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慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第5報

2013-01-26 00:15:00 | ブログ

黄振鳴氏医案 脾腎両虚 湿濁内停案

26歳女性。初診1989218日。病歴:患者は元来健康であったが、ここ2年来、生理前の腰のだるさと痛み。倦怠感、月経延長が出現した。今まで普通に仕事と生活をしてきていたが、1987年末の検査で尿蛋白(2+)赤血球(1+)顆粒円柱(+)で、某医院を受診して「隠匿性腎炎」と診断され、抗生物質とスロイドホルモンの投与を受けたが、病状は一進一退であった。最近感冒にかかり、食欲が思わしくなく、疲労、何を食べても不味く、口渇は無く、尿には泡沫が立ち、大便は時に軟便か下痢気味になった。検査では、面色蒼白、精気が感じられず、両下肢には明らかな浮腫はない。舌は淡胖、舌辺に歯痕があり、苔は白?、脈沈細であった。白血球7000好中球0.68、リンパ球0.32(単位が不明)赤血球320万、ヘモグロビン9g/dl 血小板13万血沈28mm/一時間、ASLO500単位、

尿素氮(ニャオスーダン)(尿素窒素BUN分子量60)BUN6mmol/L(=36mg/dl, 肌?(ジーガン)(クレアチニン分子量113134μmol/L(1.51mg/dl)

血清総蛋白7.5/dl アルブミン3g/dl AG1.5 尿検査:蛋白(2+)赤血球(+)顆粒円柱(+)。

弁証:脾腎両虚 湿濁内停治則:益気健脾、補腎化湿

お詫びと訂正

1モルの分子量はBUN60、 クレアチニン113

中国のモル濃度医学検査数値の換算法

中国の単位はmmolミリモル/L1/1000モル/L

μモル/L1/1000000モル/Lで記載されます。

一部前稿.に勘違いを発見しましたのでお詫びと訂正をいたします。

日本の医療現場で見慣れたmg/dlに換算する方法です。

?(ジーガン)クレアチニンμmol/L(分子量113の場合には1340.0113を乗ずれば見慣れた1.51mg/dlに換算できます。分子量を乗じて10000で割ることになります。(1131000mgx68.07x1/1000000x100/1000が計算式です。

尿素氮(ニャオスーダン)=尿素窒素BUN(分子量60)6mmol/Lをmg/dlに換算する場合は、(601000mgx6x1/1000x100/1000が計算式となります。36mg/dlになります。

以下が訂正内容です。

mmol/Lの場合は●×分子量÷10によりmg/dlに変換できます。

▲μmol/Lの場合は▲×分子量÷10000

分子量を覚えていれば計算できでるのですが、見慣れないものは嫌ですね。

本案のBUNもCreも正常域より上昇しています。腎機能の低下が疑われますね。

処方:黄耆30白朮18熟地黄18薏苡仁30赤小豆30土狗干?10山薬18崩大碗18黒大豆30g霊芝菌18g(霊芝の培養菌糸)

コメント:土狗干(?性味:咸寒で利水通便 活血化瘀に作用するらしいですが、まったく知りません。

崩大碗 苦、辛,寒 清利湿,解毒消 湿黄疸にも効能がある「植物」らしいのですが、まったく知りません。

                                       

再診:1990226日。7剤を服薬したところ、精神が良くなり、小便の泡も少なくなり、大便は正常になった。舌脈には特殊な変化は無かった。尿蛋白(+)、赤血球(+)さらに7剤を処方した。

第三診:199035日。生理時の腰痛がやや軽くなった。他に特殊な変化はなかった。尿蛋白(+)赤血球(3+)。上方に丹参 益母草15gを加え7剤処方した。

第四診:1990314日。月経が終わると体調が良くなった。精神は更に良くなった。舌は不紅だが、辺には歯痕があった。苔は白く、脈は沈細。尿蛋白(-)赤血球(-)血沈12mm/一時間値、赤血球400万、ヘモグロビン11/dl。加減方を60剤処方した。その後4回の尿検査で赤血球、蛋白共にマイナスであった。本院の消蛋白粥(内容については後述されている)を2ヶ月食べさせ、半年後に再検、再発は無い。

