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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療11報

2013-01-04 00:15:00 | 慢性腎炎 漢方治療

明けましておめでとうございます。

上海は寒かったです。日陰の部分は氷結していました。降雪もありました。

朱老師と再会して、また漢方理論を膨らませることが出来ました。

4日間連続して延べ30時間ほど意見交換をさせていただきました。

さて、今年は、昨年末に引き続き、慢性腎炎から漢方治療をご紹介していくつもりです。

まず「中医医案」ですがeffective caseとしてのケースレポートであることを念頭におきましょう。

陳以平氏 医案

26歳男性。18年前に眼瞼に軽度の浮腫が生じた。肉眼的血尿は短期間で消失した。平時尿蛋白定性では(+~3+)尿沈渣で毎視野赤血球10個以上、過労や感冒のたびに尿所見は悪化した。

検査では白血球4.0x10の9乗/L(今後は日本での/立法ミリで表示します。4000),

?(ジーガン)=クレアチニン(分子量11368.07μmol/L尿素氮(ニャオスーダン)=尿素窒素(BUN分子量60)BUN3.5mmol/Lだった。

中国の医学検査数値の換算法

中国の単位はミリモル=1/1000モル、μモル=1/1000000モル/Lで記載されますので、見慣れたmg/dlに換算しなければなりません。1モルの分子量はBUN60、 クレアチニン113、カリウム 39、尿酸 168、ブドウ糖180などです。

クレアチニンの場合には68.07に0.0113を乗ずれば見慣れた0.769mg/dlに換算できます。

分子量が113ということは1モルが1131000mgです。単位がμmol/Lですので、68.07x0.000001を乗じ、dl換算でさらに10で割るという計算式になります。同様に

尿素氮(ニャオスーダン)=尿素窒素BUN3.5mmol/Lをmg/dlに換算する場合は、分子量の60x1000(mg)x3.50.001x0.1の計算式で21mg/dlとなります。どちらも正常範囲ですね。

BUNの単位がmmol/Lですから注意が必要です。μmol/Lの場合には小数点以下2桁から分子量、mmol/Lの場合には小数点以下から分子量を数値に乗ずればmg/dlに換算が可能です。

つまり、▲μmol/Lの場合は▲×分子量÷100、●mmol/Lの場合は●×分子量÷10によりmg/dlに変換できます。

24時間尿蛋白定量は1.5g C3 1.2/L(120mg/dlであり正常範囲です) IgG12.0g/LIgA4.4g/L

IgM 0.7g/L(それぞれ1200mg/dl, 440m/dl, 70mg/dlでありIgGIgAが増加しています)

胆固醇(ダングーチュン)5.28mmol/L(LDLコレステロール)(平均分子量を私は知らないのでmg/dlに換算できません。申し訳ありません。日本ではLDLコレステロール140mg/dl以上であれば悪玉コレステロールが高いと医師から指摘をうけます)

腎生検の結果

7個の糸球体を含む組織が得られた。(以下は私の意訳になります、中国では病理組織の解釈や表現において、日本と一部違いがあります)一部の糸球体ではメサンギウム領域の拡大があり、メサンギウム基質とメサンギウム細胞の軽度の増殖が認められた。糸球体毛細血管壁の肥厚は無かった。毛細血管内に透明な血栓を有する一部の糸球体存在した(糸球体の個数は記載なし)。糸球体の(管外性の)癒着は無かった。尿細管細胞の濁腫は無く、間質には明らかな繊維化、細胞浸潤は認めなかった。蛍光抗体法により、IgA(2+)IgG(+)IgM(+)C3(+)の糸球体沈着(メサンギウム領域)を認めた。軽度増殖性腎炎(IgA腎炎)と診断した。

