gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療12報

2013-01-05 00:15:00 | 慢性腎炎 漢方治療

陳以平氏 医案2

45歳女性。1998年10月7日陳氏の腎内科受診。主訴は4ヶ月間の反復性蛋白尿と血尿(肉眼的か顕微鏡学的かの記載はなし)。現病歴:4ヶ月前に発熱、鼻閉鼻汁、咽頭痛が出現、自分で*百服寧を服用した。(付記:中国での一般市販薬のひとつ。百服寧の英文表記はBufferin Plus となっている。成分は1錠中、acetaminophen 500mg, caffeine 65mである。通常の感冒薬である)服用後、症状はやや治まったが、腰膝酸痛が強く、尿中に泡が立ち、顔色が*やや深く、それで近医を受診した。尿検査で蛋白(3+)潜血反応(+)であり入院となった。腎生検にてIgA腎炎と診断され、強的松(prednisone)と腎炎康復片、中薬煎じ薬(内容の記載はない)を投与された。(付記:prednisoneはステロイドホルモン、腎炎康復片は市販薬であり、山薬、丹参、白花蛇下草、生地黄、杜仲などを含む。)但し効果が明らかではなく、ここ1ヶ月の間、咽干、腰酸膝軟、全身乏力、午後潮熱、心煩急躁などや、眼瞼の浮腫が出現することがあり、食欲は普通だが、泡立ちを伴う顕微鏡学的血尿が持続し、大便は干結し排便に苦労し、睡眠が浅く、24時間蛋白尿は1.1gであり、血圧は正常。舌尖は紅、苔薄、舌体の辺には歯痕があり、脈は細数であった。陳氏受診時、尿蛋白定性2+沈渣赤血球毎視野4~6、白血球毎視野3~5。(付記:IgA腎炎としての血尿所見は酷いものではない。ただし一日尿蛋白が1gを越しているのは気にかかるところである。白血球が毎視野3~5というのはやや多すぎる)

以平氏弁証

脾腎両虚、陰精欠虚、陰虚陽亢、虚火灼傷脈絡、膀胱に血滲し持続的な顕微鏡学的血尿があり、腎虚精欠、臓腑が失充して不快な腰酸が出現し、陰虚内熱により午後潮熱を見る。心煩易躁、大便干結、夜寝不安、脈細数は心火亢盛の象である。

治則と使用生薬

健脾益腎、滋陰清熱、祛瘀止血を治方として、生地黄12金銀花蒼朮白朮茯苓15g、枸杞子20g、女貞子15g、旱蓮草15g、竜葵30g、知母黄柏9g、薏苡仁薏苡仁根30g、何首烏12g、生蒲黄(包煎)15g、参三七9g、槐花酸棗仁30gを煎じ、日に2回服用させた。14剤連続服用し、同時にprednisoneも併用(併用時のミリ数は記載なし)、金水宝13回一回3錠服用し、2週間後に再診した。

(付記:金水宝は冬虫夏草の培養・発酵エキス製剤とされる中成薬です。カプセル製剤が現在は中国国内で流通しています。近年投機筋が冬虫夏草や野山人参を投資対象としているために天然ものの価格が急騰しています。金水宝は比較的安価であるということで一般人に人気があります。本物の冬虫夏草は両手でかかえれば軽く200万円を越します。)

再診時の尿検査では蛋白+沈渣で赤血球毎視野2~4、白血球(-)であった。患者は口苦を自覚していたので、上記薬剤に龍胆草gを加え2ヶ月間継続服用させた。逐次、随証加減しprednisoneは漸減し、病状は安定した。199915日来院時には尿蛋白は25(mg/dlであろうか?単位の記載が無い)、赤血球毎視野0~2、24時間尿蛋白定量は0.75であり、腰痛の不快感は自覚するも、その他の症状は無くなっていた。処方に川断狗脊15gを加え、継続煎服した。prednisoneは6錠から3錠に減量した。さらに一ヵ月後再診、尿検査は正常であった。中薬は継続服用し、補益脾腎、清熱活血、免疫力の増強に重点をおいて(免疫力の増強の指標は示されてはいない)、prednisoneを減量し、維持量となった。(維持量の具体的数値の記載はない)半年後、再発は無い。

(遼寧中医雑誌 2001年 第4期)

評析

陳氏は、病程が長期化し、顕微鏡学的血尿や蛋白尿が持続する慢性腎炎の患者には、気虚挟瘀型あるいは陰虚挟瘀型が多く認められるとしている。故に、“祛瘀止血”が鍵(かぎ)となる治療方法となる。Focal (segmental) glomerular sclerosis(巣状糸球体硬化症FGS)では活血化瘀が治療の重点となり、増殖性腎炎には清熱解毒に重きを置くように治療の重点が異なってくる。祛瘀止血の中薬では、大小薊、益母草、馬鞭草、生蒲黄、茜草、穿山甲片、参三七などが先ず用いられる。急性感染の時期には“急則治其標”の原則に根拠に、清熱解毒或いは芳香化湿、清利湿熱の方剤を与え、上気道あるいは消化管、尿路感染を治療し、抗原の体内進入を出来るだけ減少させると、血尿や蛋白尿の改善が顕著で、病状の寛解に利し、邪去生安の目的に到達する。その他に、患者の全身的な陰陽平衡と臓腑機能の協調、免疫力の増強、患者の体質改善を重視し、扶正祛邪する。

ドクター康仁 後記

一口に「患者の全身的な陰陽平衡と臓腑機能の協調、免疫力の増強、患者の体質改善」と言うのは「言うは易し、行うは難し」です。西洋薬のステロイドにしても、免疫抑制剤にしても、決して「免疫力の増強」に適うものではないことは明らかです。したがって、「免疫力の増強」という定句的表現は「免疫力の調整」に変えた方がいいかもしれません。穿山甲片は前述したように日本では使用できません。参三七は田七人参です。私も多用しています。小生の過去の記事が多数ありますので参考になさってください。竜葵(中国語 ロンクイ)は果実を乾燥させて使用します。竜葵子あるいは龍葵子ともいいます。清熱解毒薬です。小生は抗がん生薬として使用します。腎病には使用経験はありません。龍葵子についても過去の記事がありますので参考になさってください。