本稿でこれからお話することは、現代の中国伝統医学(中医学)で慢性腎炎はどのように捉えられ、どのような生薬治療がおこなわれているかの総論です。
現在までIgA腎炎(腎症)21報、隠匿性腎炎について7報をアップしました。この中には急性発症型IgA腎炎もあれば、隠匿性腎炎に分類していいものか迷う症例もありましたし、いわゆる慢性腎炎の範疇に入るものもありました。中国医療現場では、腎炎の分類に関してまだ混乱があるものと推察します。
(一)慢性腎炎の概念 慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は多種の病因によって惹起され、その病理も多彩であるが、腎糸球体を原発とする疾患群である。臨床症状の特徴は、病程が長く、病状は緩慢に発展し、蛋白尿あるいは血尿、円柱を含む尿および程度の異なる高血圧、水腫(浮腫)と慢性の進行性腎機能障害である。本病の発生年齢はまちまちであるが、青年期が多い。急性腎炎が慢性腎炎に発展するものがあるとはいえ、大多数の慢性腎炎は組織病理分類によって病状が決定される。 (二)慢性腎炎の病因病理 大多数の慢性腎炎の病因は不明瞭である。急性の溶血性連鎖球菌感染後の腎炎が遷延して1年を越えれば慢性腎炎に転入するのは可能である。慢性腎炎の中には明確な急性腎炎の病歴を持つものは15~20%と少ない。
慢性腎炎は単一の独立疾患ではなく、発病のメカニズムは皆同じではない。大部分は免疫複合体(Immune complex 以下IC)病であり、循環血液中の可溶性ICの糸球体沈着によるものもあれば、或いは、抗原(外来性の生体に植えつけられた抗原、或いは腎糸球体固有の抗原)と対応する抗体が糸球体局部でICを形成し、補体などの炎症性メディエーターが関与し、組織損傷を惹き起こす。後期になり、IC由来の反応が終止し、非免疫性の腎傷害が慢性腎炎の発生と発展の中で一定の地位を占める。総合して言えば、以下のファクターが挙げられる。①腎糸球体病変が惹き起こす腎内の動脈硬化②血流力学による高ろ過(hyper-filtration)などが惹き起こす糸球体損傷③高血圧がもたらす加速的腎糸球体硬化④腎糸球体内の細胞増殖と、硬化。
以下の組織病理表現は日本のそれと異なっていますので、原文をそのまま載せます。 系膜増生性、膜性、系膜毛細管性、局灶硬化性などが、慢性糸球体腎炎の典型的な病理変化である。 (三) 慢性腎炎の臨床特徴
慢性腎炎は密かに発病し、進展は緩慢で、症状には軽重がさらに経時的に変化する。一般論では、病状は停滞せず、経時的に段々と発展して腎機能低下になる。その主要な臨床特徴は以下のようなものである。
1. 水腫 患者は程度の違う水腫を持つ。程度軽重があり、寛解期には完全に消退する。
2. 高血圧 慢性腎炎患者の一部分には高血圧症状があり、血圧上昇が持続性もあれば、間歇的に出現することもあり、拡張期血圧が90mmHg以上になることが特徴である。
3. 尿変化 蛋白尿が常見される。程度はプラスマイナスから4+で各人異なり、尿沈渣には中程度の赤血球、白血球と顆粒、硝子円柱があり、急性発作期には血尿が明らかになり、はなはだしい場合には肉眼的血尿を見る。
4. 貧血 慢性腎炎患者で水腫が著明な時に、軽度の貧血があり、血液希釈と関係するとも言える。臨床症状では、眩暈、乏力、心悸、面色蒼白、唇爪色が淡などである。
5. 腎機能不全 糸球体ろ過値(GFR)、クレアチニンクリアランスCcrが下降するのが主要な証候である。臨床上で少ない尿或いは無尿、悪心嘔吐、食欲減退、嗜睡、皮膚掻痒などの症状が出現する。
