌 ④利水消腫に作用します。平たく言えば、水毒をとり、尿を利し(利尿消腫作用により脾虚水腫を改善)、元気を増し(補気昇陽)、汗を止め(固表止汗)、皮膚の栄養を助け、肉芽の形成を促し、化膿を止め、膿汁を排泄させる効能(托毒生肌)中気下陥(脱肛、子宮脱垂)にも効果ありとなります。黄蓍の②益衛固表、(衛気の衛)の作用について少述すれば、衛気を養い止汗作用、抵抗力を増加させる作用、喘息や気虚の寒邪の風寒に(精気不足の人のカゼに)使用され、有名方剤として、白朮と共に「玉屏風散」があり、反復性扁桃腺炎の予防治療に用いられます。時氏の処方中にも黄蓍、白朮、防風の三薬「玉屏風散」が配合されているとも判断できます。それにしても人参はあまり使いませんね。気の余りは火となり、炎症を返って促進してしまうのかも知れません。 白朮(健脾燥湿)と蒼朮(燥湿健脾)は当初、湿がある場合には両者ともに使用されますが、蒼朮は長く使うと傷陰になる嫌いがあります。山茱萸は六味地黄丸の牡丹皮の対薬となります。厳密には山茱萸には補腎湯、補腎陰の両方の作用があります。川芎は辛温の活血行気薬で、帰経は肝 胆 心包で功能は活血行気 祛風止痛(全身)です。 川芎は内外上下の全身の痛みに対して有効です。昔から、活血行気:血中気薬とされ(上行頭目、下行血海どこにでも行ける)気滞瘀血に用います。。調経の要薬、肝気鬱滞や胸痹に丹参と共に使用されます。 祛風止痛(全身)を表す四文字熟語に「治風先治血、血行風自灰 頭痛不離川芎 祛風散寒」があります。 鶏血藤(けいけつとう) 活血化瘀薬のなかの温経祛瘀薬に分類されます。行血補血 舒筋活絡に作用し、特に慢性化した痹症に対して有効とされます。活血すると共に、補血にも作用します。舒筋活絡の作用は穏やかです。マメ科 Leguminosae の Spatholobus suberectus DUNN 、同科のナツフジ属植物 Milettia dielsiana HARMS などの蔓茎ですが、切断面から鶏血様の浸出液が出るものが良品とされます。苦温で帰経は肝です。日本では比較的潤沢に流通しています。川芎と共に温薬の活血祛瘀やくです。当帰尾も活血に作用します。 参苓白朮散(太平恵民和剤局方)の元方は、人参 茯苓 白朮 山薬 蓮子肉 白扁豆 薏苡仁 砂仁 桔梗 甘草です。 時氏は人参を党参25g、茯苓30g薏苡仁30g蒼朮(燥湿健脾)白朮各15g山薬20g蓮子肉 白扁豆各15g砂仁、白蔲仁各6g桔梗10g白芍15g黄蓍20g大棗 甘草各6gにて治療開始しました。氏が加味したのは、蒼朮、白蔲仁、白芍、黄蓍、大棗です。 蒼朮 白朮 各15gという記載は健脾利湿の際によく見かける処方です。但し、蒼朮は陰虚、便秘がある場合は用いないと中薬講義では教えています。「脾は燥を好む」という中医表現があります。蒼朮は燥湿健脾作用のうち燥湿作用が強い。白朮は健脾、消腫作用が強いと記憶しています。共に用いることで脾虚による湿を改善します。生蒼朮は化湿作用が強く、長期の使用は津液不足をきたすことがあります。制蒼朮は蒸してから乾燥させたもので、化湿作用はやや低下します。炒蒼朮は炒めたもので生蒼朮と比較すると化湿作用は低下します。現在流通している蒼朮は殆ど制、或いは炒蒼朮です。 白蔲仁 白豆蔲(びゃくずく)です。化湿行気 温中止嘔 化湿開胃に作用します。湿邪が上焦にある場合(胸苦しい)に良いとされています。中国では赤ちゃんの吐乳にミルクに粉末を混ぜて飲ませます。方剤では三仁湯(杏仁、