評析

本案の患者は食欲不振、疲労感、口が不味く、喉の渇きは無く、加えて面色が蒼白で、舌淡胖、舌辺に歯痕があり、苔が白?、脈沈弱など、皆脾腎両虚を示している。脾が健運を失い、湿濁が内停しているので、益気健脾、補腎利水の法を治療とする。方中、黄耆 白朮 霊芝菌は益気健脾に、熟地黄は滋補腎陰に山薬は補脾固精に、赤小豆、薏苡仁は祛湿解毒に、茯苓、黒大豆、土狗干は利水滲湿に、崩大碗は甘寒利水に働く。諸薬が合わさり、奏功したのである。消蛋白粥の組成は、黄耆30g薏苡仁30g赤小豆30g米30gに水を1500ml加え日に3度、一回2碗を食する。

ドクター康仁の印象

ケースレポートを医案とするなら、当初に投与されたステロイドの量と期間や抗生物質の種類はキチンと記載するべきであろう。また初診時にあった腎機能の低下はその後どうなったのか、最低でもBUN、Creのフォローがあってしかるべきである。治療に学び、使おうと思っても土狗干(?蛄)崩大碗に関しては、本場中国でも流通は極めて少ない。日本では皆無である。真似をしようとしても、真似ができないようなレポートは、本来は参考にはならないが、考え方の原則は参考にできる。消蛋白粥は真似ができるから「良しとする」医案であった。しかし、原方と平行させて消蛋白粥を食させたのか、そうでないのかも判然としない。併用時期が重なれば、黄耆は160gの大量になるのですが。


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第4報

2013-01-25 00:15:00 | ブログ

陳以平氏医案 気陰両虚 腎気不足案

32歳女性。初診日:20001023

患者は2年前に、外感後に肉眼的血尿が出現。尿蛋白(2+)抗生物質の経口投与にて肉眼的血尿は消失、尿検査では常に蛋白(1+)赤血球2~3毎視野、1日尿蛋白定量0.8g 尿蛋白は持続し、消えなかった。陳氏初診時には、明らかな身体的異常は無く、時に、疲労時に腰がだるく痛む程度で、苔は薄白、脈は細であった。

証は気陰両虚、腎気不足に属し、陳氏は清補方加減を以って治療した。

処方:党参丹参30薏苡仁30薏苡仁根30山薬15菟絲子15太子参30桑寄生15猪苓茯苓12g(猪苓は清書によって平とする記載もある)蓮肉30小石葦30杜仲15蒼朮白朮12魚腥草30

30剤を服用後、尿検査は正常化した。半年後に再診したが再発は無い。

評析

陳氏は隠匿性腎炎の中薬治療は弁証論治を主として方薬治療を行う。無症候性蛋白尿の弁証から、固?(固渋)腎精の品、金桜子 芡実 益智仁 烏梅 五味子 煅竜骨 煅牡蠣などを用いる。急性感染時には其の標を応急し、清熱解毒或いは芳香化湿の方剤を与え、邪去正安の目的とする。持続性の血尿に対しては、陳氏は慢性の久漏は「通」が宜しいと認識しており、血尿を見てすぐには止血しないで、活血祛瘀薬を応用し、血尿は緩やかに消失する(と認識している)。本案は蛋白尿が主であり、益気健脾、補腎固渋を論治の主体として治療目的とする。陳氏の認識は:祛瘀止血は隠匿性腎炎の血尿の主要治則で、清熱寧絡の他に更に固渋法を加えることが、隠匿性腎炎の蛋白尿、血尿に一定の効果があるとするものである。

ドクター康仁の印象

1日生薬の総重量は計算で348gである。30日分だと10kgを越える。とてつもない大量である。処方通りの量を持って帰るのも患者にとっては一苦労である。根や種子なら、ともかくも、魚腥草は乾燥した軽いドクダミの葉である130gがどのくらいの量(ガサ)になるのか、普通の家庭用土鍋では煎じきれる量ではない。毎日348gを料理用の寸胴鍋の類に入れて煮詰めて飲める量まで煎じるとは、想像するだけで気の毒になる。何か秘訣があるのだろうか?