中医弁証

腎病が慢性化すると腎気が欠耗し、腰酸疲乏症が出現する、虚は邪気を制することができず、外感にかかりやすく、熱邪が?絡すると、常に顕微鏡的血尿を見る。蛋白は人体の精華であり、流出が過ぎれば、腎陰欠耗となる。面色蒼白で舌質紅苔黄は気陰両虚の証がすでにあったので、先ず、益気養血、滋養腎陰の剤を与えた。服薬後、白血球は7000まで上昇した。尿蛋白はプラスマイナス程度に改善したが、顕微鏡学的血尿は毎視野1215であり、咽頭痛は残存し、舌質偏紅、苔薄黄であり、正気は次第に回復しつつあるも、上焦の蘊熱が未清であるので、滋陰清熱利湿の剤を再投与した。処方内容は、生地黄玄参炮山甲片各12牡丹皮 白朮 茯苓15鶏血藤蒲公英?菜花30g 服薬後咽頭痛は軽減し、尿検査では異常が見られなくなった。加えて24時間尿蛋白定量もマイナスとなった。引き続き、処方を継続している。1年後、尿検査正常、IgAは280mg/dlに減少。感冒にかかったが、まだ再発はしていない。

1985年中医雑誌 第8期)

使用された薬剤について補記します。

鶏血藤(けいけつとう)

活血化瘀薬のなかの温経祛瘀薬に分類されます。行血補血 舒筋活絡に作用し、特に慢性化した痹症に対して有効とされます。活血すると共に、補血にも作用します。舒筋活絡の作用は穏やかです。マメ科 Leguminosae Spatholobus suberectus DUNN 、同科のナツフジ属植物 Milettia dielsiana HARMS などの蔓茎ですが、切断面から鶏様の浸出液が出るものが良品とされます。苦温で帰経は肝です。日本では比較的潤沢に流通しています。

穿山甲(せんざんこう)

動物生薬で鹹微寒の性味を持ち、帰経は肝胃 功能は活血通経、下乳、消腫排膿です。現在ではワシントン条約で
取引が禁じられており、日本で購入や漢方薬としての服用はできません。海外で購入しても日本国内には持ち込み禁止ですし、取引
自体が国際法違反ですのでご注意ください。外見はアルマジロに似ています。鱗(ウロコ)を持つ唯一の哺乳類だそうです。

?菜花(中国名 ジーツァイフア)

甘涼の性味を持ち清熱解毒剤に属し、凉血止血;清利湿に作用します。日本では流通していません。

主治:痢疾、崩漏、尿血、叶血、咯血、衄血、赤白下とされます。野菜の一種ですが、その花の部分を生薬とします。野菜の方は「ワンタン」の材料になっています。

評析

IgA腎炎は糸球体腎炎で常見される。肉眼的血尿を症状は数日で治まるのが通常であるが、頑固な顕微鏡学的血尿が続き、蛋白尿を伴うようになるものがある。1/3の症例に波動性や持続性の高血圧を伴う。半数以上の患者でIgAの増加がある。IgGIgMはほとんど正常で、C3の低下もない。病理組織検査で確定診断がつく。予後は比較的良いが、20%の症例が腎機能低下に陥る。本医案は、陳氏は先ず益気養血、滋養腎陰剤を与え、後に滋陰清熱利湿剤として、生地黄、玄参、炮山甲など、滋養腎陰を堅持し、扶正祛邪、腎陰を充たすを以って腎陽も回復させ(付記:陰陽互根の基礎理論はある)、腎病が遂に癒えたのである。

ドクター康仁の感想

非常に効果があった治療であったことは認めなくてはなりませんが、日本で流通されていない野菜の花弁部分や、取引禁止のセンザンコウ(穿山甲)では、何を以って代用したらいいのか迷います。涼血祛瘀の観点からすれば、前述した鬼箭羽、馬鞭草も日本では流通されていません。入手しやすく使い易いのは虎杖丹参益母草蘇木などでありましょうか?それにしても評析中に、IgA腎炎が「遂に癒えた」というのはやや誇大な表現ではないのかと思います。加えて、中医弁証中にも評析にも「涼血」や「活血祛瘀」という表現が出現してこないのは意外です。いちいち言及しなくても中医なら常識だからでしょうか?故意に表現しなかった可能性もあります。本医案は標準的なIgA腎炎です。したがって、治療の反応性に個人差はあるでしょうが、一定の効果の再現性があるべき治療法と思うのです。もう少し、詳しいデータが欲しいところです。