午雪?氏医案 毒熱結熱案
(中国当代名医医案医話選より)
患者:?某 12歳 男児
初診年月日:1987年11月27日
主訴:眼瞼浮腫 小便混濁10日間
病歴:
1ヶ月前、全身と下肢に丘疹様の紫斑が出現、入院して「過敏性紫斑」と診断され、腹痛、便血を伴った。治療後好転して退院。初診の10余日前から、突然眼瞼浮腫、小便混濁が出現し、尿量は少なくなった。
尿検査:蛋白(+)赤血球(++)白血球(+)にて午氏の外来を受診した。
初診時所見:
発育中等、栄養やや不良、精神状態は一般のレベル、面色白、眼瞼浮腫、舌質紅、苔厚やや?、咽紅、脈滑数。
中医診断:紫斑病性腎炎 毒盛血熱型
治則:疏風清熱利湿 解毒涼血活血
処方:
白茅根30g 蝉衣9g 紫草9g 半枝蓮9g 大青葉10g 生地9g 白花蛇舌草12g 小薊10g 大薊9g 生甘草3g 水煎服用 25剤
経過:
上方服用中の期間は、病状は安定しており、小便も以前より量が増えたが、なお混濁があり、発作性の腹痛や、下肢には細かい出血点を認めたが、尿検査で蛋白及び赤血球は消失した。
12月21日再診:
ここ両日感冒、咳嗽があり病状が再発し、小便量が少なく、下肢には軽度の浮腫があり、舌質紅、苔白厚、咽紅、脈数。尿検査:蛋白(+) 赤血球(3+) 白血球(+)
診断:湿熱未解、風熱外邪を再度感受、肺失宣降
治療:先ず、清熱解毒、宣肺止咳兼利湿
処方:
魚腥草15g 黄芩6g 麻黄3g 杏仁6g 石膏10g 薄荷6g 白僵蚕6g 白茅根30g 小薊10g 沢蘭10g(コメント:活血化瘀利水消腫 微温) 蝉衣9g 生甘草4g 水煎服用
コメント:白僵蚕は熄風剤です。前稿87報の「風(ふう)」を思い出してください。
経過:
4剤服用後、感冒咳嗽は軽快した。尿検査で蛋白、赤血球 白血球無し。
舌質紅、苔やや厚、脈細数。
診断と治則:湿熱は漸退、清熱利湿を基本として補気活血の品で治療
処方:
白茅根30g蝉衣10g 地膚子10g 大青葉10g 小薊10g 厚朴6g 益母草10g
半枝蓮10g 黄耆10g 車前子8g 滑石10g 木通6g
コメント:厚朴の配合の意味は発作性の腹痛に対するものと考えられます。
木通の腎毒性については、当時はまだ強調されていませんでした。現代中国では「通草」で代用します。
1988年3月7日再診:
全身の紫斑は消失、腹痛減、浮腫消失、二便正常、小便、時に混濁あり、舌質紅、苔やや厚、脈数。尿ルーチン検査正常。
上方を7剤継続服用するように伝える。
半年後受診、病児は全快、腎炎の再発無し。
評析:
紫斑の発生は外感に因る、また内蔵虚損により発生することもある。但し、主要な病機は濁熱の邪が営分に入り、血が経脈を循環できなくなり、皮膚に溢れることに因る。
本案の患者の初期は実に属する熱に属し(コメント:実熱という意味です)、疏風清熱利湿、涼血止血、解毒を治療の主体とした。方中、白茅根 大青葉 半枝蓮 白花蛇舌草 滑石は均しく清熱解毒の品であり;地膚子 蝉衣は疏風清熱の品で、現代の薬理研究によれば抗アレルギー作用を有する;沢蘭 大小薊 生地等は涼血止血の品である。本病が慢性化して陰虚生内熱(コメント:虚熱という意味です)となると、出血による血虚が気虚を招来させ、さらに気虚が摂血不能に転じる;本病の出血後にさらに瘀血が内阻する、故に、治療の最後の段階では、生地 益母草、及び補気活血の品が治療効果を改善し、固めるのである。
ドクター康仁の印象
評析にコメントすれば、「沢蘭 大小薊 生地等は涼血止血の品である」とする箇所を、細かく言えば、「微温の沢蘭は活血化瘀に働き、寒薬の大小薊は涼血止血に働き、生地は養陰清熱に働く」となります。
「出血による血虚が気虚を招来させ、さらに気虚が摂血不能に転じる」という評析は中医基礎理論を理解していないと、理解しにくいのですが、
紫斑つまり出血が続くと、気虚になり、さらに気の基本作用の摂血(血を経脈内に留めておく作用)が出来なくなり、さらに出血を起こすという意味です。
2013年4月2日 記