陳以平氏は上海中医薬科大学系列の龍華病院の腎病指導教授です。ご紹介しておきます。

2013125日  記


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第3報

2013-01-24 03:00:00 | ブログ

時振声氏医案 外感風熱 迫血妄行案

42歳男性、1993107日初診。患者は1週間前、感冒発熱と肉眼的血尿が生じ、某医院でペニシリンを投与された。止血効果が不十分であり、遂に時氏を受診した。

所見:肉眼的血尿、咽頭痛を自覚、口干喜冷飲、腰が不快、頻尿無し、尿意切迫無し、排尿痛や尿路の刺激症状無し、大便乾燥、23日に一回、小便は新鮮肉を水で洗ったような紅色、舌紅苔薄黄、脈細数。尿検査で蛋白(プラスマイナス)潜血反応(4+)白血球1520個毎視野。

弁証は外感風熱 迫血妄行。疏風散熱 養陰涼血を補助として治療。銀蒲玄麦甘桔湯加味(金銀花 蒲公英各30g玄参15g麦冬10g甘草6g桔梗10g大小薊、白茅根各15g服薬2日後に肉眼的血尿は消失、咽頭痛は好転、服薬2週後での尿検査:蛋白(-)潜血(-)白血球(-)赤血球1~3毎視野。さらに2週服薬後に尿検査は正常になった。原方から大小薊を除き、さらに2週間治療を強めた。

現在に至るまで再発はない。(遼寧省中医雑誌1996年第2期)

評析

 隠匿性腎炎の臨床症状は無症候性蛋白尿或いは単純性血尿であり、中医学の尿血、溺血などの範疇に属する。その病機は外感風熱の際に、熱毒が肺に壅塞(ようそく)し、肺失宣降になり、水道不利になり、熱毒が腎絡(膀胱)を循経するために血尿が起こる。本案中、玄参 麦冬 甘草 桔梗は滋陰利咽に、金銀花 蒲公英は疏風清熱解毒に、大小薊 白茅根は涼血止血に作用して全体として効果が増強された。上焦の肺熱が清され、肺が宣発機能を回復すれば、下焦の水道は通調され、熱邪は自ずと去り、血尿も止まる。すなわち、清上治下の意味である。時氏は病機「伏其所主、必先其所因」「敵(病)に勝つためには、その原因を先に治す」を謹守している。疏風散熱、養陰涼血にて、清上にして治下となり、肉眼的血尿を急速に消失させ、顕微鏡学的血尿も非常に軽快させるのである。

ドクター康仁の印象

これも、隠匿性腎炎の範疇に入れていいものかと思う症例である。感冒発熱と、ほぼ同時に?肉眼的血尿が生じる場合には、私は、基本的に慢性腎炎が基本的に存在し、上気道感染で病状が悪化したのではないかと疑う。某医院でのペニシリンの投与は適切な処置であって間違いではないと思う。ただし、この症例も咽頭培養やASKASLOCRP、補体値などの検査、何よりも腎生検がなされていないので、ただ「講談風名文」である評析を読み感心するのみであるが、「完全には納得できない」ものを感じる。

2013124日 記


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第2報

2013-01-23 03:00:00 | ブログ

章真如氏 隠匿性腎炎の医案 陰虚火旺 血不帰経案

35歳女性、営業員。1990214日初診。主訴は小便に血が混じること1年余り。病歴:10891月、痛みも無く、頻尿も無く、小便に血が混じった。体を休めると、小便の色は淡になり、過労や感冒後、月経前後に血尿が頻繁になった。面色は蒼白、顔面浮腫が軽度にあり、下肢にも軽度の浮腫がある。腰腿が時に疲れやすくだるい、眼瞼の浮腫が比較的強い、某医院で検査をすると、尿沈渣で赤血球多数、蛋白(+)、診断は出血性腎炎で、抗生物質、止血剤の投与を受けた。ステロイドホルモンは使用しなかった。中薬治療を決定し、章氏の医院を受診した。

顔面無華 眼瞼浮腫 下肢の浮腫軽度、精神疲労、食欲が余り無く、多夢で睡眠が浅い。脈沈細、舌淡、苔薄白。尿検査で赤血球(3+)蛋白(2+)白血球(+)円柱が散見された。

診断:尿血(陰虚火旺)。治療:滋腎養陰 利尿止血 処方:知母 黄柏10g生地黄15g 山茱萸10g澤瀉10g山薬15g牡丹皮10g 茯苓10g 牛膝10g 白茅根30g 蓮節10g 花蕊石10g5剤、毎日1剤

