黄振鳴氏医案 脾腎両虚 湿濁内停案
26歳女性。初診1989年2月18日。病歴:患者は元来健康であったが、ここ2年来、生理前の腰のだるさと痛み。倦怠感、月経延長が出現した。今まで普通に仕事と生活をしてきていたが、1987年末の検査で尿蛋白(2+)赤血球(1+)顆粒円柱(+)で、某医院を受診して「隠匿性腎炎」と診断され、抗生物質とスロイドホルモンの投与を受けたが、病状は一進一退であった。最近感冒にかかり、食欲が思わしくなく、疲労、何を食べても不味く、口渇は無く、尿には泡沫が立ち、大便は時に軟便か下痢気味になった。検査では、面色蒼白、精気が感じられず、両下肢には明らかな浮腫はない。舌は淡胖、舌辺に歯痕があり、苔は白?、脈沈細であった。白血球7000好中球0.68、リンパ球0.32(単位が不明)赤血球320万、ヘモグロビン9g/dl 血小板13万血沈28mm/一時間、ASLO500単位、
尿素氮(ニャオスーダン)(尿素窒素BUN分子量60)BUN6mmol/L(=36mg/dl), 肌?(ジーガン)(クレアチニン分子量113)134μmol/L(1.51mg/dl)
血清総蛋白7.5g/dl アルブミン3g/dl AG比1.5 尿検査:蛋白(2+)赤血球(+)顆粒円柱(+)。
弁証:脾腎両虚 湿濁内停。治則:益気健脾、補腎化湿
お詫びと訂正
1モルの分子量はBUN60、 クレアチニン113
中国のモル濃度医学検査数値の換算法
中国の単位はmmolミリモル/L=1/1000モル/L
μモル/L=1/1000000モル/Lで記載されます。
一部前稿.に勘違いを発見しましたのでお詫びと訂正をいたします。
日本の医療現場で見慣れたmg/dlに換算する方法です。
肌?(ジーガン)クレアチニンμmol/L(分子量113)の場合には134に0.0113を乗ずれば見慣れた1.51mg/dlに換算できます。分子量を乗じて10000で割ることになります。(113x1000mgx68.07x1/1000000)x100/1000が計算式です。
尿素氮(ニャオスーダン)=尿素窒素BUN(分子量60)6mmol/Lをmg/dlに換算する場合は、(60x1000mgx6x1/1000)x100/1000が計算式となります。36mg/dlになります。
以下が訂正内容です。
●mmol/Lの場合は●×分子量÷10によりmg/dlに変換できます。
▲μmol/Lの場合は▲×分子量÷10000
分子量を覚えていれば計算できでるのですが、見慣れないものは嫌ですね。
本案のBUNもCreも正常域より上昇しています。腎機能の低下が疑われますね。
処方:黄耆30g白朮18g熟地黄18g薏苡仁30g赤小豆30g土狗干(?蛄)10g山薬18g崩大碗18g黒大豆30g霊芝菌18g(霊芝の培養菌糸)
コメント:土狗干(?蛄)性味:咸寒で利水通便 活血化瘀に作用するらしいですが、まったく知りません。
崩大碗 苦、辛,寒 清熱利湿,解毒消腫 湿熱黄疸にも効能がある「植物」らしいのですが、まったく知りません。
再診:1990年2月26日。7剤を服薬したところ、精神が良くなり、小便の泡も少なくなり、大便は正常になった。舌脈には特殊な変化は無かった。尿蛋白(+)、赤血球(+)さらに7剤を処方した。
第三診:1990年3月5日。生理時の腰痛がやや軽くなった。他に特殊な変化はなかった。尿蛋白(+)赤血球(3+)。上方に丹参 益母草各15gを加え7剤処方した。
第四診:1990年3月14日。月経が終わると体調が良くなった。精神は更に良くなった。舌は不紅だが、辺には歯痕があった。苔は白く、脈は沈細。尿蛋白(-)赤血球(-)血沈12mm/一時間値、赤血球400万、ヘモグロビン11g/dl。加減方を60剤処方した。その後4回の尿検査で赤血球、蛋白共にマイナスであった。本院の消蛋白粥(内容については後述されている)を2ヶ月食べさせ、半年後に再検、再発は無い。
評析
本案の患者は食欲不振、疲労感、口が不味く、喉の渇きは無く、加えて面色が蒼白で、舌淡胖、舌辺に歯痕があり、苔が白?、脈沈弱など、皆脾腎両虚を示している。脾が健運を失い、湿濁が内停しているので、益気健脾、補腎利水の法を治療とする。方中、黄耆 白朮 霊芝菌は益気健脾に、熟地黄は滋補腎陰に山薬は補脾固精に、赤小豆、薏苡仁は祛湿解毒に、茯苓、黒大豆、土狗干は利水滲湿に、崩大碗は甘寒利水に働く。諸薬が合わさり、奏功したのである。消蛋白粥の組成は、黄耆30g薏苡仁30g赤小豆30g米30gに水を1500ml加え日に3度、一回2碗を食する。
ドクター康仁の印象
ケースレポートを医案とするなら、当初に投与されたステロイドの量と期間や抗生物質の種類はキチンと記載するべきであろう。また初診時にあった腎機能の低下はその後どうなったのか、最低でもBUN、Creのフォローがあってしかるべきである。治療に学び、使おうと思っても土狗干(?蛄)や崩大碗に関しては、本場中国でも流通は極めて少ない。日本では皆無である。真似をしようとしても、真似ができないようなレポートは、本来は参考にはならないが、考え方の原則は参考にできる。消蛋白粥は真似ができるから「良しとする」医案であった。しかし、原方と平行させて消蛋白粥を食させたのか、そうでないのかも判然としない。併用時期が重なれば、黄耆は1日60gの大量になるのですが。