6. 合併症 (1)心筋傷害:高血圧、貧血と併発する動脈硬化などの多種の原因で惹起される。心臓拡大、心電図異常、不整脈、重症化すれば心不全となる。 (2)感染合併:慢性腎炎患者は免疫力の低下により容易に感染症を併発する。尿路、気道感染症が多見され、臨床症状が常に明らかでないことがあり、診断と治療が困難である。
(四)慢性腎炎の診断と鑑別診断
1.診断
典型的な慢性腎炎の診断は難しくなく、診断の主要な根拠は病歴と症状、検査所見で確診する。その診断基準は以下である。 (1)発病が緩慢で、病状が遷延し、臨床症状に軽重があり、或いは経時的に悪化する。病状の進行と共に、腎機能が低下し、貧血、血尿、電解質異常などが出現する。 (2)水腫、高血圧、蛋白尿、血尿および管型尿などを伴う。臨床表現は多種多様でネフローゼ症候群や重症高血圧を伴う場合もある。 (3)病程中に腎炎急性発作を見るものがあり、呼吸器道感染症の如き常因感染により、発作時には急性腎炎類似症状を呈する。一部には自然寛解するものもあれば、一部には病状が加重するものもある。 2.鑑別診断 慢性糸球体腎炎と以下の疾患鑑別 (1)慢性腎盂腎炎:慢性腎盂腎炎の晩期には大量の蛋白尿と高血圧を見ることがあり、鑑別が困難な場合がある。女性に多く、多くは泌尿器系感染症の病歴がある。腎機能障害は多くは尿細管型傷害を主として、過塩素酸中毒、低燐性腎性骨病もあるが、高窒素血症と尿毒症は比較的軽度で、進行は大変緩慢である。静脈性腎盂造影、放射性同位元素を使用するシンチグラムは有効な補助診断である。
(2)原発性高血圧症に続発する腎傷害:腎炎は青壮年期に多く発生する。高血圧症に続発する腎傷害は中年以上の病人に発生する。病歴が非常に重要である。高血圧が先に存在したのか、蛋白尿が先に存在したのかが、鑑別上重要である。高血圧症に続発する腎傷害患者では蛋白尿の程度は比較的軽度で、持続性血尿や赤血球円柱は稀であるが、腎機能の傷害が比較的重い。腎生検が有効な鑑別補助となる。原発性高血圧と最初に診断された症例の20%に、後に腎生検を経て慢性腎炎と確定診断を受ける症例がある。母集団の人数などの記載はありません。
(3)SLE腎炎:SLE腎炎(ループス性腎炎)の臨床症状と組織学的変化は慢性腎炎と類似するものがある。女性に好発し、発熱、皮疹、関節炎などの症状を示す。末梢血液細胞の減少、免疫グロブリンの増加、LE細胞と抗核抗体が陽性となる。血清補体は水平か減少する。腎の組織学的検査にてICの糸球体沈着を見る。IC中にはIgGが強く免疫蛍光検査で認められる。
(4)その他:過敏性紫斑病性腎炎、糖尿病性腎症、通風腎、多発性骨髄腫などによる続発性の腎傷害は、臨床症状は慢性腎炎と類似するものがあるが、これらの疾患には腎傷害の他に原病の症状があり、病歴を詳細に検討し、細心の検査により鑑別が可能である。 二、慢性腎炎に対する中医(学)的認識 原文では中医の認識です。
(一)病因病機
慢性腎炎は中医の「水腫」「腰痛」「虚労」の範疇に属する。本病の発生は外邪侵襲により、脾腎が内傷することによる。脾腎の効能が失調し、気陰虚損により、体内の水津散布、気化に傷害が発生し、水液が肌膚に泛溢して腫満をみる。よく見られる原因①潮湿の所に居住したり、水や暴雨の中を歩いて渡るような生活をしていると、水質が内侵し、或いは平素飲食不節により、湿が中焦に内蘊し、脾失健運になる。湿鬱加熱の如く、湿熱は中焦に蒸燻し、上に満ちて下に注ぐ、それで正気は更に虚損され症状は次第に加重されるようになる。②労倦傷脾となり、飢えや飽食の異常が加わると、脾気が日増しに虚損し、脾虚が腎に及び、脾腎両虚になる。③素体腎虚、或いは病後で体が弱って、腎気が内傷されていると、次第に腎陽不足となり、脾陽を温養うことが出来ずに、病状は加重する。 本病は初期には虚実挟雑であり、肺腎気虚、水湿内聚の証を見る。病状が進展すると、慢性化により傷陰となり、気陰両虚に転