221日再診:服用後、小便の量が増え、顔色は比較的良くなった、脈舌に変化は無く、原方を更に10剤処方。

コメント花蕊石(かずいせき)酸渋平 収斂ならびに化瘀止血薬に分類される。蛇紋石を含む大理石 Ophicalcite (主成分:炭酸カルシウムCaCO3・ケイ酸マグネシウムMg6Si4O10(OH)8) 帰経 肝

36日再診(三診):小便は正常になったという。精神的にも食欲も好転、顔面部、下肢の浮腫は消退。前方が有効と判断、さらに10剤処方。

324日(四診):顔色が大変改善、紅潤となった。尿検査で蛋白(+)その他は正常。1ヶ月間再発は無かった。患者は喜びを表情をし、煎じ薬が不便であると要求した。そこで、女貞子150旱蓮草150g黄耆150g当帰100gに蜂蜜500gを混ぜ、濃く煎じて膏剤を作成し、一日2回、一回1匙を水で服用するように指示した。

45日再診(5診):服薬中、過労時に1度再発があったが、軽いものであった。1週間で平常に戻ったという。尿検査では異常なかった。膏剤を更に前回量を処方。今のところ再発はない。

評析

尿中に血が混じる場合、尿血と血淋を分けて弁証する。臨床上、排尿痛が無いか、明らかでないものは尿血である。尿血と排尿困難や排尿痛を伴うものが血淋である。尿血の病位は腎と膀胱にある。その主要な病機は熱傷脈絡と脾腎不固である。熱傷脈絡の中には実熱と虚熱の違いがある。脾腎不固の中には脾虚と腎虚の区別がある。本案患者では、面色無華、眼瞼浮腫、精神疲労および舌淡苔薄白、脈沈細から、腎気虚衰、血不帰経と弁証できる。ゆえに、知柏地黄湯加減、滋陰補腎、瀉火利尿に白茅根、蓮節を加えて止血した。後に、黄耆、当帰、女貞子などで補気養陰し、症状が治癒したのである。

ドクター康仁の印象

本案を隠匿性腎炎の範疇に入れるのは疑問である。臨床的に見れば慢性腎炎である。日本の医療現場では、なにはともあれ腎生検を行うであろう。膀胱鏡も行うであろう。

前稿を再掲すれば、

(1)滋陰清熱、涼血止血法陰虚火旺証に活用する。臨床症状は。小便の色が赤く血を帯び、眩暈耳鳴り、腰膝酸軟、五心煩熱、大便乾燥。舌紅少苔、脈細弦(血尿が主要な症状である)。知柏地黄丸二至丸の加減を行う。(知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮 槐花 茯苓 山薬 赤芍 白茅根 旱蓮草 小薊 生甘草)。方中、知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮は滋陰清熱に、茯苓 山薬は健脾滲湿に、赤芍 白茅根 旱蓮草 槐花 小薊は涼血止血に、甘草は調和諸薬に作用する。湿熱を挟む者には、石葦 滑石を加え、瘀血を挟む者には益母草 丹参を加え、気虚には太子参 生黄耆を加える。

とある。

本医案には、眩暈耳鳴り、五心煩熱、大便乾燥。舌紅少苔、脈細弦の証は無かったといえる。したがって、ある程度、血尿に対するパターン化された治療方式なのかも知れない。ともかく第1剤は涼~微寒 寒薬が主体であることは確かであり、膏剤になって初めて黄耆や当帰の温薬が入っている。

 民族の違いなのか、医療制度の違いなのか、日本人の場合、なかなか本案のように旨く治療効果が出ないことは確かである。

 スパコンを使用して新薬の開発を行う日本のハイテクな医療現場と、天然資源物のみ使用して中医治療を行う、ある意味ローテクな中医の医療現場を比較してみると、腎炎の治療成績に関しては甲乙つけ難い。

2013122日 記


慢性腎炎(特にnon-IgA型腎炎)の漢方治療 第1報

2013-01-22 09:54:41 | ブログ

中国での「隠匿性腎子球腎炎(簡称 隠匿性腎炎」とは?

概念

隠(かく)れるの隠に、匿名の匿を加えての隠匿性(いんとくせい)腎炎であるので、別称の無症候性血尿、或いは無症候性蛋白尿という臨床診断名のほうが日本人には馴染みがある。患者は浮腫、高血圧、腎機能障害はない。健康診断で偶然に発見される場合が多い。現在のところ、①無症候性血尿②無症候性血尿及び蛋白尿③無症候性蛋白尿の3類に分類される。予後は良好である。中国では女性より男性が多く、発病年齢は2030歳である。

病因病理

病因は尚不明である。ある患者群は上気道感染症の後で、血尿が生じる。はなはだしい場合は肉眼的血尿を見る。ある患者群では溶血性連鎖球菌の感染との関係がある。糸球体の病理は、糸球体毛細血管の変化が軽微で、中等度あるいは限局的な細胞増殖が陰特性腎炎の典型的な特徴である。免疫病理表現では、IgA腎炎(腎病)と非IgA系膜増生腎糸球体腎炎に大別される。

臨床特徴

隠匿性腎炎は「隠匿」的に発病する。臨床症状はきわめて少ない。一般に浮腫は無く、高血圧症や腎機能の低下も無い。主要症状は尿の異常である。

1. 持続性蛋白尿

 1日尿蛋白は1g以下が多い。多くは2gを越えない。尿沈渣では顆粒円柱があり、顕微鏡学的血尿もあるが、何年にも渡ってその他の臨床症状が出現してくることは稀である。

2. 反復性発作肉眼的血尿

誘引となる発熱 咽頭炎 手術 過労 寒さに身体を暴露 薬物による損傷などにより、数時間から4日以内(多くは1~2日)に、突然に肉眼的血尿が生じる。数日後肉眼的血尿は消失するが、再発することがある。

3. 持続性蛋白尿と血尿

持続性蛋白尿のほかに顕微鏡学的血尿の程度が強く、誘引により血尿が加重する。時に軽度の浮腫や、一過性の血圧上昇も見られるが、誘引が去れば、もとの無症状(隠匿性)になる。この種の予後は一般的によくない。腎機能が低下し、腎不全に陥りやすい。

診断

診断基準は①持続性の軽度の蛋白尿があり、浮腫は無いが、高血圧や腎機能の異常がある。②反復性発作性血尿がある。発作後は血尿は消失する。腎結石、動脈硬化、腎腫瘍病変は無い③過去の腎炎の既往歴が参考になる。

鑑別診断

    効能性(機能性)蛋白尿

発熱や寒さに身体を暴露した場合や、高温、激しい運動などによって惹き起こされる軽度の蛋白尿であり、機能性蛋白尿と呼ばれる。この種の蛋白尿の特徴は、尿蛋白が少なく、退熱或いは休息により、蛋白尿が消失することが鑑別の助けになる。

    直立性(起立性)蛋白尿:直立の姿勢を長時間続けると出現し、夜間横になっている時には蛋白尿が消失する特徴がある。

    尿路結石、腫瘍:画像診断で確定できる。

    多種の全身性疾患による続発性蛋白尿、或いは血尿。元疾患の診断による。

コメント:以上の隠匿性腎炎の記載を見ると、いわゆる慢性腎炎の非IgA型全部を指し示しているのかと思いがちですが、慢性腎炎とは別物として清書に記載されています。腎炎の分類に、混乱があることは確かなようです。そこで、中医(漢方医)は、どのような診断を下して、どのような治療を行っているのか?を知る目的で本稿を進めたいと思います。

隠匿性腎炎の中医認識

1. 病因病機

隠匿性腎炎は中医の「腰痛」「尿血」「尿濁」「虚労」などの範疇に入る。その病因は、常に、素体不足、感受外邪、心火内盛、損傷血絡、或いは陰虚内熱、迫血妄行により血尿となる病機である。蛋白質は人体の精微物質であり、脾が成化し、腎が封蔵する。脾虚で升清が不能になると、精微物質は下注し、腎が封蔵できず、固摂が失調すると、精微物質は下に漏れて蛋白尿になる。慢性化すると気陰両虚、肝腎不足、脾腎両欠、瘀血内滞、湿熱阻滞などの虚実挟雑の証候が現れる。

 隠匿性腎炎の蛋白尿の形成は主に、脾腎の機能欠損による。摂精と蔵精の機能の失司により、精微下泄と関係があり、湿熱、風邪、血瘀も発病の重要な原因となる。血尿の形成は熱が血分に及び脈絡を傷することによるものが多く、病位は腎と膀胱にある。病初期には多くは熱証に属し、若し慢性化すると、気陰欠損、陰虚火旺になり、邪熱が気を消耗させ、陽も傷し、虚実挟雑の証を見る。

コメント:以上は中医学による病因病機であり、それ以上のものでも、それ以下のものでもありません。

2.弁証論治

1.弁証思路

隠匿性腎炎には明らかな浮腫や、高血圧性蛋白尿などの症状が無いので、臨床での中医弁証は、虚を主体にし、気虚、陰虚を主として弁証する。この他に、湿熱や湿濁の有無に注意する。弁証過程では虚実の判断、舌脈の両者を重んじる。

(1)弁虚実:病初期或いは湿によるものは多くは実に偏る;色欲にふけり、或いは心労が過度になり、或いは病が慢性化すると多くは虚に偏る。虚実の弁証があれば治療に間違いが無い。

(2)舌脈を重んじる。;本病の患者の身体症状は比較的少なく、病状の変化は常に舌、脈に反映される。陰虚者は舌質が嫩紅で苔は少なく、脈は細数、湿熱者は脈象は渇数で舌苔が黄?、脾腎気虚者は舌淡で脈は弱い。細やかに弁証するのが、調薬の要となる。

2. 論治原則

蛋白尿の病因病機は脾腎気の不足、脾失統摂、腎失封蔵、腎不蔵精、精気の外泄による。故に、健脾補腎固精法が慢性蛋白尿の主要法則となる。この他に、血尿が本病の主要症状の一つであり、多くは陰虚火旺、血熱妄行に因るので、滋陰清熱、涼血止血を行う。

3. 治法運用

(1)健脾益気、補腎固精法脾腎気虚証に活用する。臨床症状は、面色偏白、精神疲乏、夜間から午前中の軽度の顔面浮腫、腰酸、食欲減少、舌偏淡、脈細弱(蛋白尿が主要な症状である)。補中益気湯五子衍宗丸の加減を行う。(党参 黄耆 白朮 茯苓 陳皮 砂仁 枸杞子 菟絲子 覆盆子 金桜子)方中、党参 黄耆 白朮 茯苓は健脾益気;当帰は補血活血;陳皮 砂仁は理気醒脾、中焦の気機をスムーズにさせ、枸杞子 菟絲子 覆盆子 金桜子は補腎固精に作用する。尿血者には、小薊 白茅根を加え、瘀血を挟む者には益母草、川芎を加える。

(2)滋陰清熱、涼血止血法陰虚火旺証に活用する。臨床症状は。小便の色が赤く血を帯び、眩暈耳鳴り、腰膝酸軟、五心煩熱、大便乾燥。舌紅少苔、脈細弦(血尿が主要な症状である)。知柏地黄丸二至丸の加減を行う。(知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮 槐花 茯苓 山薬 赤芍 白茅根 旱蓮草 小薊 生甘草)。方中、知母 黄柏 生地黄 女貞子 牡丹皮は滋陰清熱に、茯苓 山薬は健脾滲湿に、赤芍 白茅根 旱蓮草 槐花 小薊は涼血止血に、甘草は調和諸薬に作用する。湿熱を挟む者には、石葦 滑石を加え、瘀血を挟む者には益母草 丹参を加え、気虚には太子参 生黄耆を加える。

(3)清熱利湿、分清別濁法湿熱内?(ないうん)証に活用する。臨床症状は、小便混濁、胸脘煩悶、口苦口干、或いは尿血を見る。舌は偏紅、苔は黄?、脈渇数。

萆薢(ひかい)分清飲加減を行う。(萆薢 黄柏 蒼朮 茯苓 車前子 石菖蒲 薏苡仁)。方中、萆薢は利水祛湿、分清別濁に、黄柏 蒼朮 車前子 石菖蒲 薏苡仁は清熱利湿に、石菖蒲は化濁利竅に、茯苓は利水滲湿に作用する。血尿には茜草 白茅根 小薊を、瘀血の証があれば、益母草、丹参を、蛋白尿があれば、蝉衣、芡実を加味する。

以上が中医の弁証論治の概要になりますが、脾腎気虚証、陰虚火旺証、瘀血証、湿熱内?(ないうん)証も、いずれも西洋医学的な定量的マーカーがあるわけでは無く、各中医の細やかな診察による診断(弁証)ということになります。中国留学中に、中医の先生方から「日本人はどうして証を立てられないのか?弁証できないのか?それでは、漢方治療の要(かなめ)が無いのと同じだ」と揶揄された記憶があります。

隠匿性腎炎に医案に続く

2013122日 ドクター康仁 記